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2009年度エッセイ

白金通信「カウンセリング」およびポートヘボンお知らせより

保護者のご相談にも応じます

Q. 本人はこれまで生活の乱れから大学を休みがちで、新学期が始まったもののきちんと通えるかどうか心配しています。そのようなときに本人ではなく、親が学生相談センター(以下、センター)に相談することはできますか?(架空相談)
A. 大学生活はそれまでの学校生活と比べて自由度が大きいだけに、一旦その軌道からはずれてしまうとなかなか修正が効きにくいところがあります。また大学時代は学業に加えて、卒業後に社会の中にどのように自分を位置づけるかという、必ずしも正解のない、悩ましい課題に取り組むことも求められます。このような状況の中で自分を見失い、現実逃避して大学から足が遠のいてしまったり、生活リズムが乱れて無為な生活に陥ってしまう場合があります。
このようなときセンターでは学生の皆さんができるだけスムーズに大学生活に適応し、実りのある生活を送れるように、臨床心理士の資格をもったカウンセラーがカウンセリングや環境調整等のサポート活動を行っています。学生本人に関することであれば、もちろん保護者からのご相談にも応じています。上述のケースのように本人が大学に来られなかったり、あるいは相談することに躊躇している場合に、様子を心配した保護者からまずご相談があるということは実はよくあることなのです。
カウンセラーはご相談を受けると、問題の経過や現状についてお話をうかがった上で、ごいっしょに問題を整理し、対応を考えるという作業を行います。その結果、精神的不調、家庭の状況等によって大学生活に取り組むだけのエネルギーが出ないのももっともだ、少し長い目で見守る必要があると判断される場合もあれば、本人にもう少し厳しく現実を直面化し、危機感をもってもらう対応が必要と判断される場合もあります。もちろん一概にどちらともいえないという場合もあり、また問題の改善に長い時間を要することもしばしばですが、相談することで閉塞感が和らいだり、方向性が見えてきて、保護者ご自身の不安が少し取り除かれ、それが本人にもよい影響を及ぼすということも多いように思われます。
ちなみにセンターでは毎年60~70件のご家族からのご相談に対応しています。来室相談、電話相談のどちらにも応じています。ご相談の申し込み、ご質問等、ご遠慮なくお問い合わせください。
(白金通信2009年4月号「カウンセリング」より転載)

五月に入って

4月にはいたるところ人であふれていたキャンパスも、このごろはようやく落ち着きを取り戻してきたように見えます。とりわけ今年入学した1年生の皆さんにとっては、新しい環境に慣れていかなければいけなかった4月が過ぎ、5月の連休でほっと一息ついたあと、だんだん学生生活が軌道に乗り始めてきたと思える時期ではないでしょうか。けれども、どうも思い描いていた大学生活と様子が違うことが気になってしまったり、まわりに比べて自分だけが置いていかれたり、取り残されているのではないかと思ったりしている人もいるかもしれません。この時期は、ひと段落着いて、まわりや自分のことを考え始めることが出来る分、ともすると焦りや疲労もでてきやすい時期だといえるでしょう。
また、1年生だけでなく、4月は誰にとっても多かれ少なかれ変化の時期だと思います。2、3年生では、校舎が横浜から白金に変わった人も多いでしょうし、なかにはそれに伴って転居した人もいたでしょう。4年生の皆さんは就職、卒業という課題に本格的に取り組みはじめたのではないでしょうか。そうした変化のあと、自分の思い描いていたように事が進んでないなと思ったり、うまく乗り切れなかったなと感じている方もいるのではないでしょうか。そんな思いを一人で抱え込みすぎてもあまり良いことはないようです。誰かに話すことから始めることでみえてくることもあると思います。変化の時期のあとは、こころやからだの不調が出やすい時期でもあります。不安や気持ちの落ち込み、不眠や食欲不振など気がかりなことがあったら一度、学生相談センターにいらしてみたらいかがでしょうか。
(ポートヘボン「お知らせ」(5月)より転載)


人間関係にある辛さと学び

Q. 友人が、「周囲から悪口を言われている」と思いつめています。最近では、私のことも疑うようになってきました。私にとって大学での数少ない友人なので、このまま一人ぼっちになってしまうのではないか、とても不安です。(架空相談)
A. 大学入学を果たした学生の皆さんにとって、どんな友人とどんな付き合いをしていくかは大きな関心事の一つでしょう。学生相談センターが2007年度に行った『学生生活とメンタルヘルスに関する調査』では、「本学に入学して満足を感じる理由」に、「(大学で得た)人間関係」が最も多く挙げられていますし、「生きていく上で支えにしていること」では家族・恋人・友人といった周囲との「人間関係」が最多でした。中高生の多感な時期に培う友情はチャム・シップと言われ、人間の成長にとって意味深いものとされていますが、大学生になったからといって友情の意味が薄れる訳ではありません。社会の中での自分つくりが求められるこの時期、それまでとは異なった意味合いで、支え合う人間関係は大切なものとなります。
相談者の友人は、周囲への不信感に苦しんでいらっしゃるようです。「悪口」の具体的な経過や状況は明らかではありませんが、周囲からの孤立感のようなもので精神的に追い詰められているようですね。和少ない信頼できる友であった相談者への疑念は広がっているようです。友人にとって、苦境が深刻化しているとも取ることができます。
相談者も辛い気持ちと思いますが、どうか友人の苦しさに共感した上で、少しでも楽になるために、少しでも力になってくれる人を得るために、学生相談センターへの来談を勧めてみてください。本人が一人では不安がる場合、一緒に付き添ってあげることも良いかもしれません。本人の来談が難しい場合、友人についての相談として、まず相談者が一人で来談してくださることも有効と思われます。相談者が友人にどう接すると良いか、誰に協力を仰ぐことが可能か、カウンセラーと一緒に考えていくことができます。そしてまた、相談の文章に垣間見える相談者自身の人間関係への不安(一人ぼっちになる不安)についてカウンセラーと話し合うことは、友人にとっても相談者自身にとっても、現状の捉え直しと解決の糸口につながるのではないかと思います。
(白金通信2009年7月号「カウンセリング」より転載)

