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書評【 住民ディレクター追走25 年史!! 凡人力の群像】
地域・人・テレビをめぐる冒険
これは一種の冒険譚だ。「住民ディレクター」とよばれる人たちによる、テレビをみずからの手に取り戻そうとする挑戦の記録である。
「住民ディレクター」とは、じぶんの住む地域をじぶんで取材し、みずから番組にして地域に届ける人びと。その実体は(ギョーカイでは「視聴者」と概括される)いわゆる一般住民だ。始まりは一九九〇年代、熊本県人吉球磨。発案者は地元民放出身の岸本 晃氏。かれを媒介に、「住民ディレクター」の輪は地域内から全国へとひろがり、気づけば四半世紀がすぎた。活動の全体像を、かれらのもとに十年以上通ってきた古川柳子教授が取りまとめたのが本書である。
岸本氏をはじめ当事者たちの生の声や資料がたっぷり収められている。明確に統合された組織でなく、緩やかなネットワークであるのが良い。活動が活動をよび、やがて地域自前のケーブルテレビ局をもつにいたる。熊本地震や九州北部豪雨では、被災者がみずから被災状況を発信し、復興を考えるようにまでなるが、その姿勢に気負いはない。語り口もまた、あたたかく、おおらかだ。
古川教授はこう指摘している。重要なのは番組制作そのものではない、それはあくまで「生活する地域を見直し豊かにする住民力を養う「方法」であって「目的」ではない」(八八頁)のだと。
地域と人、双方のつながりを相互に編み直してゆくメディア実践は深い示唆に富む。誰であれ、どこかの「住民」であるのだから。
長谷川 一(文学部芸術学科教授)
住民ディレクター追走25 年史!! 凡人力の群像
古川柳子(文学部教授) 著
サテマガ・ビー・アイ 97頁/ 1,000円
白金通信2022年秋号(No.512)掲載