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役者が自我を持つ ということ。役作りと傾聴の関わり。

2021.08.02

通常の友達とは違う関係性。より良い作品を作るために配慮はしつつもお互いの欲求をぶつけ合って本心をさらけ出す。自分にとって演劇は「甘えない」新しい人との関わり方だったと語る川崎さん。心理学科での学びと川崎さんはどのような関わり方を築いたのでしょうか。

川崎 瑞夏 心理学部 心理学科 3年 中学時代から演劇部に所属し、現在は演劇研究部。ヨコハマ学生演劇フェス2020では唯一の大学公認サークルとして出場し、サークルメンバーオリジナル制作の劇『朝の作り方』で観客賞を受賞。モットーは「苦労の先に見えるものは苦労に見合うもの」。趣味は書道。書道では成人五段。雅号は柏春。

人に関わりたい!

物心ついた時から演劇は身近な存在でした。幼少期から母親に幼児番組の公開収録の観覧や劇団の公演の鑑賞など多く連れて行ってもらいました。今思えば感性を育む教育の一環だったのかもしれませんが、今の活動のきっかけは母だったのかなと思います。

高校時代には所属していた演劇部で、クラスメートや友達とも違う、本気でぶつかり合える仲間を得たことでより演劇への熱が高まっていきました。 他方で医師になるという夢を持っていましたが、大学進学を目前にして真剣に将来を考えた際、自分の目的は職業そのものではなく、「人と関わり、良い影響を与えること」だと思い至りました。 この目的を突き詰めて考えたとき、高校にいたカウンセラーの方の印象もあり、心理学を学べる大学への進学を決めました。

心理学を学べる大学へ

具体的にどの大学に進学するか、と考えていった中で多くの大学の資料を集め、オープンキャンパスにも積極的に参加しました。明学のWebサイトに出てくる先輩の声もよく見ていました。 正直に言えば、最初から明治学院大学しかない!という強い気持ちがあったわけではありません。合格した大学の中で、大学院への進学後、公認心理師になるためにどの大学が良いかさらに情報を集めていき、最終的に設備とカリキュラムが一番充実している明学を選びました。

もちろん大学の雰囲気も気にはなっていました。高校で卒業生から大学生活についての話を伺う機会があり、明学に進学した先輩がたまたま心理学部生で、「統計が難しいし、一年生の間は基礎科目が多くて、まだ深く学べていないし~」 なんて言いながらもとても楽しそうで、こんなに生き生きとした大学生活を送れるならどんなに幸せだろうと思ったことが印象に残っています。 入学して横浜キャンパスに通い始めてからは、自然そのもののような環境の中に突然近代的な設備の整った施設があって、隠れ家というか異界に迷い込んだというか…不思議な気分でしたね(笑)

それでも、「演劇」を続けようと思った

大学でも演劇サークルに入った理由として、「大学はなかなか友達ができない」と聞いていたし、コミュニティに所属したいと思った部分もありました。どうせ所属するのであれば、馴染んだ世界であればより楽しいだろうと。 当初はサークルのメンバーも30人以上いましたし、純粋に演じるということに力点を置いていた気もします。

ただ、翌年の2020年に環境が激変しました。キャンパスに通えない。練習をする機会がない。とにかく舞台、発表する場がない状況が続いて。大会に出たいという気持ちをみんな抱いていました。9ヶ月、サークルとして練習していながら、アウトプットの場がない。モチベーションの維持という点でも厳しい期間が続いていました。元々上級生が多かったこともありますが、8人いた私たちの同期、7人ほど入ってくれた後輩を合わせても、たった5人で活動していた時期もありました。

そんな中、当時の主将から「こんな大会があるよ」とヨコハマ学生演劇フェスの情報が。結果が出ても出なくても、そこに行って発表したという実績をつくろうと部員と話しました。感染についての心配が一切なかったと言えば嘘になります。ただ、これまでの練習で感染防止の取り組みをしっかりできていたこと、運営の方からフェス自体の感染対策を聞く中でこれならば大丈夫だと思うことができました。

