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2005年度エッセイ

白金通信「紙上カウンセリングQ&A」より

大学生活になじんでいくには?

学生相談センター春学期の相談には、大学生活になじめないとか、この学校で自分は本当にいいのだろうか、もっと別の学校に行きたかった、という相談があります。
全国から集まってくる見ず知らずの人たちと友達になり、大学という慣れないシステムに適応してゆくには相当エネルギーがいるものです。まずまわりの人も自分と同じ不安を抱えているのだということに気づいて、ちょっとひと声、声をかけてみましょう。また大学のシステムがよくわからず不安という時には、遠慮なく学生課や学生相談センターを尋ねてください。力になれると思います。
学生相談センター(横浜校舎)の中にはアクティヴィティルームという部屋があって、誰でもくつろいですごせる場所があります。そこではお茶をのんだり、スタッフや出会った人とおしゃべりをしてすごすことができます。地方から出てきてはじめてのひとりでの生活、相談する人もおしゃべりする人もまだなくて・・・、という時には是非利用してみてください。特別な「相談」がなければ、学生相談センターに行ってはいけないんじゃないかと思う方もあるようですが、ちょっとしたことでも是非気軽に尋ねてください。
皆さん一人ひとりにとって充実した学生生活をすごしていかれるよう応援したいと思っています。

Q.私はどうしてもやりたいことがあり、行きたい学校があったのですが、そこは不合格でした。浪人してまで頑張ったのにと思うとこの学校が嫌とかではないのだけど、なんか自分が情けなくて、泣きたくなります。来年もう一度受けなおそうかと思ったりするのですが、まわりは皆反対しています。今のままでは、友達をつくる気持ちにもならないし、毎日とてもつらいです。

A.目標をもってがんばってきただけに、周りの人が言う程、簡単に気持ちの切り替えができるものではないですよね。身近な人(家族や友人)というのは、あなたへの「はやく元気になってほしい」という望みがあるので、あなたの今の思いをそのまま受け止めることがむずかしいのかもしれません。カウンセラーなどの第三者に自分の思いを、まとまらなくてもいいので思いっきり話してみませんか。そうすると、片付かない部屋のようになっていたあなたの心に、空間ができてきて、落ちついて考えることができるようになったり、新しいアイデアが生まれてきたりします。心に余裕ができると、この大学の中で興味をひくものや、尊敬できる先生、友人に出会っていきます。相談に来る前より生き生きと充実感をもってすごしていく先輩方が今までもたくさんいましたよ。
(白金通信2005年4月号「紙上カウンセリング」より転載)


五月病かな、と思ったら…

「五月病」という言葉があります。気分が滅入ったりやる気が出なくなってしまうこともある季節のようです。多分それはやっと春になって、4月から新しく色々なことが始まったので、がんばってやってきた分疲れが出ていることもあります。また慣れない環境で気を張ってきて、GWで気が抜けてしまったかもしれません。あるいは4月前から、大学に来ることが気が重くなっていて、最近益々辛くなっている場合もあると思います。貴方が悪いわけではなく、この時期は誰しもそういう気分になったりもする季節なのです。
でも自分が元気になれない分、やけに周りだけ盛り上がっているように感じて、取り残された気分になったりしていないでしょうか。それともどうでもいいやと投げやりな気分になってしまったりしていないでしょうか。
もし何かモヤモヤしていたら一人深く考えたり沈んでしまわないで、ぜひ学生相談センターにいらして下さい。話すことで少し気が晴れて前向きになれる場合もあると思います。どうせ話したって解決しないと思っていても、まず電話でご連絡ください。最初はスッキリしなくても、何回か話すうちに今まで気がつかなかったことが見えてきて、解決の糸口が見つかることも、実際あったりしますよ。
辛い時や気分が重たい時は考える余裕も持てなかったり、そういう気持ちや現状から逃げたくもなります。気持ちはとってもよくわかります。でもそれはかえって逆効果。結局モヤモヤ気分は晴れないし、何をどうしたらいいかなんて全然わからなくなってしまって、結局益々追い詰められたりします。そうなる前にぜひ連絡してください。
それから学生の皆さんには毎年抑うつ状態を調べるための「こころのセルフチェック」を配っています(健康相談所、学生相談センターでもらえます)。もしなんだかわからないけど、自分の状態が少しへんだと思った時は、セルフチェックをしてみて下さい。使い方は簡単です。12問の質問の答えに○をつけて、合計点を出します。最高点が12点ですが、6点以上の人は注意が必要です。こちらの方も心配な場合には一人で悩まず、ご連絡ください。
(白金通信2005年6月号「紙上カウンセリング」より転載)


