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書評【分解者たち:見沼田んぼのほとりを生きる】

他者と出会い、世界を地続きにする

「多様性を受け入れる」なんて口で言うのは簡単だ。それが重要なのはみんな知っている。じゃあそれって実際どんなことなのか。

この本には埼玉・見沼田んぼから考える「雑多な存在」とともに生きていく思想が描かれている。用水や河川などの風景に目を凝らし、土地に生きる(た)人の代弁や通訳ではない声に耳を澄ますと、雑多な存在を感じることができる。見沼田んぼの開拓に汗を流した人たち、農業が機械化されるまでは家の中に役目があった障害者たち、傍らにありながら出会うことがなかった埼玉朝鮮初中級学校の人たち。そして、その雑多な存在との間ですでにあるものを編みなおし、これまでつながっていなかったものをつなぎ合わせる運動を猪瀬先生は「分解」と呼んでいる。

猪瀬先生は、学生の頃も今も私をさまざまな土地や人に引き合わせてくれる。本書にも登場する、埼玉・越谷で障害のある人もない人も街で一緒に生活していこうと活動する「わらじの会」の人たち、大阪・釜ヶ崎の日雇い労働者だったおっちゃんたち。その度、私の知っていたはずの世界の地平線は歪み大混乱した。でも、一緒にごはんを食べたり、草を取ったりするとだんだんお互いの心地いい距離感がわかってくる。無視するのでも、すべてを受け入れるのでもなく、自分の感覚を研ぎ澄ませて他者を感じ、傍らにいる。そうして、つながっていなかった世界を地続きにある一つの世界としてつなぎ合わせていたのかもしれない。

柳島かなた(農文協職員・12年国際学科卒)

『分解者たち:見沼田んぼのほとりを生きる』
猪瀬浩平(教養教育センター教授)著
森田友希(12年社会学科卒)写真
生活書院 416頁 2,484円

 

白金通信2019年夏号(No.500) 掲載