「留学先での心の健康」
Q.私はこれから留学する予定です。とても楽しみなのですが、もともと環境の変化に弱いところがあり、不安もあります。
留学を充実して過ごすためのアドバイスをお願いします。(架空相談)
A.語学力を高め、異文化への知見を深め、人間関係も広げたい…。皆さんは留学によって能力を高め、成長することを目指していると思います。これを留学の表のミッションとすると、留学にはもう一つ大事な裏のミッションがあります。
留学の裏ミッション
その裏のミッションとは、留学先で遭遇するさまざまなリスクを適切にマネージし、無事に帰国するというものです。留学ではどうしても表のミッションに意識が向きがちですが、裏のミッションをしっかりと認識しておくことが重要です。なぜならその遂行なしには充実した留学生活はあり得ないからです。
留学当初は数多の目新しい体験の中、新しい環境への反応として緊張、高揚状態が続きます。しかしその後1~2ヶ月ほどすると、エネルギーの低下が必ず生じ、現実が見えてきます。
語学力が不足して会話の中に入れない、授業の内容が理解できず、課題に対応できない、日常の手続きで右往左往する、ルームメイトと相性が合わない、気軽に愚痴を言える友だちが身近にいない、などなど。留学して1~2ヶ月後に誰もが経験するこれらの危機に対処することが、あなたに課せられた最初の裏ミッションです。
裏ミッション遂行のための心得
この裏ミッション遂行の心得として「自分の特性を知る」、「等身大の自分を受け入れる」、「無理をしない」ことを挙げておきます。
上述のような自信喪失や困難は誰もが経験することを理解して受け入れ、背伸びをして過剰に適応しようとしないこと、自分のペースを守ることが大切です。
お気に入りの音楽を聴く、ゆっくり入浴する、ゲームで憂さ晴らし、友達や家族に愚痴を吐き出す、など、これまで普段あなたが行ってきたストレス・マネジメント方法を意識して活用しましょう。
また語学力を磨くこと以外に今からできる準備として、自分がストレスを感じやすい状況の振り返りをお勧めします。
例えば、調和を大切にし、自分を抑えがちな人は、関係がこじれたり、別離を体験することにストレスを感じやすく、身体的症状を呈しやすい傾向があります。ホームシックになりやすいのもこのタイプの人です。留学後も実家との連絡を密に取ることを心がけてください。
(「白金通信」7月号より転載)
「あ~した天気になぁ~れ」 ~心の嵐を耐え抜く秘訣?~
Q:秋はいつも感傷的になりますが、最近バイトで理不尽に叱られることが続き、そのせいか急に泣きたくなったり、苛々して家族に当たってしまう自分が嫌で仕方ありません。
A:季節の変わり目は自律神経が乱れやすく、お天気など外的刺激の影響を受けて情緒不安定になることは珍しくありません。気候の安定とともに気持ちも落ち着くことと思います。ただ、原因がバイトにもあり、感情の揺れが大きすぎたり物事や人間関係に支障が出るようだと困りますね。ストレスは上手に解消できていますか?
<適応的な発散を心がける>
カタルシスという言葉をご存知でしょうか。気持ちを上手に吐き出すと心が浄化される作用のことを言います。その方法として友達に聞いてもらう、日記に書く、気持ちにフィットした歌を歌いまくる、悲しい映画を観て思い切り泣く、などはよく聞く例でしょう。
但し、怒りや不満などの強い感情は出し方によっては人を傷つける怖れがあるので扱いが難しく、人間関係の中で解消しようとすればそれなりの社会性が求められます。相手に直接抗議するにせよ誰かに愚痴を聞いてもらうにせよ、コントロールできずにぶつけるだけでは聞く側も受け止め切れません。あなたはそれが苦手で上手く発散できないのでしょうか。でもバッティングセンターで、その人に見立てたボールを打ちまくっても、誰にも迷惑かけないし誰も傷つきませんよね。
<心は自由と心得る>
ただ、事の本質はもっと別のところにあるのかもしれません。例えば、泣いたり腹を立てている自分が許せず、泣いてしまう自分は弱いとか、怒ってばかりの自分は心が狭い冷たい人間に思えてしまうのではありませんか。
ですが、嫌なことがあったり理不尽に叱られたら、傷ついて泣きたくなるのも反省する前に怒りたくなるのも自然な気持ちです。心の中は自由で何を感じてもいいはずなのに、負の感情を感じる自分に対して嫌悪感や罪悪感を抱いてしまうと、発散どころか自分の存在自体が揺らぎかねません。泣きたいのも怒りたいのも人間だからこそと認められればと思います。
目の前の問題も負の感情も永遠に続くわけではなく、嵐はいつか去ります。とはいえ、それまでの時間をどう過ごすかは重要な問題ですね。大抵の人は自分なりのやり方で気持ちを発散し、一時的にでもスッキリしたりやり過ごしたりしながら事態が好転する「時」を待っているように思います。そのためにも負の感情を抱くことに肯定的でいられることが大切なように思います。
(「白金通信」10月号より転載)
「幸せ」と「依存症」―スマホ愛・ゲーム愛が強すぎるあなたへ―
☆彡 こんにちは。いきなりですが、幸せについての質問です。
Q1 「〇〇っていいな。幸せな気分になる。〇〇のない生活はありえない。」 〇〇に何を入れたら、自分にぴったりきますか?A群の中にはありますか?
