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「わからない」がわかるようになる。知識が自分の世界を広げる武器になる

2022.10.05

フランス文学科を卒業後、言語聴覚士の資格取得のため指定養成所(以下、専門学校と記載)への進学を決めた二見さん。一見フランス文学科との繋がりは無いように思えますが、その理由には彼女自身の軸が関わっていました。彼女の信念やこれまでの経験を語ってもらいました。

二見 朋香 文学部 フランス文学科 4年
所属は杉本圭子ゼミ
手話サークルぽっけで活動し、2022年3月に手話技能検定3級を取得。 ドラッグストアにてアルバイト中。趣味は人と話すことや自然に触れること。

もっと話したい!フランス文化との初対面

うちの家は私が小学校に入ったころからヒッポファミリークラブという国際交流クラブに所属しています。多言語に触れ続けることで自然に楽しく身につけようという活動です。 母が大学の英文学科を卒業していたので、英語のリズムに興味を持っており、私にもそうした楽しみを知ってほしかったようです。

その活動の中で小学校4年生頃からは短期のホームステイ受入をはじめ、ブータン・バングラデシュ・トルコ・台湾・アメリカなどさまざまな国や地域から20人ほどをお迎えしました。

その中で、大学受験を控えた時期に出会ったフランス人の高校生が、私がフランス文学科に進学を決めた直接のきっかけです。

これまではホームステイの国の事情などを自分なりに調べてお迎えしていたのですが、その時は私が受験勉強などで事前準備ができなかったんです。彼女は日本文化を学びたくて来日したんですが、自分もオーストラリアに11カ月ほど留学していたこともあり、お互いの母語ではない英語をメインにいろいろとおしゃべりしました。短い間でしたがお別れの際にお互い泣いてしまうくらい仲良くなれました。

ただ、もし自分が彼女と同じ言葉が喋れて、彼女の国を知っていたらもっと仲を深められたと思いました。
彼女が日本語の単語を使い、また私はフランス語の単語を交えてコミュニケーションをしていました。もっとフランスのことをよく知って、フランス語を喋れていれば親友にもなれたかもしれない!この彼女との交流が私にとっての初めての「フランス文化」で、フランス文学科に進学するきっかけでした。

入学後にホームステイに来た別のフランス人の方とはフランス語での会話ができたので、語学力は少し身についたのではないかと感じています。フランス文学科といっても文学のみを扱うものではなく、「現代思想」でデカルト・スピノザなどの文献を通して自己とは何かを学び、「異文化理解」で日本の多文化社会の現状を知るなど、フランスの歴史や、現在抱えている問題を含めたフランス文化を学びたいという自分の期待通り、それまで自分になかった視点が加わりました。

見えているのに見えないもの、それが知識を得ると見えるようになる。

小学校の時の話になりますが、盲導犬を連れた方が小学校にきて体験を話してくれました。質問タイムになって何人か「はい」と言って手を挙げたところ、その方が「じゃあ一番最初に「はい」って言った人」って指名したんですね。
あ、この人は目が見えないから手を挙げただけじゃわからないんだ!って。

いつも授業をしている先生は目が見えるから手を挙げた人を見渡して「じゃあ○○さん」っていうけど、目が見えないとそういう形では指名できないんだって。 当たり前のことかもしれないけど、その時とてもびっくりしたことを覚えています。

この体験の後、いつも使っている通学路やいろいろなところに点字ブロックがあることを知りました。今までは見えていなかったんですね。
風景の一部というか、何のためにあるかわからなかったから見えても見えていなかった。それが、そういう方がいる、そういう世界があると知った瞬間から目に入るようになって、世界が広がった気がしました。

大学での学びもこれと同じで、「フランス社会の諸相」ではフランスの移民政策に伴う問題などを学ぶことができ、宗教などの違いからくるさまざまな問題に目が行くようになりました。例えば、日本で暮らしているとなかなか話題にならないのですが、ヒジャブ(イスラム教徒の女性が被るスカーフ)もフランスでは問題となっているんです。

政教分離の原則を固く守っているフランスでは学校にそういった宗教的衣装を着けてきてはいけないとされています。ただ、イスラム教徒側からすれば、公の場でそういった服装を禁じられてしまうと外に出ること自体ができなくなります。 個々人の宗教的な自由のために政治と宗教を切り離すという政策が、女性が生きること自体の妨げにもなる。権利の尊重という事柄一つにもそういったジレンマがあると知ったことで、より社会に対しての関心が高まりました。

また、明治学院共通科目で学んだ「多文化共生各論」では実際に横浜の「わたぼうし教室」へ行き、日本語を母語としない小学生から高校生までの生徒に日本語を含めた学習支援を行いました。

「知って・世界を広げて・行動する」という一連の流れで初めて生きた知識として身につくと思っているので、こうした実践を含めた勉強ができたことはゼミなど他の科目でもとても役立ったと感じています。

サークルで学んだ手話が実際に役立った!