大学3年の夏、いちばん静かな海。

大学1年生。思い描きに溢れていて、そのぶん、失望も多く、走っては転び、また起き上がって走り出そうとする姿がなんとも微笑ましい。2年生の夏。それなりにジタバタし終わって、それなりに自分の立ち居地の感触も得ていて、余裕がある。時として弛緩している。そこがいい、お好きになさい。きっと大丈夫です。大学3年の夏、大学生活の終わりも意識しはじめて、後戻りできないピリッとした緊張感があって、とてもいい。その調子です、その方針で行きましょう、いや、よくやっていると思います。実を結びますように。そして4年の夏。いささかパセティックになり過ぎていませんか。いや、無理ないと思います。「誰だってみんな自分の生活がいちばん大事になってくるよ」「そうかしらん。でも、あたし、そんな風になりたくない」そんな人の世のやりきれなさを分かち合えるような気がします。ぐっと大人になられたのでしょうね。道が開かれることを祈っています。
これは、あくまで私の大学生に対する雑感です。思い切って均すとこんな感じでしょうか。で、結局、何が言いたいのか。間を全部端折ると、それは、「何事にも時がある」という紀元前から言われている知恵のことです。「生まれる時、死ぬ時」、「破壊するとき、建てるとき」、「抱擁の時、抱擁を遠ざける時」、「求める時、失う時」、「保つ時、放つ時」、「愛するとき、憎むとき」。自分を見失っているとき、それに気づいて、少し立ち止まって、自分にとって今はどんな時か、を自問してみる。それを可能にする場を少しでも提供したい、カウンセリングにはそういう面があります。
人がそれぞれ生きている姿は具体的で生々しいものです。言葉にならないときが当然あるでしょうし、言葉にしたくないときもあるでしょう。しかし、語らずにいられない、語ったほうがいいときもあるかもしれません。誰にも話せない孤独が、分かち合える人の大切さを知るきっかけとなる場合もあり、上滑る言葉が溢れるなかで初めて孤独を味わう場合もあります。
本ばかり読んでいる夏とか、映画ばかり見ている夏とかあってもぜんぜん悪くないんじゃないか、と思います。飽きてきたら潮時です。時を見失わないようにしたいですね。ちなみにタイトルは、映画「あの夏、いちばん静かな海」にこじつけただけで、特に意味はないです。
(ポートヘボン「お知らせ」(8月)より転載)


友達との親密性って難しい

Q. 入学当初から自分なりに友達を作り、サークルにも入り夏休みはバイトもしましたが充実感がありません。最近周りに合わせすぎている自分に気づきました。何でも話せる友達が大学にはいないし、皆に合わせるのも気が重くなりました。一方どこにいても馴染めない、打ち解けない感じがして寂しくなる時があり、自分の性格の問題かもしれないと悩んでいます。(架空相談)
A. 1年生に限らないのですが、4~6月は自分なりの「楽しい大学生活」のイメージに照らし合わせて時間をアレンジし、ちょっと自分に無理をして周囲に調子を合わせたりする時期なのでしょう。例えば友人同士のちょっとした会話でも、コンパの席でも。いつも明るい笑顔で軽く冗談を言い調子を合わせる。そんな会話ができればどんな場面でも受け入れられ、人気の芸能人のように卒なく多くの人とのコミュニケーションに参加できるはずです。さらには携帯に、より多くの友達を登録し、いつでも誰かからメールが入らないと心配になる。そんな友達関係を求める人も少なくないはずです。でもこれで充実した人間関係を持てているといえるでしょうか。それでは表面的だと疑問に思う人もいるはずです。対人関係というのは、少し重い話であっても自己開示することで相手との親密度がぐっと増してくるものなのでしょう。でもそれは、自分の弱い部分を相手に委ねることになるわけですから、信頼関係が感じられないとできないことですね。ですから最近は、重くなりがちな話は仲のいい友達にはしない、代わりに学生相談センターのような第三者に相談するという人が多くなってきたように思えます。
また親密な友人ができると、相手のペースに合わせなければならず、それが煩わしいと思うこともでてくるようです。友達は煩わしい。でも独りは寂しい。勝手な言い分のようですが、人の心は案外こんな風に働くものかもしれません。もともと「絆」という字は、「きずな」と読むと聞こえがいいのですが、読み方によって「絆し(ほだし)」にもなります。「ほだし」は自由を束縛するものを意味します。「情にほだされる」という言葉にも含まれるとおり、親密な関係のネガティブな面を表しているのです。そんな中で、私たちは一人一人が自分なりのバランスを求めて悪戦苦闘しているわけです。
時に自分の人間関係の持ち方を振り返ってみる。そんな折に学生相談センターを利用してみられてはいかがでしょうか。
(白金通信2009年10月号「カウンセリング」より転載)

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