A群 ①おいしい食べ物 ②すてきな音楽 ③美しい顔 ④良い評判を得ること ⑤ユーモア(笑い)⑥お金
「何この選択肢?どういう基準?」と思ったあなた、いいカンしていますね。 この選択肢には共通点があるのです。
どれも多くの人が「あー幸せっ!」と快楽や喜びを感じるもの、いわゆる脳の「報酬系」を活性化するものなのです(脳内では快楽物質のドーパミンがどんどん出ているわけです)。おいしい食べ物、すてきな音楽、・・たしかに幸せ気分になりますよね(嫌いな方もいらっしゃると思いますけど)。 ちなみに恋に落ちた時も、「報酬系」が活性化されるのだとか。好きな人の姿を見たり、声を聴いたりすると、脳内でドーパミンが出て、トキメキを感じるのだそうです。 他に脳の「報酬系」を活性化するものとして、「寄付などの利他行為」「(子を持つ母親の)子供の笑顔」「ねたましい相手がひどい目にあったとき」・・なーんていうものも挙げられています(参考文献参照)。
☆彡 さて次の質問はいかがでしょう? ▽▽にあてはまるものはありますか?
Q2 「▽▽のない生活はありえない。ないとイライラそわそわする。
食事や睡眠、学校生活より優先してしまう。 気づくとやっている。やめようと思えばやめられる・・とも思うけれど、もしかしたらやめられないかも?」
▽▽に「スマホ(ネット)」や「ゲーム」がはいる方はいませんか? A群も「スマホ」「ゲーム」も、脳の「報酬系」が活性化されるものです。 でも、「食事や睡眠より優先してしまう」「学校生活よりも優先してしまう」「時間と場所のコントロールができない」「悪影響があるのに、やめられない」状態は、幸せを通りこして、脳の「報酬系」が暴走している状態です。 主役は人間のはずなのに、スマホやゲームが「ご主人さま」になっている・・・・・・、 こうなると「依存症(嗜癖行動)」です。
不安になった方に、とりあえずの対策をご紹介しますね。
★自分に問います「あれ?何のため/誰のために(ゲーム、スマホを)やっているんだっけ?」と。不必要な作業はやめるように、自分にブレーキをかける練習をします。
★「なぜ依存するのかな?」と考えてみます。「ついついしちゃう」心性の裏に “逃げたい何か(ストレス)”はないでしょうか?課題、試験、バイト、「対人関係がつらい」「大学生活がいやだ」「けっこう孤独・・」などの苦しさはないでしょうか?
★ストレスに気づくこと、ストレス軽減を図ること、ストレス対策は役立ちます。
★すぐできる対処としては、「開くのがメンドウなパスワードに変える」手もあります。
★使わない時間帯を決め、ゲームやスマホを手の届かないところ(高い所やかばんの奥底など)にしまう、のもあり。
★「依存になりそうなので少し距離をとるねー」とSNS仲間に伝え、すぐに返信しないようにする、・・のも有効です。
スマホ、ゲーム、アルコール、タバコ、買い物、ギャンブル、時には盗癖、そして薬物・・・どれもある域を超えると、脳が変化を起こして「依存症の脳」になってしまい、どんなにがんばっても自分でコントロールできない状態になってしまうのです。そして、ひどくなると日常生活が壊れはじめます。精神的健康・身体的健康を失い、人間関係が壊れていってしまいます。 ・・・怖いですよね。
そうなる前に、学生相談センターにご相談くださいね。ストレスと上手につきあって、快適なスマホ・ゲームライフ、そしてよりよい学生生活を送られることを願っています。
何かありましたら、どうぞ遠慮なく学生相談センターに声をかけてくださいね。 参考:「図解でわかる依存症のカラクリ」磯村著 2011秀和システム
(ポートヘボン「お知らせ」(2018/11月)より転載)
「季節性うつ」にご注意!