大学入学前から手話歌に興味があってTikTokでよく見ていました。
進学を機にもっと知りたい!という思いから手話サークルぽっけに入り、手話や手話歌を学び、戸塚まつりなどで手話歌を発表しています。

サークルの中には聴覚障害のある仲間もいるのですが、その子たち同士で手話会話をしている時はとても手の動きが早くて。まじまじと見ているわけではないこともありますが追いきれなかったりします。

手話を学んではいるけれど、自分は同じサークルの仲間とサークル活動として使っているだけ。実際に手話での会話が必要になったときに役立てられるかどうか、技量的な部分の不安は持っていました。

サークルに入って1年半、2年生の9月から地元のドラッグストアでアルバイトを始めました。ある程度手話ができるようになってお客さまと接していると、想像以上に聴覚障害がある方が多くいらっしゃることがわかりました。小さな頃から立ち寄っていた場所でしたが、こうした知識や経験の有無で見える世界が違うことに気づきました。

ある時スマホをかざして「私は耳が聞こえない。この商品はありますか?」と尋ねられたことがあります。まだアルバイトを始めたばかりで十分な対応ができず、店長を呼びましたが、あいだに立って手話の通訳をしました。
お客さまも手話ができる店員がいるとは思っておらず、店長に目線を向けていたのですが、何とか視界に入って手話ができることを伝えると、喜んでいただけました。これまでサークル内で練習してきた手話でコミュニケーションが成立したことに手ごたえを感じるとともに、手話が上達していることを確認でき、嬉しかったです。

ただ、手話で対応するかどうかは相手の雰囲気を見て判断しています。聴覚障害があると気づかれたくなくて普通に買い物をしている方もいるので、相手がどのような対応を求めているかを尊重するように努めています。

言語聴覚士を目指す

対面の面接などが苦手で、キャリアセンターで自己PRの練習をする中で言いたいことがうまく言葉にできず、泣いてしまった時が何度かあるんです。
なんで泣いてしまうんだろう。そう悩んでいた時にHSP(Highly Sensitive Person)という性質があることを知りました。

詳しく調べていくうちに、細かいことや周囲の雰囲気に敏感な部分など当てはまる項目が多く、自分がこの性質を持っているのだと思いました。受け入れることに葛藤もありましたが、こうした性質だからこそ友達から相談を受けた際など、言葉に詰まった相手の助け舟を出せることなどもあり、今では泣くのは悪いことじゃない、自分の性質の一つなんだと受け入れられています。

また、相手の空気を感じ取りやすい特性をうまく生かすことで、困っている人のシグナルを受け取ることができるのではないかと気づきました。

「多文化共生各論」などで学んだ社会的弱者の置かれている問題などから、困っている人に直接手助けをしたいという気持ちが増したこと、自分の手話ができること、そしてHSPの特長と重ね合わせて考え、言語聴覚士の道に進むことを決めました。

なので、自分の中では「知って・世界を広げて・行動する」という部分は学科での学びでもこれから進む道も一貫していると感じています。

同じ目標を持った仲間との出会い

自分と同じように大学卒業後に言語聴覚士の資格を取ろうと思っている人はどのように頑張っているんだろう。それがわからず悩んでいました。
そんな時にたまたまぽっけの友達がInstagramに「明学の理由。」のことを取り上げていて、そこでやっと同じ道を目指している方に出会えたんです。

「やっと話が聞ける人に出会えた!」 とても嬉しかったです。現役の言語聴覚士やそのサポートをしている方ではなく、今まさに目指している途中の、それも同じ大学の方がいることにとても驚きました。
友人の伝手をたどってZoomでお話をさせてもらい、よりこの道に進もうという決意が固くなりました。

将来は、言語聴覚士の中でも人手の少ない聴覚障害の支援を行っていきたいと考えています。言語訓練に合わせ、その人に適した補聴器・人工内耳の選定や聞こえ方の評価を行います。進学先の専門学校も、こうした聴覚支援についての機器が充実している学校を選びました。

言語聴覚士はさまざまな医療専門職との協同が必要になりますが、大学時代に培った知識を糧に、共生社会の担い手として目の前の患者さん一人ひとりと真摯に向き合っていこうと思います。

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