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コラム「キャンパスCLINIC」

冬の食中毒、ノロウイルス胃腸炎

白金通信2015年10月号

 私は生牡蠣が大好きですが、冬はノロウイルスが恐いので食べません。他の食中毒と違って、新鮮でも危険なので牡蠣は鍋にします。これまでたくさんのノロウイルス胃腸炎患者をみましたが、突然の激しい嘔吐とトイレからでられないほどの頻回の水様性下痢に襲われて死ぬほどつらいそうです。しかし1~2日で何事もなかったように回復するので、お腹の嵐とも例えられます。今回は冬になると学校・病院・レストラン・仕出し弁当で集団感染事件をおこすノロウイルス胃腸炎の予防策を書きます。

ノロウイルスの人体実験
 皆さんの中にもこの感染症に罹った人もいると思いますが、幾らもらえばもう一度体験してもよいと思うでしょうか?
 米国ではノロウイルスの研究のため一人30万円で健康ボランティアを募るそうです。ノロウイルスは人の小腸でしか増殖しないので動物実験ができないこと、健常成人なら発病しても死ぬことはないからです。言葉の通じない動物を使った実験は非人道的でも、本人の同意で行なう人体実験は人道的なのだそうです。健康ボランティアに様々な量に調整したノロウイルスを飲んでもらって、判ったことは10-100個のわずかなウイルス量で発病すること、小腸粘膜の細胞で増殖すること、感染しても嘔吐・下痢のない無症候感染者が結構いて便には多量のウイルスが排出されることです。

ノロウイルス感染様式と予防策
 発病した患者さんの吐物1gには105、下痢便には107ノロウイルスが含まれ大変危険です。しかし回復後も便には1~2週間後もウイルスが排出されます。そのため治った患者さんや無症候感染者が排便後の手洗いが不十分だと、料理や食品を汚染して糞口感染と呼ぶ集団食中毒を起こすのです。感染者の触ったドアノブや電車のつり革も汚染されるので、知らずに触れた手でおやつを食べれば発病します。冬にはノロ患者が急増して、トイレ→下水処理場→海へとウイルスが流れてカキや二枚貝を汚染します。ノロウイルスにはワクチンも薬もありません。自然に治るのを待つしかないのです。予防策は冬のカキは生を避けて十分火を通すこと、食事やおやつの前にはしっかり手洗いすることです。ちなみに私の夏の楽しみは、冷酒で夏に採れる岩ガキを生でいただくことです。

 

校医 尾形英雄

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