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コラム「キャンパスCLINIC」

不確実な将来、キャリアの悩み

白金通信2023年春号

やりたいことを探す…?

 自分のやりたいことがみつからない、わからない。就職活動中の学生に限らず、このような悩みを持つ人は多いと思う。
 私たちは、進学や就職、結婚、異動といったさまざまな場面で、自身のキャリアを考えることになる。そして世の中には「やりたいことを探そう」というメッセージがあふれている。幼い時から、自分が将来やりたいことが見つかっていて、そこに到達するためには何が必要か、など具体的にイメージができている人もいる。しかし大学生活を過ごしながら、やりたいことが見つからない、という人の方が圧倒的に多いように思う。

偶然から生まれること

 少しキャリアから外れる話だが、例えば今日の夕食にカレーライスを作りたいと考えたとする。自分のイメージするカレーを作るためにいくつかのスーパーを巡り、食材を買い集めて作る。食材にこだわって思い描いた料理を目指す、こんな作り方もある。
 一方で、何を食べたいか、何を作りたいのか、あまり思い浮かばない時もある。でも夕食時間が近づいてきたから、とりあえずスーパーに行ってみる。すると特売のもの、旬のもの、普段見ない珍しいもの、気になるものをカゴに入れていくうちに「そうだこの食材を使って今晩はスペシャルなカレーを作ってみようかな」、こうしてメニューが決まってくることだってある。日々知らず知らず行っている意思決定のプロセスは、もしかしたら後者の方が多いかも知れない。そして意外にもそのカレーの方が美味しいことだってある。

 積極的不確実性

 キャリア論で知られるハリー・ジェラットは30年ほど前に「積極的不確実性」という概念を唱えた。自分の特性を把握し、職業に関するさまざまな情報を集め、見合った仕事に就くことを目指すという合理的な考え方がキャリアを考える上で一般的であった。
 しかし近年は世の中の変化も激しく、また情報も過多である。そして収集した情報は世の中の変化が激しいことから、すぐに真実ではなくなることすらある。さらに教育分野において、個性の尊重や創造性も重視されるようなってきた。
 ジェラットは、複雑で変化の多い時代だからこそ不確実性を積極的にとらえて考えるプロセスも重要と説く。もちろん客観的な情報から論理的に分析することは大事だろう。しかし主観や直感といった、一見すると非合理的に思える側面も大切にしながら意思決定するべきだという。
 例え話をひとつ。ある画家は独特の人物画を描くことを大切にしている。しかし残念なことに絵は全く売れないし注目も浴びない。売れなくても自分の決めた道をひたすら歩けばいい!と言いたいところだが、さすがに画材を買えない生活ではそもそも絵も描けない。ある時、花の絵を描いて欲しいと頼まれる。本当は好みのジャンルではないが、これは良い機会だと受け入れ、客の要望通りに花の絵を描くことにした。すると花の絵が思いのほか評判となり、他の客からも注文が入る。あれ?自分ってこのジャンル得意なのかも、ということに気づかされ、その道をさらに深めていく。

将来に向けて

 将来やキャリアについて考える時、何が正解なのかを判断するのは難しい。そもそも正解が何かだなんて不明である。そして、間違いだと感じたことがスパイスとなり、新たな道につながることだってある。さまざまな学業科目、役割、サークル活動など、まずはやってみながらキャリアを考えていく、そんな考え方もいいのかもしれない。

高野 知樹先生(神田東クリニック院長 心理相談担当校医 )

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