スマートフォン版を表示

2023年度新入生向け 式辞・祝辞

村田 玲音 Leo Murata
学長
学長 村田 玲音
新入生の皆様、御入学、おめでとうございます。ご家族、保証人の皆様、お子様方の大学御入学、おめでとうございます。
明治学院大学を代表して、皆様を心より歓迎いたします。

私が今日の皆さんのように大学に入学したのは半世紀ほど前になります。数学者になりたいと思っていたので、理科系に進みました。入学すると学生全員に《手回し計算機》が配られて、これで色々な計算をしたのです。手回し計算機といっても、保証人の皆様も含めて、たぶん ご存知の方は殆どいらっしゃらないでしょう。小型のタイプライターに手回しハンドルがついたような機械で、ハンドルを回しながら四則計算をするのです。足し算・掛け算は易しいのですが引き算はちょっと難しく、割り算には技術がいります。面倒な機械でしたが、その頃は紙と鉛筆以外に計算を手伝ってくれる機械は、そろばんと計算尺しかありませんでした。調べてみると、私の学年が大学で手回し計算機を使った最後の学年だったようです。

1年たつと《卓上計算機》という機械が大学に導入されました。電卓を縦横高さ全部5倍にしたような機械で、文字通り机に一つしか載らない大きさがありましたが、「ボタンを押すと瞬時に答えが出る」ので学生も教員も非常に驚いたものです。卓上計算機はその後小型化が 進んで値段も安くなり、今ではあのときの卓上計算機よりはるかに高性能なものが簡単に手に入ります。

私が大学院生のときに電子計算機が出現しました。使えるようになるまでかなり勉強が必要でしたが、計算の速さは驚異的でした。私が徹夜しても100個くらいしかできなかった数値例の計算を、当時の計算機は10分間で 85,000個以上やってしまう能力がありました。

その後のコンピュータの進歩がいかに急速だったかは、皆さんもご存知の通りです。数日前には、新聞に「国産の量子コンピュータが稼働を始める」という記事が出ていました。遠からず、量子コンピュータが社会で大きな役割を果たす日が来るのでしょう。

こう振り返ってみると、私が数学と共に歩んできた50年間は、《計算する機械》に限ってみても、進歩が猛烈な勢いで進んだ時代と 重なっていることが分かります。ものが進歩すると、それに合わせて社会やその仕組みもどんどん変化しました。パソコン、インターネット、 電子マネー、SNS、クラウドサービス等々。思い浮かべるだけで眩暈がしそうになります。
この間、私はたいした抵抗感もなく、次々に現われる新しいものに「こちらの方が便利だから」といって気軽に乗り換えてきました。若かったからできたことなのだろうと思います。ただ、社会で生きていく上で、周囲のものやシステムの変化に適応するという能力は、私たちが 考えている以上に非常に重要なのだということを、この50年を通じて痛感しています。

この3年間、新型コロナウイルス感染症の拡大で世界中が大きな被害を受けました。社会はどうやらコロナを克服しつつあるよう見えます。色々なことが急速に元に戻り始めています。皆さんは、こうした「危機を乗り越えて視界が明るくなった時代」に大学に入って来られました。良いタイミングで学生生活を始めることのできる、恵まれた学年だと思います。

その一方で社会はコロナをくぐり抜けた今、コロナ禍の置き土産として私達の手元に何が残ったのか、これを真剣に考えています。そして良いものはどんどんコロナ後の社会に取り入れていこうと動き始めています。

コロナ禍をくぐりぬけて私たちが痛感したのは、人と人が実際に対面してコミュニケーションを取り合うことの貴重さ、かけがえのなさ、そして楽しさでした。今日、こうやってみんなでチャペルに集まり、これから一緒に学ぶ人たちと直接顔を合わせる、この有難さと貴重さを私たちはコロナを経てはっきりと意識しました。同時に、コロナ時代を切り抜けるために不可欠だった、インターネットをはじめとするコミュニケーション技術、これがいかに便利で重要なものであるかも、世界中がしっかり理解しました。

今後は「対面による直接的なコミュニケーションの重要性」と「情報技術によるコミュニケーションの利便性」、これをどう組み合わせていけば、より効果的な制度ができるのか、工夫や試行錯誤が社会や大学の色々な場所で始まるでしょう。本来の時代の変化に加えてpost-コロナ時代の変革が始まりますから、しばらくの間、社会の変化のスピードはいっそう速くなるのではないでしょうか。

そういう意味では、皆さんの世代には、今まで以上に「周囲のものの変化に適応する能力」が必要とされていると思います。 これから大学生活を始めようとしている皆さんには、若々しい前向きな気持ちがあります。この若さと積極性を生かしてこの時代に柔軟に対応していってほしいと思います。

皆さんの多くは、2020年春、コロナの出現と同時に高校に入学した 学年でしょう。高校時代はずっとコロナが一緒で、入学式や授業が 中止になったり遠隔開催になり、思うように「対面による活動」が できなかったかもしれません。