「キレやすい」人へ

Q. 先日、授業が休講になったので家にいたところ、親から「何で大学に行ってないの?」と言われ、むかついたので怒鳴ったところ、口論になってしまいました。親は、昔からよく私のことを知りもしないくせにいろいろ言ってくるので、腹が立つのです。また、私は、友だちからもよく「怒りっぽい」「キレる」などと言われ、いったん親しくなっても、避けられがちで困っています。
A. 怒りは、人間のもっている感情のひとつです。誰でも怒ることがあります。
怒りはネガティブなものだと思われがちです。しかし、怒りは、相手との距離を測ったり、自分を守るために必要です。例えば、自分の目的を邪魔されたり、殴られたりすれば、私たちは怒りを感じます。もしそこで怒りを感じることがなかったら、それはそれで困難が生じますよね。
怒りを感じること自体はいいとか悪いとかではなく、ただ、怒りとどう付き合っていくかということが問題なのです。
まず、なぜ怒っているのかを考えることが大事です。自分が何に対して、どういうことで怒っているのか見つめることは、とても重要です。怒りを建設的に表現するためにも必要です。また、怒っている対象を自覚しないと怒りはどんどん蓄積されていき、それが「怒りの爆発」=「キレる」ことにつながるのです。
今回の場合ですと、あなたはどんなことに怒りを感じていますか。家にいる理由を聞きもしないで、いきなり叱られたことに腹が立ったのでしょうか。それとも、信頼されていないと思ったのでしょうか。きっとあなたなりの理由があるはずです。そして、ここでは、自分に対して正直であることが必要です。
そして次に、怒りを建設的に伝えるよう、考えてみてください。そのためには、主語を「私」「僕」などと自分にすることが大事です。「(相手が」いきなり言ってきたじゃないか!」というような、相手を主語にした発言は、警戒心を抱かせ怒りを招くことが多いです。それよりも「僕は休講だから家にいただけなのに、そんなふうに言われると゛ムカッ〝とくるよ」と伝えたほうがよいです。
また、あなたの場合、親御さんへの「分かってもらっていない」という長年の思いが募って、怒りの爆発につながっている可能性もあります。自分自身の怒りを見つめつつ、親御さんとの関係について振り返ってみるといいかもしれません。
ここでは、ほんの一例だけを挙げました。怒りとうまく付き合っていくための考え方や方法は他にもあります。よろしければ学生相談センターにお越しください。より詳しく話をうかがい、あなたの気持ちや状況を踏まえて、一緒に考えていくことができると思います。
(白金通信2005年8月号「紙上カウンセリング」より転載)


進路選択に悩む学生への保護者のサポート

Q.3年生になる子どもの進路選択について、親としてどのように協力していったらよいのでしょうか。
A.まず、ここでは就職を巡る進路選択という話に限定したいと思います。就職しない場合にも応用可能だからです。
どの学生も大学生になるまでに大小様々な自己決定を経験しているはずですが、就職は多くの学生にとって経済的自立の契機にもなるので、決定に関する重圧も大きくなるようです。
経済的に安定した生活は、精神衛生上欠かせないものの一つです。しかし、この不確実で移ろいやすい現代社会において、一つの会社組織が長期間安定するかどうかを予測するのはなかなか困難でしょう。
一方、かなり安定が見込まれる職場に就職が内定した場合でも、自分の定年退職までの姿がありありと見えてしまうことがあり、果たしてそうした職場で希望を維持していけるかどうか、そういった問題もあることを忘れないようにしたいものです。
上記のことを念頭におき、保護者が子の進路選択をどうサポートするかという問いに帰ると、おそらく、子の進路選択を試行錯誤行動と見なすと状況に応じて役に立つサポート方法を思いつきやすいでしょう。
例えば、これまでの人生で試行錯誤体験が少ない学生は、自分が何をしたいか何に向いているかさっぱりわからないかもしれません。
そういう学生は、将来への様々な想い描きからスタートすることが多いでしょう。その内容がいかに非現実的であっても良いのです。想い描き自体を一つの試行錯誤と見なして大人が対応していくと、最終的には現実との折り合いをつけた選択に収束していくことが多いように思われます。
また、明確に進路方向が決まっている学生でも、当人の努力だけではどうにもならない就職活動の中で、例えば、うまくいかない原因を自分の不足に帰して過剰に自己嫌悪的になり意欲が萎えたりする場合があります。精神的視野の狭窄状態です。
そうした時に保護者が、就職活動は人生における試行錯誤のひとつに過ぎないという視点をもっていると、子に助言しやすいでしょうし、当人もやがてそれを生かしていけるようになるかもしれません。
どちらの例も、学生が進路選択に関して試行錯誤行動が取れなくなっている事態であると一括りできるでしょう。子が進路選択に関して試行錯誤が取れない状態に陥っている時に、それがまた動き出すように対応することが保護者のサポートだと言えるのかもしれません。
学生が自由に試行錯誤できてい時に余計な口を出すことは、サポートどころか当人に対する不信感の表明となってしまい、新たな試行錯誤阻害要因になってしまうので注意が必要かもしれません。それでは甘すぎる、というお叱りの声が聴こえてきそうです。
そういう方には、2004年総自殺者数3万2325人(2005年6月警察庁)に目を向けていただきたいと思います。
試行錯誤という視点の有用性は、人生の岐路において自分に合った方向に舵をとる能力を育成するところにあるのです。
(白金通信2005年11月号「紙上カウンセリング」より転載)


