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現代を斬る

望ましいルールを求めて 経済学部准教授 齋藤弘樹

今年は参院選の年であった。多くの政党が物価高騰をはじめとして私たちの生活に直結する話題を争点として取り上げ関心を促したものの、投票率にはあまり反映されず相変わらず低い水準であった。
一般に、あらゆる選挙は当該選挙制度に基づき実施されている。選挙の性格上、より良い制度を追求すべきなのは当然であり、現行の選挙制度についても一票の格差や投票率問題などさまざまな観点から議論されているが、ここでは選挙の方式、特に衆参両院の選挙で採用されている比例代表制に注目してみよう。
比例代表制による議席配分は、計算を要しやや複雑である。日本では、ドント方式と呼ばれる議席配分ルールが採用されている。さまざまな媒体で啓発されているのでどこかで目にした方は多いだろう。しかし、主に計算法の理解が重要視され、この方式が持つ性質について教えてくれる機会がほとんどない。

ドント方式の公理的アプローチ

数学者のMichel L. Balinskiとゲーム理論家のH. Peyton Young は選挙方式の数理的研究で数多くの業績を残しているが、その中に比例代表制が満たすべき性質に関する研究がある[“Criteria for proportional represent ation,”Operations Research 27,80-95(1979)]。この研究は、比例代表制の議席配分ルールが満たすべき「望ましさ」の基準(性質)を数学的に描写し、それらの基準を満たすルールの全体像を明らかにしようとした。このような手法は「公理的アプローチ」と呼ばれる。
さて、彼らが提示した基準の一部を簡潔に述べると、(一)追加された議席をどの政党に配分するかは、当該政党の得票数と現獲得議席のみから決定されるべき、(二)総議席が増加したとき、どの政党の獲得議席も減少してはならない、(三)合併政党の獲得議席が、別々の政党として獲得する議席の合計と比べて極端に増減すべきでない、(四)同じ得票数の政党間の議席をできる限り等しくすべき、(五)小党分立を防ぐべき、などがある。
彼らは、(一)~(五)の基準をすべて満たす議席配分ルールがドント方式以外に存在しないことを数学的に証明した。つまり、これらの基準をすべて満足させたいならばドント方式を採用するしかなく、ほかのどの方式でも代替できないのである。

望ましいルールを求めて

この事実はドント方式の大きな強みであり、この方式を採用する根拠となり得る。一方で、前述の恩恵を受ける代わりにドント方式の欠点をすべて受け入れなければならないことは注意を要する。一般に、欠点のない万能なルールは存在せず、それゆえにルールの選定は慎重にならざるを得ない。日本に適したルールの採用のためには、公理的アプローチに倣い日本の選挙制度に求められる基準を満たすルールを特定することが理想であるが、既存のルールから選ぶ場合でも、各方式の性質に基づく検討が望ましい。国民の理解を深めるためにも、採用するルールの計算法だけでなく利点・欠点を周知する機会も必要であろう。

 

齋藤弘樹 Saito Hiroki
経済学部准教授。専門は社会選択理論、制度設計論。                                       経済学科ではゲーム理論、中級ミクロ経済学などを担当。                                      時間のあるときは手の込んだ料理に挑戦。

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