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引き継ぎ。言葉にできない大事なこと。

2023.02.16

クラブ・サークル、ゼミなど、何かしらのグループで学生生活を過ごす中で直面する先輩から後輩への「引き継ぎ」。藤原さんは言葉や書面だけでは伝えきれないものがあると断言します。4年間の戸塚まつり準備会の活動を通じてつかんだ先輩としての振舞い方とはどのようなものでしょうか。

藤原 滉人 法学部 政治学科 4年

1年生から戸塚まつり準備会に所属。持ち込み企画班や地域担当を経験し、2年生の秋から第24回戸塚まつり準備会代表を務める。現在は戸塚まつりOBとして後進のサポートに尽力。アルバイトは高校時代から続けている飲食店でのホール・スタッフ。趣味はサッカー観戦。ワールドカップ2022は戸塚まつり準備会の後輩と一緒に観戦した。

「他者への貢献」に共感を覚えて

少し変わっているかもしれませんが、小学校の頃からいわゆる裏方仕事が苦にならない性格でした。体育の授業などでは倉庫から取り出さなくてはならない道具がどこに配置されているのか覚えて、友達と一緒に出すときに「ここにあるよ!」と教えて喜ばれるのが好きな子どもでした。

小中を通してサッカー部に所属していたのですが、そこでもゴール運びやボールの片付けなどを積極的に行い、高校の文化祭でも遊びに行かずに出し物の店番を買って出るなど、退屈・面倒と言われそうなことを代わりにして、人に喜ばれることが好きでした。 大学には指定校推薦で入学したのですが、人が生活をする上で関わる法律という部分に興味を持っていたため法学部に興味を持ち、政治学科への進学を希望していました。これまで自分自身が行ってきた裏方仕事のような役割にも通じる“Do for Others(他者への貢献)”という理念に共感を覚えたことも決め手の1つです。

戸塚まつり準備会

1年生の2019年5月、準備会に入ってすぐに最初の戸塚まつりをむかえ、持ち込み企画担当として教室を使用する地域・学生団体のサポート、終了時の立ち会い確認などを行いました。

トランシーバーで準備会本部からの指示を受け走り回っていましたが、閉会式のメインイベントの一つであるC館前での盆踊りで、小さい子どもを連れた親子の方々や地域の方が大勢参加している光景を見て、地域とのつながりを強く感じました。 この経験から翌年への準備会では地域担当を務めました。上倉田・下倉田の町内会へのご挨拶から交流を深め、御神輿を担いだ町内会のお祭りでは「戸塚まつりの子だよね」と声を掛けていただくなど、嬉しいこともありました。 2年生の秋から3年生の2021年5月まで、執行代(運営の中心メンバーとなる代)となり戸塚まつり準備会の代表を務め、24回目にして初の配信での戸塚まつりを開催しました。前執行代から引き継いだ内容をもとにしつつ、撮影フォーマットや機材のレクチャーなど配信ならではの部分は配信班とともに手探りでつくり上げました。第25回の執行代には地域連携に向けた動きや配信に関する内容を中心に、月々の必須事項を班別にまとめ、引継ぎを行いました。

立ち止まって考える、ということ

振り返って考えると、政治学科では1つの授業が特に役立ったというより、それぞれの授業の中でさまざまな事例を知っていくことで集団の意思形成についての考えを深められた点が自分にとっての1番の学びだったと感じています。特に1つ挙げるとすれば1年次に履修した佐々木雄一先生の政治学基礎演習でイギリスのEU離脱についてディスカッションした経験がこの考えの根幹になっていると感じています。 国会中継などで何か意見を述べる政治家は、発言をする際に自分を支えている団体など自身を取り巻く環境を考慮しています。そのため、聞き手は言葉の表層だけではなくどうしてその発言をするのか、という点について推しはかる必要があります。政治は自分たちと少し遠いように感じる人もいるかと思いますが、実は我々学生も団体を運営している時にはそうしたことを無意識でも考えながら動いており、政治学科で学んだことは自分たちにもとても身近なものだとわかりました。 そうした学びが深まるにつれ、相手の発言が自分の意見と違っても脊髄反射のように反論するのではなく、一度立ち止まって「相手はどうしてその意見に至ったのか」と考えるようになりました。

団体で活動している以上、「なんであの人はこんなに頑張っているのにこの人は…」といった意見は避けられないものですが、準備会の活動でも、自分やメンバーが「なぜやってくれないんだ」という思考に極力陥らないように、それぞれアルバイトや部活動など準備会以外の活動があるかもしれない。そうした相手の状況を考えながら仕事の割り振りを行っていました。

班ごとに行う内容のボリュームや時期が異なりますが、ある程度動きが見えないとお互いに不満が溜まってしまいます。しかし、そうかといって仕事を丸ごと投げてしまうと逆に「私たちだけ急に負担が増えた」と感じられてしまう。相手の余力を計りながら仕事を振りつつ、気持ちの上で平等と感じられるよう、納得感のあるチームづくりを心掛けたつもりです。

2年間続けて引き継ぎを行う理由

卒業も近づいていますが、2023年度の第26回戸塚まつりに向け、準備会の引き継ぎを今も続けています。理由の1つは、準備会の活動が秋から翌年の5月と大学の年度とずれていることもあり、現在の戸塚まつり準備会の中では自分たちが通常の対面開催を経験した最後の世代だということです。

