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コラム

現代を斬る | ブランドらしさの呪縛

“米高級皮革ブランドのコーチが11日、社名を「タペストリー」に変更すると発表し、ソーシャルメディアで反発の声が高まっている”(ロイター、2017年10月12日)。

70年以上の歴史をもつコーチという名前が消滅するのではと勘違いした消費者も少なからずいた。ただ、社名変更の事実を知った上で、それに対する反発の声も寄せられた。なぜだろうか。

消費者による「らしさ」の追求

ニュー・コークとしてコカ・コーラの味をロゴとともに変更し、消費者から猛反発をまねき、元の味に戻した。マーケティングの教科書で頻繁に取り上げられるブランドストーリーだ。コーチの事例は、名前の完全な変更である。製品ブランドそれ自体ではないにしても、ブランドがその名前やシンボルを意味することを考えれば、とても大きな変更だ。

反発が生じる背景の一つとして、消費者が当該ブランドに対して「らしさ」をつくりあげ、それを社会で共有していることがあるのかもしれない。変更された味はコークらしくないし、タペストリーという社名は今のところコーチらしさと適合しない可能性がある。コーチという製品ブランドにおいて、このデザインはコーチっぽくないよねとか、こんな場所に店を構えるなんてコーチらしくないね、といった声が聞こえてくるのは、腑に落ちる話であろう。それは企業ブランドにも当てはまる可能性がある。製品ブランドを通り越して。

何かの比喩ではあるのだけれど、タペストリーという名前に込められた意味も、まだ決定から時間が経っていないこともあって、消費者が理解することは難しい。イメージも湧いてこないのだ。愛着も湧いてこない。らしくもない。消費者はこう思う。コーチのままで良いのではないか、と。

企業の信念とブランドの民主性

企業としてのコーチは複数のブランドを傘下に抱えつつあった。最近では、ケイト・スペードを買収していた。同社のCEOは、名前を変えた背景として、コーチというブランド名を超えて成長する会社への転換をはかっていることをあげている。「らしさ」の追求はブランドマネジメントの本質だが、時にそれは新たな挑戦を阻む要因ともなる。強いブランドであるが故の悩みだ。新たな企業体の姿を描くこと。企業ブランドの変更は、既存ブランドに縛られることなく、新たなステージへと飛躍する兆候としても、我々は受け取ることができるだろう。

変えたくても変えられない。ブランドは人々の生活の一部となり、社会の平等性を表す存在になる可能性を秘めている。しなやかな意志があり、ツキに恵まれたブランドは。

“コークはコーク、どれだけお金があっても街角のホームレスが飲んでいるものよりおいしいコークなんて買えない。コークはどれもぜんぶおなじでコークはぜんぶおいしい。そのことをリズ・テイラーも知っているし、大統領も知っているし、ホームレスも知っているし、君も知っている”(アンディ・ウォーホル『ぼくの哲学』新潮社、原著1975年)

白金通信2018年4月号(No.494) 掲載

大竹光寿 Otake Mitsutoshi

明治治学院大学経済学部准教授。専門は、消費文化理論。
市場と組織のインターフェースに関心を持つ。
主要担当科目は「ブランドマネジメントの理論」。
マーケティングと消費の接点について学ぶ。