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あの日の私

私の大学院生活 滑川瑞穂専任講師(心理学部)

ルルルル。電話のベルが聞こえる。
次は私の番。どうしよう…。緊張する。受話器を取る。
「…はい、A大学心理臨床センターです」「もしもし。あの…、すごく気持ちがつらくて…。今日すぐにそちらに行きたいんですけど…」「(え、すぐに!)…ええと、失礼ですが、こちらにお越しになるのは初めての方ですか」「はい。私、大学の近所に住んでいて…」

大学院生としての生活を振り返るとき、いつも思い出す授業がある。修士1年次に2時限分の時間で行われる臨床心理基礎実習である。最初に示したやりとりは、こころの相談にやってくるクライエント役を先生が、センターのスタッフ役を私たち院生が担当し、授業内のロールプレイで電話接遇を練習している場面である。電話機も電話線のつながっていないおもちゃを使っている。私が通った大学院では、入学後すぐに心理臨床センターでの実習がスタートするため、授業内で電話や受付窓口における接遇をロールプレイでくり返し練習し、それらが十分に身に付いたあとで、クライエントを担当させてもらえることになっていた。

今では笑い話であるが、当時の私にとってこの授業はとても恐ろしく、1秒たりとも気の抜ける瞬間がなかった(と言いつつも、授業に遅刻し叱られ入室させてもらえなかった日があるのだが…)。大ベテランの先生方がクライエント役を演じるため、その真剣さと気迫で、院生同士で練習する際の何倍も緊張するのである。ある時は先生が重いうつ状態の人になったり、ある時はお礼として菓子折りを渡されそうになったり。心理臨床ではクライエントさんの一つ一つの言動を大切にしているので、その都度どんな意味があるのか、どう応じるのが最良だったのかを考えることとなる。授業中には同期と「頑張れ!」と無言のエールを送り合い、授業後にはその日の感想を共有して騒ぎ、心理職のたまごとして大学院生の日々を過ごした。

私は附属高校から大学の心理学科へと進み、それほど迷わずに大学院に進学した。臨床心理士の資格を取得し心理職として働きたかったためである。だが、臨床心理学は、すごく面白いのにすごくハードな学問だと大学院時代に痛感した。他人のこころを理解し援助する、そのためには自分自身の傾向や限界をよく知らなくてはならない。

濃密な2年間を乗り越えられたのは、何よりも同期に恵まれたおかげである。私を含めみんな個性的で自分勝手なのに仲が良い。また、ゼミの指導教員が専門性においてはとても真摯であるのに、それ以外はあまり干渉せず、ほどよく自由にさせてくれた。それがとても心地よくありがたかった。

こうした出会いがあって、明治学院での今がある。最近では自分がしてもらえたような教育を皆さんに還していけるのだろうかと考える。学生の皆さんにも、一生ものの友情や指導者との出会い、長年気持ちを傾けることができる何かを、本学で見つけてほしいと願っている。

心理学部専任講師 滑川 瑞穂

大学院修了時の卒業遠足で(先生は右から2番目)。

現在の先生。

白金通信2021年秋号(No.508)掲載

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