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思い出の味

「サムゲタンを食べる日? 徳間晴美専任講師(教養教育センター) 

「先生! サムゲタンを食べに行きましょう!」

もう17年ほど前になるが、韓国の大学で日本語を教えていた頃のことである。夏の暑い日、学生たちが数人、元気いっぱいの笑顔で近寄ってきた。今日はサムゲタン(若鶏の内臓を抜き、もち米や栗、なつめ、高麗人参などを詰めて長時間煮込んだ料理)を食べる日だというのだ。日本語が初級レベルの学生たちは、「韓国には暑気払いのためにサムゲタンを食べる日がある」ということを韓国語がほとんどわからなかった私に一生懸命日本語で説明してくれた。

その後、なんとなく状況を理解した状態でサムゲタンのお店に入ると、「中伏」と書かれた紙が貼ってあり、「三伏(初伏・中伏・末伏)」の日に滋養食を食べる韓国の習慣を理解する助けになった。暑い時に熱いものを食べて夏の気だるさを吹き飛ばすという「以熱イヨル治熱チヨル」も、これまた学生が頑張って私に教えてくれた韓国語の1つである。

サムゲタンを食べたのはその時が初めてではなかった。さらに遡って大学2年生だった頃、大学の協定校であった韓国大邱の大学に日本語教育の研修旅行で訪れたことがある。大邱国際空港から貸し切りバスで宿舎に向かう途中、サムゲタンの専門店に立ち寄り、共に参加していた仲間や先生方と「おいしい! おいしい!」と舌鼓を打ったのをよく覚えている。本場の韓国料理のおいしさに感動し、それ以来、「好きな韓国料理は?」と聞かれると、私はいつも「サムゲタン」と答えるようになった。

海外生活では、食が大事だと言うのはその通りで、このサムゲタンをはじめとする韓国の数々の料理に魅了され、約4年間をソウルで過ごした。遠慮のないニンニクの量、テーブルいっぱいのおかず、焼き肉を注文すれば惜しみなく添えられるサンチュ、色々な料理を思い出すが、学生が誘ってくれて食べに行ったサムゲタンは、学生の微笑ましい姿と共に思い出される特別な韓国料理だ。

白金通信2022年夏号(No.511)掲載

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