Q.夏休みは元気に過ごせていたのに、秋学期から気力がでず、疲れやすいです。この時期はきまって調子が良くないのですが、最近は授業も休んでしまって、気分も落ち込みます。
A.一年間のある時期に限って、これといった理由もなく気分が沈み、朝起きられなくなったり、倦怠感が強くなったりすることがあります。これは「季節性うつ」と呼ばれているもので、季節の中でも、とりわけ冬にうつ状態になることが多いようです。春になると治ってしまうので、つらい症状を我慢したまま放置している方が多いとも言われています。今回の相談も、もしかすると、「季節性うつ」にあてはまる状態なのかもしれません。
「季節性うつ」のメカニズム
なぜ冬にうつになるのか、その原因はよくわかっていませんが、日照時間と神経伝達物質が関係していると考えられています。太陽の光を浴びると、脳内ではセロトニンという神経伝達部物質が働きます。セロトニンはメラトニンというホルモンにも作用するのですが、このメラトニンが睡眠覚醒のリズムを整え、体内時計を調節しているとされています。日照時間が短くなることで、メラトニンの働きが乱れ、脳や体が活動状態に切り替わりにくくなるのです。季節性うつの症状は、うつ病の症状とほとんど同じですが、うつ病でよくみられる不眠や食欲低下とは逆に、過眠や過食という症状がみられるのもメラトニンの働きの乱れと考えられます。一般的にも、冬になると眠くて寝たりない、甘いものが食べたくなる、と感じる人はいると思います。これは冬の寒さに適応するために体を休ませようとしたり、エネルギーを蓄えるための生理的な反応として生じているとも考えられますが、生活に支障をきたすレベルで繰り返すようであれば放置しないほうがいいでしょう。
規則正しい生活が大切
体内時計が規則正しく働くことは多くの心の問題の改善や予防に効果的で、日照時間と関係する冬の季節性うつでは特に大切です。日ごろから規則正しい生活を心がけ、なるべく日の光を浴びることが予防であり対処法の一つになります。もちろんストレスも良い影響は与えませんので、ストレスをためない、自分なりの対処法を見出すということも大切でしょう。しかし、いったん悪循環に入ってしまうと自分だけで生活を立て直すことは困難です。健康支援センターや学生相談センターにひとまず相談してみてはいかがでしょう。医療機関への受診が必要かどうかについても助言できると思います。
(「白金通信」12月号より転載)
「その先にある風景」に感化されて
今年のお正月、皆さんは、我が明治学院大学の校旗やユニフォームがテレビに大きく映ったのを見ましたか?
そう、陸上部の鈴木陸選手が、あの箱根駅伝の代表選手として、9区のコースを走られたのです。 明学創設150年以来の快挙だそうで、私達もとても嬉しくて、遠巻きながら彼の力走を応援しました。
鈴木選手、皆の夢も乗せて走ってくれて、本当にありがとう ございました(関係者の皆様もお疲れ様でした)。 そして、私はそのことをお書きになった松原学長のメッセージにも、感慨深いものを感じました。
2019年が始まって早くも1月下旬となり、在学生の皆さんは、期末の試験期間の真最中で、各々余裕のない日々かと思います。テストやレポートの科目が多い人や、難しい課題が出されている人、テストとレポートを断念した人、事情は様々かもしれません。でもどの人にとっても、大学生ってチョー辛い、と実感する時期でしょう。
何はともあれ、それらの課題が無事に終わりますようにと、祈るばかりです。
松原先生のお言葉にあるように、今年も「その先にある風景」が始まりました。
新しい「風景」が、明るかったり、楽しかったり、嬉しかったり、暖たかかったりであることを、誰もが望んでいるでしょう。 そこに行くにはどうすればいいか。。。悩みますよね。現実はそんなに甘くないし、上手くいかないことも多い。。。でも学生時代は、悩んで苦しんで、泣いていいし、失敗もしてよい時間なんです。辛い時間ではありますが、失敗したと思った自分から逃げず、何とか自分を改善できる点を見つけていきましょう。その積み重ねが自分を支える経験となって、嬉しい「その先にある風景」を運んできてくれたりもします。
まだ見えない「その先にある風景」に向けて、自分が一歩一歩進む秘訣は、私は自分を責めないことだと思っています。責める程に辛くなって、前が暗くなってしまいます。ですから、たとえどんなに上手くいかない時でも、自分を責めることはやめましょう。 でもそうは言っても、事態はすぐには好転しません。好転するまでじっと待つ必要があります。それはまた辛い作業です。でもそんなときでも自分を責めず、自分が改善するためにやれそうなことを見つけてください。ほんの少しでもそれをやってみてください。。。責めなければ待つことができます。待つことができれば、「その先にある風景」に対して、よいイメージがわいてくるのを待つことができます。そうやって、「その先にある嬉しい風景」と出会えるための準備をしましょう。
学生時代は失敗の連続で、ガッカリすることも多くあります。そんなときは、胸の内を話しに学生相談にいらして下さい。今年も皆さんと共に歩める時間を光栄に思っています。
(ポートヘボン「お知らせ」(2019/1月)より転載)