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書評【日本演劇思想史講義】

世界の中の日本演劇とは何か

演劇は古来より人間そのものを描き、歴史もまた人間の生活や葛藤の記録である。

本学文学部の「文化史」(2017年度)の講義内容をもとに構成された本書は、長い歴史を持つ日本の演劇を、古代から現代まで1冊で取り扱うという大胆な試みを行っている。著者は欧州やアジアの演劇にも造詣が深い。そこから導かれた「演劇思想」を手がかりに世界の中の日本の演劇の特色を考えていくのが本書の骨子だ。そこに島国特有の日本演劇の精神が透けて見えてくる。例えば、歌舞伎と能は全くスタイルが異なるにも関わらず、後から登場した歌舞伎は能と融合せずにそれぞれが時代を超えて「伝統」となった。これは海外演劇には見られない日本演劇独自の現象だ。

全体は5部構成。古代から伝統演劇、そして明治から大正における近代劇の確立が主に前半で扱われ、後半では戦後から現代演劇までが語られる。特に近代劇からの脱却が模索された1960年代以降の演劇運動に比重が置かれ、若き日の寺山修司、唐十郎、蜷川幸雄らの試行錯誤が時代背景と共に描かれる。バブルとその崩壊後を扱う終盤では、各地の公共劇場の成立や、東日本大震災後に台頭してきた、現在進行形で創作の最前線にいる劇作家や演出家にも話題が及ぶ。

これから演劇などの舞台芸術や、身体論、日本の文化史などを学ぼうとする学生や若き演劇人に手に取ってほしい入門書である。

石倉和真 (文学研究科博士後期課程2年)

『日本演劇思想史講義』
西堂行人(文学部教授)著
論創社 307頁 2,750円

 

白金通信2020年秋号(No.504) 掲載