スマートフォン版を表示
コラム

ウクライナ通信(2)ウクライナの現代(modernity) -言葉、建物、車

現代ウクライナ語の起源は、歴史的には比較的新しいもので、詩人であり画家でもあったタラス・シェフチェンコ(1814-1861)や、作家イワン・フランコ(1856-1916)が書いた詩や文章が基礎になっていると言われています。

ウクライナでは、国のあちこちに彼らの像が立っています。写真①は、国立キエフ大学の有名な赤い大学本館内の壁に飾ってあった、シェフチェンコの肖像画です。研究滞在をおえてキエフ大学を去る前に、本館の中を案内してくれたアンドリー・ゴルバチュク社会学部長が紹介してくれました。「これがシェフチェンコです。」そして、彼は私の顔を覗き込みながら、「驚いたでしょう?」と言わんばかりに、こうつけくわえました。「彼は奴隷だったのです。」


写真①

さらに、ゴルバチュク先生は、私に問いかけました。「今年はウクライナにとって特別な年です。そして、今年のこの10月という月も特別な月なのです。なぜか、わかりますか?」私は、答えを待ってじっと私の顔を見続ける先生のまなざしに、答えを探し出せない焦りを感じながら、「2017」という年について反芻しました。そして、思いついたのです。「そうか、1917年、つまりロシア革命が勃発してからちょうど100年目なのだ」と。先生は「そうです。」と、ニコリと返してくれました。

そしてすぐに、もう一つの肖像画を紹介してくださいました。「これがウクライナの初代大統領です。ほんの短い期間でしたが。ロシア革命が起こってウクライナは独立し、私たちは大統領を選出しました。そして彼は、ウクライナの初代大統領になりました。でも、ロシアから赤軍が来て、彼の地位は剥奪されたのです。」先生は、「その独立を回復する過程が現在まで続いているのです・・・」と、言いたかったのかもしれません。

さて、写真②は、国立リヴィウ大学本館前の公園に聳え立つイワン・フランコの像です。リヴィウ大学の本館は、旧ガリツィア市庁舎を利用したもので、とても豪華な建物です。大学本館前は、公共交通の一つの拠点になっています。市内の公共交通機関には、マルシュルートカと言われる循環バス、トロリーバス、そして路面電車があります。


写真②

写真③④は、大学前バス停から出ている国際空港行きの9番トロリーバスです。③は最も新しい型のトロリーバスで、④は、おそらく旧ソビエト連邦時代から使用されていると思われる旧式のトロリーバスです。この二つの型の公共交通機関の混在が、ウクライナの「今」を伝えています。


写真③


写真④

写真⑤は、庶民で一杯になったマルシュルートカ(循環バス)です。料金は4グリーブナ(約17円)です。ちなみに、路面電車の料金は、3グリーブナ(約13円)です。


写真⑤

最後に、リヴィウ市内で見かけたヴィンテージ・カーを紹介しましょう。今年の9月に、リヴィウ市郊外にあるイワノ・フランキウスク市のフィールドリサーチにつきあってくださった、地元大学で教鞭をとるローマン先生が話してくれたことを思い出しました。「旧ソビエト連邦時代には3種類の車が生産されていました。旧共産党幹部向けの車、一般市民向け上級車、一般市民向け大衆車。」これらの車は、トヨタ、日産、ルノー、ベンツ、BMWなどの車に混じって、かなりくたびれた感じはありますが、今でも堂々と公道を走っています。

写真⑥は、旧ソビエト連邦時代の、おそらく共産党幹部向けの車だと思われます。「ボルガ」という文字が銀色に光っていました。「赤い貴族(ノーメンクラトゥーラ)」という言葉を思い出しました。


写真⑥

社会学部教授 岩永真治

おすすめ