今日、皆さんは大学という新しい世界に入って来られました。 幸い、「対面による活動」が思い通りにできるレベルまで、社会も落ち着いてきました。そして、大学という場所は、高校までと 比べて格段に行動の自由度が高くなっています。どういう気持ちで学生生活を送っていくか、皆さんの気持ち次第で色々なキャンパスライフを設計することができます。自分の意欲を実行に移しやすい世界なのです。

こうした利点を活かして、思う存分「対面による他者との関わり」を 心がけてください。まずキャンパスに足を運びましょう。そして授業や 課外活動だけでなく、色々な場面で積極的に人やものとの出会いを 楽しんでみましょう。 明治学院大学で過ごす時間の中で、良い友人や教職員、素晴らしい書物や学問、そして一生の生き甲斐となるものと巡り合えることを願っています。

本日は御入学、まことにおめでとうございました。

鵜殿 博喜 Hiroyoshi Udono
学院長

皆さん、明治学院大学への入学、大学院への進学、おめでとうございます。また保証人の皆様、ご関係の皆様にも心よりお祝い申しあげます。

皆さんはこれから大学では4年間、大学院では2年ないし3年間学生生活を送られます。期待は大きいことと思います。明治学院大学で学ぶ日々の中で皆さんはさまざまな出会いを経験されることと思います。

昨年、友人が放送大学でサン・テグジュペリの「星の王子さま」についての特別講義があると教えてくれて、さっそくオンラインで受講の申し込みをしました。定員600名のところ593番でギリギリで受け付けてもらえました。「星の王子さま」は何度も読んだことがあって、この特別講義はとても興味深いものでした。この講義に刺激を受けて、Amazonで新しい翻訳を4、5冊注文しました。フランス語ができればフランス語で読みたいところですが、私はドイツ語なので、ついでにドイツ語訳も注文しました。これは特別講義で聞いたことですが、「星の王子さま」は300ほどの言語に翻訳されているそうです。世界の国の数は190幾つかですから、とてつもない数の言語に翻訳されています。Amazonで調べたところ、さまざまな方言、つまり地域言語にも翻訳され、極めつきは古代エジプト語つまりヒエログリフにも翻訳されているようです。古代エジプト語の「星の王子さま」を誰が読むのかと思いますが、ヒエログリフの学習者が副読本で読むのかもしれません。宗教や文化の違いを超えて、「星の王子さま」には何か普遍的な価値があるのでしょう。

王子さまは小さな星に住んでいて1本のバラを育てています。しかしバラとの関係がうまくいかなくなって、星を飛び出し、いくつかの星を巡っていきます。 なんでも命令する王様の星、見栄っぱりのうぬぼれやの住む星、飲んだくれの住む星、お金の計算ばかりしている実業家の星、街灯に火を灯したり消したりするランプ係の星、地理学者の星などを経巡って、最後に地球にたどり着きます。そこで一匹の狐に出会い、王子さまは自分が育ててきた1輪のバラとの関係の大切さや、「心でしかものは見えない。ほんとうに大切なものは目に見えない。」という、「星の王子さま」といえば必ず言われるフレーズを教わります。

「星の王子さま」は色々な読み方ができる物語ですが、「出会い」という観点から見ると、狐との出会いは決定的でした。私たちは人生の中でさまざまな人との出会い、事柄や現象との出会いを経験します。感受性の豊かな学生時代の出会いは人の一生を左右するほどの大きな力を持つことがあります。出会いには神秘的なところがあって、いつ誰と、あるいは何と、どのように出会うのか誰もわかりません。ただ心のどこかに何かの渇望があって、それが出会いを生み出すのかもしれません。ですから出会いの仕方は人さまざまです。
私はこれまでたくさんの学生たちに出会ってきましたが、誰かと、あるいは何かと出会うことによって自分の生きる方向を見つけた学生が何人もいました。私自身は学生時代にキリスト教に出会い、友人たちに出会い、たくさんの刺激を受け、さまざまなことを考えさせられました。それは一時的なものではなくて、70を過ぎた今に至るまで続く出会いでした。
「星の王子さま」はこういう出会いの大切さを教えてくれます。

そして「大切なものは目に見えない」という言葉。聖書にも似た言葉があります。「わたしたちは見えるものではなく、見えないものに目を注ぎます。見えるものは過ぎ去りますが、見えないものは永遠に存続するからです。」明治学院大学はキリスト教主義に則った大学です。皆さんがこのキャンパスで見えないものの価値を知っていただければと願います。毎日チャペルアワーという礼拝もこのチャペルで行われています。色々な機会を通して見えないものの大切さに触れていただければ幸いです。

皆さんの学生生活が豊かであるよう祈って、祝辞といたします。

ご入学おめでとうございます。

おすすめ