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書評【世界に平和を:小さな自分史】

幸福さいわいなるかな 平和ならしむる者

中山弘正先生は、国民学校(小学校)時代に戦争を体験し、いつ爆弾を落とされるか、いつ撃たれるか、いつ家族の誰かが殺されるかという不安な気持ちで暮らした。少し上の世代の、社会で花を開かせたであろう有為な青年は「学徒動員」として軍隊に入り戦場に散っていった。そのことを知っているからこそ、戦争には人の一生を変えてしまう恐ろしさがあることを体験として若い人に訴えている。

中山先生が学院長時代に表明した「明治学院の戦争責任・戦後責任の告白」(1995年)は歴史的に有名であり、本書にも収められている。これはキリスト者として明治学院が戦争に加担した罪を神と人との前に告白し謝罪したものであるが、このような告白と謝罪を表明した日本の学校は極めて少ない。「告白」は1985年にヴァイツゼッカー西独大統領が、率直にドイツの戦争の罪を認め、同種の過ちを繰り返さないように訴えた「演説」と軌を一にしている。

中山先生は研究生活や家庭生活でも〝平和〟を求めてきたことが伺える。ソ連(当時)で研究する前も、妻と祈り、子どもや父母と話し合ってきた。また、多くの良心的な人々と出会い、ロシアの自然の美しさに感動した。たくさんの「小さな奇跡」が与えられたのは、中山先生ご夫妻が真剣に祈り求めてきたことに主イエス・キリストが応えられたからに違いない。

本書には若い人たちが互いに命を大切にし、どの国の人とも敬意を持って平和に生きてほしいというメッセージが込められている。

小暮修也(明治学院学院長)

 

『世界に平和を:小さな自分史』
中山弘正(名誉教授)著
日本キリスト教書販売(日キ販)取り扱い 148頁 1,000円

 

白金通信2020年春号(No.503) 掲載

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