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コラム「キャンパスCLINIC」

デルタ株流行とブレークスルー感染

白金通信2021年秋号

ワクチン接種と新型コロナ肺炎

 この原稿を書いているのは7月末、緊急事態宣言でも人流が止まらず、オリンピック開催と新型コロナ(以下コロナ)感染の第5波が重なって、都内感染者数が毎日3000-4000人を超えて医療崩壊がテレビのニュースになっているときです。私の在籍する病院にも、毎日3-4名のコロナ肺炎患者が、都内各所の保健所から紹介されて、救急車や民間救急車で運ばれて入院してきます。第4波までは高齢者の入院が多く、死亡者の大半がこの世代でした。ところが第5波では高齢者のワクチン優先接種が進み、更に自粛生活を続けているためにこの世代はほとんど入院してきません。代わって入院するのは、自宅療養やホテル隔離中に呼吸困難を訴えて保健所にSOSをだした20-60歳のワクチン未接種者ばかりです。第4波では20-30歳代の患者は、従来株では風邪症状で終わっていましたが、変異株では肺炎を起こして重症化することも珍しくありません。


デルタ株によるブレークスルー感染とは

 インド発生のデルタ株と呼ばれる細胞に接着するスパイク蛋白の変異したウイルスは、当地で推計40万人とも400万人ともいわれる死亡者と医療崩壊を起こしました。この変異株は、武漢発生の従来株はもちろん、変異したイギリス株・ブラジル株・南アフリカ株より強い感染力があることが判ってきました。インドを席巻してから欧州各国や米国にもわたって、これまでの変異株を駆逐して今や世界中のコロナ流行株の中心になっています。日本でも都内のデルタ株の割合が急増中で、これが第5波の中心になることは明らかです。ところでファイザーワクチン・モデルナワクチンとも2回目の接種を終えて2週間すると、ウイルスに対する中和抗体ができて強い抵抗力を獲得します。しかしワクチン接種後2週間してからでも、少数ながらコロナにかかる人がいます。これをブレークスルー感染と呼ぶのですが、デルタ株はこのブレークスルー感染を起こしやすいことが判ってきました。米国のマサチューセッツ州では、コロナ感染者469人中74%がブレークスルー感染で、その感染者の90%がデルタ株であったとCDCが報告しています。私のいる病院でも7月に3人の高齢者がブレークスルー感染で入院しました。変異株に対してもファイザー・モデルナワクチンの重症化予防効果は96%と高いので、かかっても多くが風邪症状で終わります。確かにこの3人とも肺炎を起こさず軽快退院しました。


ワクチン接種後の生活

 10月初旬には本校の教職員・学生は、職域接種としてモデルナワクチンを受けられると聞いています。まずは一人でも多くの教職員・学生がワクチン接種を受けて、学院内の集団免疫を形成することが重要です。もしこれが達成できたら、コロナ前のマスクなしの対面授業やクラブ活動は可能になるのでしょうか?これに対する回答は、ワクチン接種で先行したイスラエルや米国の状況をみることでわかります。一時は、マスクのいらない生活が戻ったのですが、デルタ株が大流行するとブレークスルー感染によって感染者の急増が起きてしまいました。これを受けてイスラエルや米国CDCは、接種を済ませた人もマスク着用をするように推奨を変更したのです。一方でデルタ株であっても重症予防効果の高いことから、未接種に対する接種を今まで以上に強力に推進しています。今回の第5波はワクチン未接種者が、緊急事態宣言下にもかかわらず会食や飲み会をして感染拡大していることは明らかです。皆さんがワクチン接種を受けても、日本全体のワクチン接種率が上がってデルタ株の流行が収まるまでは、今まで通り室内での会話はマスクを着用して短時間にとどめ、密を避けながら室内換気に気を配る生活を続けることが必要です。

結核予防会複十字病院 安全管理特任部長・明治学院大学校医 尾形英雄

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