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書評【イノベーションを生む“改善”:自動車工場の改善活動と全社の組織設計】
創造性と効率性の両立
本書は企業の改善活動をテーマにしている。改善というと学生の皆さんはピンとこないかもしれないが、人は日々さまざまな改善を行っている。例えば、食器を洗う際に先に水につけておくと汚れが落ちやすいから、先に水につけるという工程を行っている人は多いだろう。より良い方法を考え実行することはまさに改善である。
本書では、小さな改善・大きな改善といった改善の規模に着目している。既存研究では、効率化のために小さな改善を行っていると、創造的な大きな改善は行われにくくなると考えられてきた。しかし、上述のような食器の汚れが落ちにくいという小さな改善から、そもそも食器を洗うのが面倒だという本質に気が付き、本質的な問題を解決するために貢献できる人を募り、全自動食洗器を完成させたとすれば、それは大きな改善になるだろう。
小さな改善は始まりにすぎず、小さな改善にネットワークが加われば、創造性と効率性を両立することが可能であると本書は説いている。改善活動で世界的に有名なトヨタ自動車では、改善活動の利益貢献額が算出されており、その額は年間数千億円規模に達する。
著者の岩尾俊兵先生は、東京大学140年の歴史の中で初めて経営学の博士号を取得した新進気鋭の経営学者である。本書には経営学の三大研究手法が全て用いられており、これから卒業論文を執筆する学生にとっては論文執筆を行うプロセスの参考にもなるだろう。
加藤 木綿美(二松学舍大学国際政治経済学部専任講師)
『イノベーションを生む“改善”:自動車工場の改善活動と全社の組織設計』
岩尾俊兵(経済学部専任講師)著
有斐閣 298頁 4,840円
※第22回(2020年度)日本生産管理学会 学会賞(理論書の部)受賞
白金通信2020年秋号(No.504) 掲載