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現代を斬る

クラウドはどこにあるのか? 大久保遼准教授(社会学部)

データの居場所

デジタル化の進展に伴い、クラウド・コンピューティング、AI、機械学習など、個々の利用者にとって抽象的で不可視なサービスが増えている。私たちは常時インターネットに接続し、スマートフォンに依存し、機械学習を応用したアプリを利用する生活を送っているが、ネットワーク上でそれらが可能になる仕組みをほとんど知らないのではないだろうか。しかし、クラウドやネットワーク、AIと呼ばれているものは、もちろん宙に浮かんでいるわけではなく、きわめて物理的な基盤に支えられている。

クラウドが浸透し、大量のデータが世界中で流通するには、サーバーや通信機器が集積する大規模なデータセンターが建設され、アンテナや電波塔、基地局、通信衛星や海底ケーブルなど物理的なインフラが必要になる。データセンターは依然として大量の鉱物資源と電力を消費しており、それが機能しないと各地で情報処理や通信はストップする。たとえば世界最大規模のデータセンターの集積地はラスベガスに立地し、総計30万平方メートル以上の敷地に膨大な電力が供給されている。また日本でも今年、リモート化やDXへの取り組み、AIや画像処理など高負荷サービスの増加に対応するため、東京駅前に大手町第2データセンターが開業した。鉄道や高速道路と同様に、メディア・インフラは私たちのコミュニケーションやデータの流通、都市の構造に影響を与えつつある。

インフラの不均衡

新型コロナウイルスの感染拡大は、オンライン授業やテレワークの拡大を余儀なくさせた。急激なオンライン化の過程で実感されたように、Wi-Fiへの接続やスマートフォンの通信容量、ルーターの位置、同時接続する端末の数など物理的な条件によって、ネットワークへの接続や通信は多大な影響を受ける。「インターネットは世界中と瞬時につながりデータを送受信できる」とはいえ、その接続は明らかに不均衡である。また装置の性能や設備の立地、そのリテラシーや知識は様々な格差と結びついている。情報の不均衡は物理的な不均衡や経済的不均衡と連動し、しばしばそれらを強化する。私たちはネットワークに依存しながら、物理的なインフラにも依存しているが、その存在が強く意識されるのは接続不良やサーバーダウン、震災や停電の時などに限られている。

デジタル化というと、私たちはスマートフォンやSNS、ネット上を流通するデータやイメージに注目しがちだが、それらを支えるインフラの物質性やその不均衡の問題に目を向けると別の視点が得られるのではないか。情報は依然として物理的な基盤と切り離すことはできず、それは長期的な地球環境の変動とも連環している。「クラウド」はどこにあるのか、「データ」はどこから来るのか、「AI」はどこで動いているのか、スマホの画面を眺めながらそう問いかけてみると、今までとは別の光景が見えるかもしれない。

大久保 遼 OKUBO Ryo

社会学部准教授。

専門はメディア論、社会学、映像文化史。学生時代は演劇の演出に携わりながら、通信社や放送局でアルバイトをしていた。生活はなるべくアナログ派。

 

白金通信2021年秋号(No.508) 掲載

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