2022年度も通常の形での対面開催の可能性もあったので、自分が経験した対面開催時の注意事項などの資料をまとめていました。結果としてはオンラインとの並行開催となり、多くの人がキャンパスに集まる形は持ち越しとなりましたが、2023年度は対面開催ができるかもしれない。でもその際に運営する学年は経験がない。昨年はこうだった、という前例がない中で運営をしなければならないため、自分が経験したことの中で伝えられる部分は引き継ぐべきだと考えています。

一方で、自分が口出しをしすぎたことで後輩が萎縮したり主体性を無くしたりということはあってはならないとも思っています。

その点では2回目のオンラインであり対面と並行開催となった第25回戸塚まつり(2022年度)の代には申し訳ないことをしたと考えています。本当はイベントに参加するだけのつもりだったのですが、開催が間近となった時期、引き継ぎの中で各担当のスケジュールを見た際にスタッフの稼働に余裕がないことに気づきました。学内の各団体との調整を円滑に進めることも重要ですが、地域の方との協力が不可欠な戸塚まつりで対外的な締め切りを守れないなどの迷惑をかけてはいけない。その気持ちからオンラインの配信班スタッフとして進行表の作成や各担当の連携の強化、当日の番組進行のカウントダウンなどの協力をしました。

配信班のリーダーからはお礼の言葉を頂きましたが、本当は出しゃばらず、何も言わない方が良かったかとも思っています。後輩は、先輩から「協力するよ」と言われたら断ることは難しいと思います。自分が手伝わないでうまく開催できる可能性もありましたが、その成功体験を奪ってしまった。リーダーには悪いことをしてしまったという後悔もあります。

先輩としての振る舞い方

引き継ぎを行う中で感じたことは、文章でどのようにまとめたとしても、本当に必要なことは伝えきれないということです。チェックリストで確認できることなどは伝えられますが、どんな活動団体でも目に見えない理念や思い、熱量などをどのように引き継ぐかが一番大事だと考えています。

戸塚まつりの場合、本番はまつり当日です。開催するまでは苦しい部分も必ずありますが、苦しい時に「やり遂げよう」「先輩もやり切っていたんだから自分たちも」と思い、頑張り抜くためには「気持ち」が1番重要だと信じています。

その気持ちの部分をどのように伝えるか。やはり引き継ぎを行う時に言葉にするだけでは後輩には響きません。言葉で伝えることを実際に先輩としてやっていたかどうか。やりがいや楽しさだけを語るのではなく、上級生として日常のふるまいに意識を配り、行動を積み上げていくことで初めて目に見えないものを引き継げるのではないかと思います。

実際に自分の学年が執行代となった際、準備会の同級生と「後輩の前でネガティブな言葉を出さないようにしよう」と約束しました。先頭に立って走り続ける、他の人よりも多くの仕事をこなすということを自分に課していたため、同級生にとっては暑苦しく、温度差を感じたこともあったかと思います。

ただ、自分がかつて上級生をみて感じたように、同学年で近い立場の人間と「先輩」では同じ行動をとったとしても見え方が異なります。

「あの先輩は話しかけてくれる、話を聞いてくれる」少しでもそう思ってもらえればその人が先輩になった時に後輩に同じように接してくれるかもしれない。その積み上げが先輩として最も重要だと思います。後輩から見て何か感じてもらえる、熱を伝えられる人間であろう。そう思って走り続けてきました。

2年目となる今回の引き継ぎも、「戸塚まつりの対面開催復活に向けて」という理由はありますが、本来であれば25回の執行代からの引き継ぎで十分です。そこを敢えて出しゃばる理由としては、やはりそうした行動に移すことで、「この人には相談できる」「引き継ぎが終わっても、いざとなったら頼れる」という人物像を伝え、自分が引き継いだ代がその後の代にも同じように接してほしいという気持ちが一番大きいです。

来年度の戸塚まつりも絶対に苦労すると思います。ただ、その苦労を乗り越えてどのような戸塚まつりをつくり出すか、引き継ぎをしている今からとても楽しみです。社会人1年目になりますが、ぜひ横浜キャンパスで戸塚まつりを楽しもうと思っています。

卒業後はマネジメントを行えるシステムエンジニアに

私はイベント業界とIT業界に絞って就職活動をしていました。毛色が全く違うと感じるかもしれませんが、どちらもお客さまである企業に対してさまざまな調整を経て喜ばれる商品やサービスを提供するといった点で似ていると感じました。

また、どちらも案件単位でチーム構成が異なる業種であるため、準備会代表や引き継ぎのなかで得たチームメンバーの姿勢の違いへの理解、共有の方法や納得感を生み出すための仕事の振り方など、継続力・コミュニケーション力といった力はこれからも伸ばしていけると思い就職活動を行いました。

現在は内定を頂いているIT会社でシステムエンジニアとしてスキルを伸ばせるよう、基本情報技術者試験の勉強をしています。将来的にはプロジェクト管理などマネジメントの分野を目指していますが、いざ引っ張っていく側になる機会が訪れた際に自信を持って進められるよう、これからも学び続けていきたいです。

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