特集:改めて知りたい、明学の研究力。
普段、授業で接する先生たちがどのような研究をしているか知っていますか?
論文発表や著書発行、政策提言に番組出演など。
多様な研究は、私たちの身近な話題を映し出す鏡のような役割もあわせ持っています。
先生たちの研究成果に触れ、あなたの学びを深めてみませんか。
好きなことは、「新しい」を生み出すこと
犬飼 佳吾(経済学科准教授)
私が専門とする行動経済学は、経済に関する人間の意思決定の仕組みや、意思決定をするときの人間を含む生物の脳の働きを、実験と経済学の理論で検証する学問です。例えば、電車で他人に席を譲ったとします。
動物であれば自分が得をしない行動はとらないのに、人間はなぜこのような行動をとるのか。そうすることで得られる高揚感? いや、席を譲らないと気まずいから? 経済学だけでは解決できない問題も、心理学や医学など他分野の知見を生かし、実験を重ねることで「新しい」何かを得ることができます。
現在は、次世代の新しいテクノロジーが「ヒト」全体に与える影響について強い関心を持っています。行動経済学は今後の開拓が期待されている分野ですので、既存の概念や定説だけにとらわれず、常に「バッターボックス」に立つ気持ちで研究に力を注いでいます。
国際法の理論と実践をつなぐ~社会的課題の「より良い」解決のために
鶴田 順(グローバル法学科准教授)
私の研究に共通するワードは「海」。海上法執行活動、海洋科学的調査、海洋生物の資源管理、プラスチックごみ問題などを研究しています。最近は日本の海の安全保障課題に取り組んでいます。外国政府公用船舶の日本の領海への侵入や日本漁船への接近・追尾など、日本の安全保障環境は厳しさを増しています。
日本はどのように対応すべきでしょうか。認識枠組を整えて、問題状況を正確に把握することができれば、その改善・克服のための方向性がみえてきます。日本の対応が適切で実効的で持続的なものとなるように、事態対処にあたる現場最前線に思いをはせながら、理論度やや高めの研究成果をあげていきます。
研究は、「現地の方々の役に立つかどうか」が大切
平山 恵(国際学科教授)
私の研究は、発展途上国や日本の人々が(医療者任せになるのではなく)地域で健康を維持するための調査を行い、結果に基づき、提言をすることが主な内容です。政治、社会、文化など、調査に紐づく研究視野は多岐にわたります。例えば2002年のホームレス自立支援法の施行にあたっては、当時発病が増加していた結核にかかっているホームレスの方々を調査し、栄養・睡眠・運動不足を起こしている社会的要因を突きとめ、政府に提言しました。
また、発展途上国の調査で得られたデータを生かし、現地の教育機関向けの健康ツールを制作・配布をしています。研究は、「現地の方々の役に立つかどうか」をもっとも大切にしています。
謎のベールを紐解く世界有数の北朝鮮映画研究者
門間 貴志(芸術学科教授)
従来の国や地域別の映画史ではなく、それを横断する新しいアジア映画史の枠組みの構築を目指しています。北朝鮮映画の研究もその一環です。北朝鮮映画の研究者は少ないので、研究の醍醐味を感じています。中国の古書市で貴重な資料を発見した時はぞくぞくしました。
アジアの映画は、古くから日本との人的・技術的交流があったのですが、その記憶は現在では薄れかけています。映画はその時代の社会情勢を色濃く反映する傾向があるのですが、例えば戦後のある時期までのアジア映画には、戦争の記憶に起因する反日意識がうかがえます。映画の中に込められたメッセージを解読することで大衆の時代精神を知ることができると考えています。
子どもファーストを掲げるステップファミリー研究の第一人者
野沢 慎司(社会学科教授)
継親子関係を含む家族、ステップファミリーについて研究しています。日本ではステップファミリーを取り巻く社会環境に課題があります。両親の離婚後の子どもは「ひとり親家族」に暮らし、そのひとり親が再婚すると新しい「親」ができると信じられています。その急激な変化の過程で「子ども」が置き去りにされるケースが少なくありません。
離婚や再婚が増えた現代社会では、離婚後も子どもの親が二人であり続け、再婚後も継親は親とは違う存在として子どもに関わるような新しい家族モデルを支える政策・制度の模索が必要です。世界の変化から取り残されつつある日本社会の子どもたちの視点に立つことを忘れず、これからも研究に取り組みます。
「感情」と「認知」二つの側面からこころの動きを探る
田中 知恵(心理学科教授)
「社会や集団におけるこころの働き」に興味を持っています。たとえば、同じCMでもお笑い番組の途中で視聴する場合と、シリアスな番組の途中で視聴する場合とでは理解の質が変わります。それは受け手の感情状態によって情報処理の仕方が違うためです。このような「個人内」における感情と認知の相互作用に加えて、現在は「個人間」、つまり他者との関係性における感情共有の働きについても検討をしています。
心理学実験により明らかにしようとしているのは次の二点です。ひとは感情共有によってコミュニケーション相手との結びつきを知覚すること。ひとは結びつきたい相手(たとえば自分の所属集団メンバー)の感情を共有しようと動機づけられること。認知の共有であるステレオタイプ同様、感情も集団間関係に大きな影響を与えると考えています。授業ではSNS のスタンプなどを例にして感情共有の働きを説明することがあります。日常の経験を社会心理学の理論で説明し理解してもらうことが、研究者としてやりがいを感じる瞬間の一つです。