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現代を斬る

消費者としての日常生活 赤松直樹准教授(経済学部)

私達一人ひとりにとっての消費や買物

私達は「消費者」として日々を送っている。もちろん、消費者であることを常に意識しながら生活している人は稀だと思うが、例えば、いま私は、インスタントコーヒーを飲みながらパソコンを使って原稿を作成しているし、就寝時には布団を使っている。これらの行為、消費・使用は、消費者行動の主要部分の一つであり、このように考えると、私達は日常生活の多くの部分を消費者として過ごしていることが分かる。そのため、自分自身が納得をして購入したものや本当に好きなものを消費・使用することは、日常生活における豊かさの実現に少なからず影響を及ぼしていると言えるだろう。

学生の皆さんにとっては当たり前のことだが、今日では、スマートフォンの普及により、ある商品を初めて知る段階から情報探索、購入に至るまでこのデバイス一つで完結でき、とても便利な世の中になったと思う。気になった情報はすぐに調べることができるし、SNSを中心に情報は拡散・共有され、瞬く間にトレンドが生まれる。そのため、私達は毎日のように大量の新しい情報に触れ、何を買い、何を食べ、どこに行くのか、その時々の意思決定がスマートフォンと共にあるような気さえしてくる。

しかし、ここで大切なことは、流れてくる情報に身を任せて何となく意思決定するのではなく、自分自身の好みや価値判断の基準についてちゃんと考え、理解しようとすることだと思う。具体的には、「自分自身にとって消費とは何か、買物とは何か」といった問いは、消費者である私達にとって最も根本的で大切な問いであり、この問いについて考え続けることがより豊かな日常生活の実現に繋がるのではないかと考えている。大袈裟かもしれないが、少なくとも、私達にとって大切なことは、スマートに買物をすることだけではないだろう。

消費者行動を研究すること

消費者行動研究は、効果的・効率的なマーケティングの実施に貢献することを目的として生まれた学問である。そのため、実務的貢献が重要な研究目的の一つであり、消費者行動研究の存在意義であることは疑う余地もない。一方で、実務的貢献を意識し、その時々の社会情勢に合わせた研究テーマに取り組むことが、消費者行動の根本的な理解にどれほど寄与しているのであろうか。

前段では、消費者である私達が、自分自身の消費者行動を考え続けることが大切だと述べた。この点は、消費者行動の研究においても、実務的貢献を意識した研究とは別に挑むべき問いであると思う。このことは、新しい分析視点の発見に繋がるかもしれないし、さらには、前段で述べた日常生活の豊かさの実現と同じように、研究生活の充実や自己発見に繋がる可能性だってあるかもしれない。だからこそ、私は、学生の皆さんと一緒に、消費者行動の根本について問い、考え続けたいと思う。

赤松 直樹 AKAMATSU Naoki

経済学部准教授。

1986年生まれ。兵庫県出身。
専門は消費者行動論。
消費者の事前の意思決定がその後の別の意思決定に及ぼす影響を主に分析。
週末は家族と海に遊びにいくことが多い。

 

白金通信2021年夏号(No.507) 掲載

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