かけがえのない存在

Q.生きているのが辛く感じます。何もかも思うようにはいかないし、希望を持てません。こんなことならいっそ生きるのをやめてしまいたい、とさえ思ってしまいます。(架空の相談)
A.1月は試験や卒論・レポート提出といった大きな課題があり、学生の皆さんにとってはとても辛い時期です。もし今回の架空の相談のような切羽詰った気持ちを抱えている方がいらしたら、カウンセラーとしてお伝えしたいことがあります。
相談された気持ちを「そんなことおもいつめたら無駄!」と否定されても、「とりあえず明るく楽しいことを考えようよ!」、「頑張って!」と励まされても、ご本人の苦しさは簡単に薄れてはいかないでしょう。
まるで暗い人気のない夜道を一人であてどなくさ迷う気持ち。人は皆寂しく孤独です。生まれてきたこと自体不安です。そして私たちは皆いつか死すべき存在として規定されています。。
ゴールは決まっており、自ら変更することは規則違反なのです。そのゴールの前に生きている証を作りたいとあがくのが人生なのかもしれません。急がずともいつかは必ずゴールする時が来ます。その前に絶望を少しだけ横において、この世の中で何かを分かち合える人を探して欲しいのです。
あなたに、もしものことがあればとても悲しむ人がいます。どうかその人を思い出してください。そんな人いないよ、と決め付けないでください。あなたの存在はあなた一人のものではありません。不思議なことですが、あなたの気づかないどこかで、あなたを見つめ、必要とし、心配している人がいるのです。あなたの替わりはいません。かけがえのない存在です。どうか独りで急いで決めてしまわないでください。
あなたが失望していること世は今日までのこの世でしかありません。明日からのことは今この時からあなたと誰かとで作り上げてゆけるものです。
「なんて楽観的な!」と怒りたい気持ち、「届かない…」と虚しくなる気持ち、あなたの中にわいてくる色々な気持ちを誰かに伝えてください。24時間のいのちの電話、受話器の向こうには生身の誰かが精一杯あなたの気持ちに耳を傾けています。学生相談センターの私たちも、あなたの来室、電話を心からお待ちしています。友人、先生、あなたの心に浮かんだその人にコンタクトを取ってみてください。人を失望させるのも傷つけるのも人ですが、人の痛みを癒すのもまた人だと思うのです。どうか誰かにあなたの辛い気持ちを伝えてみてください。
(白金通信2006年1月号「紙上カウンセリング」より転載)


新しい季節への期待と不安

Q.毎年春先になると、なぜか気分が落ち込みます。今年ももうすぐ春になり、新しい学年を迎えます。今年こそ、去年のようにはならずに、何でも前向きに取り組みたいと思っているのですが、また落ち込むのではないかと今から不安です。
A.春は出発の季節です。大学でも、入学や卒業や就職、といった華やかなイメージの目立つときです。また春が近づくと空気も暖かくなり、街行く人の服装も明るく変化します。
そんな中、周囲の希望に満ちたムードについていけないと感じて、自分だけが置いていかれるように思ったり、わけもなく不安に感じたりする人もいるようです。また、「今年こそは」と思うあまり、自らにプレッシャーをかけてしまうところもあるのではないでしょうか。
この方の質問にもあるように、「毎年この時期に気分の波がある」と気づくことは、自分を知る上でとても大切なことだと思われます。実は、「気分の波」というのが季節によって変動することは医学的にも認められていることです。その程度がひどく、日常生活に差し支えるようであれば、学内の学生相談センターや健康相談所、医療機関で専門家に相談することも必要です。気分の落ち込みそのものと同時に、食欲や睡眠のリズムが乱れていないかも、状態の目安となります。
また、専門家の助けを借りるほどではない場合でも、自分自身で何が不安なのかを見つめ直すことで、毎年の同じパターンをくり返さずにすむことも可能です。
たとえば春先になると、「今年こそ」と思うあまり、一気に新しいことを始めてしまい、エネルギーを使い果たしてしまう人もいるかもしれません。あるいは、急に周りのことが気になり始め、他の人よりも自分自身が劣っているように感じて、これではダメだと焦りだす人もいるかもしれません。なにかその時期に特有のストレスが、自分の生活の中に存在しているのかもしれません。
また、実際に生活の変化や、卒業、就職、進学といったターニングポイントに差し掛かっている人の場合、そこには新生活への希望と同時に不安もあって当然のことです。不安を無理に打ち消さず、自分のありのままの気持ちと向かい合うことや、同じような状況の友人や、先輩、両親などと話し合えることも助けになるはずです。相談者のように、「去年はダメだった。今年こそ」と思っている人も、一人で自分自身を追い詰めても良い方向には行きません。その気づきを生かし、去年とは違った方向を探るために学生相談センターへの相談を選択肢のひとつに加えてみてはいかがですか。
白金通信2006年3月号「紙上カウンセリング」より転載)

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