キャンパスでの練習が可能となるまではZoomを使ったオンラインの稽古だったので、呼吸を合わせることは難しかったです。キャンパスで対面で稽古ができるようになってからも満足できる回数を重ねることができませんでした。しかし当日は部員それぞれが練習を超えた演技を行うことができ、(観客の方の投票により選ばれる)観客賞を受賞できました。

想いが届いたこと、他団体の演技を観られたこと、観客の方から生の反応がもらえたこと。オンラインではない演劇、生で行う演劇の意味を改めて強く感じました。

役を、自分を魅せるために。先生方から吸収したこと

心理学科の授業では先生方全員が「傾聴」の重要性、相手と自分の理解の隔たりを埋めることの重要性を説いています。また、授業のメインの事柄ももちろんですが、 「こういう人がいた時にこんな対応をした。」「このような言動からこんなことを考えているんだと感じた。」 といった個別事例が、他者を理解することに役立っています。授業の際の先生の質疑応答や授業終わりに学生から質問を受ける姿勢から学ぶことも多く、そういった立ち居振る舞いも大きな学修の機会になっています。

学生として学科の特長を一つ挙げるとすれば、大教室の授業でもゼミのような少人数の授業でもこうした「傾聴」姿勢をどの先生も取っていることなのかなと思います。

この春進級し、サークルの運営や後輩の指導などを行う立場になりました。 「あ、ここでこういう聞き方をするのが傾聴なのか」「相手の考えがわからないから、こういう問いかけをしたら効果的かな?」 など、これまで漠然と理解していたことが正しいか、実体験を学びとして落とし込んで考える実践の場になっています。

私は役者をする上で「自我を持つ」ことが重要だと考えています。自分と違う人間を演じる上で、自分の性格と役柄の性格はどこが似ていてどこが異なるのか。演じているそのしぐさや声は観ている方からはどのように捉えられるものか。役づくりの上で自分という一個の人間の性格を理解し、その上で観客の方に伝わる役を作らなければなりませんが、この作業を行う際に役者としての自我、自己理解が徹底されていなければ観客を魅せることはできません。

後輩の指導においても、その人柄を考えながら 「この人には易しい言葉でアドバイスを積極的にした方がいい」「この人は自分の考えがあるから、その考えを伸ばす形で引き出してあげた方が良い」 など、これまで学んだことを生かしてうまくフィードバックできるように試行錯誤しています。

公演が終わったら

現在は新入部員のお披露目公演のための練習を行っています。大人数となるのを避けるため、Aチーム・Bチームに分けて稽古をしています。お披露目公演は通常3年生は参加せず、2年生が主体となって行いますが、引継ぎを兼ねて裏方として後輩の「役者の自我」を伸ばす手助けをできたらと思っています。

演劇研究部での活動は3年生秋の卒業公演が最終活動になります。4年生では居心地の良いサークルから離れ、大学院進学への準備をしながら目標としている書道師範の資格取得や漫画を描くことでストーリーテリングを通して自身の世界観の把握をし、自分の経験してきたことと向き合い、整理する時間にするつもりです。大学院で学ぶ専攻について、今考えている分野が一番打ち込めるものなのか改めて考えたいです。院に進むからには、少し苦しくても初心を忘れずに努力できる研究をしたい。そうすれば躓いても原点に立ち戻れると考えています。

今の段階では芸術療法の分野に強い興味を持っています。演劇や描画といったイメージ表現によってクライエントのこころの世界や感情を理解して、そこから問題解決への糸口を見いだし、自己実現への道を開くことを目的とする療法です。これに対しての書道という手法でのアプローチを進めたいです。

書は書いてる際にどうしても雑念が湧いてしまうものですが、それを否定せず、そのままに集中して書く。これが芸術療法の中にどのように位置づけできるか、可能性を探っていけたらと考えています。

大学院に進んだ後は、院で得た知見やたくさんの方にもらった大切なものを臨床心理の現場で次の人に渡したい。まだ気が早いかもしれませんが、今の私の思いは大学を選んだ時と変わらず、「人と関わり、良い影響を与える」自分になることです。

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