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「自分らしくはたらく」の実現に向けて、全力で子どもたちをサポート

2023.10.12

児童養護施設などで生活をしている子どもたちの就労支援を行なう永岡さん。「育った環境に関係なく、一人でも多くの子どもたちに、自分で決めたキャリアをデザインしてもらいたい」と奮闘する永岡さんに、これまでのお仕事や明学時代の思い出について語っていただきました。

永岡 鉄平 2004年 経済学部 経営学科卒 大学卒業後、株式会社リクルートHRマーケティング(現リクルート)で求人広告の法人営業を2年勤め、その後、大学院生専門の就職支援会社の立ち上げに参画。幹部として約3年間経営に携わる。学生の就職支援を行なう中で、「若者と雇用の現状」に社会的課題を感じ、準備期間を経て、2011年8月に株式会社フェアスタートを創設。さらに2013年1月にはNPO法人フェアスタートサポートを設立し、養護施設の子どもたちを中心に、就労支援を行なっている。

若者と雇用を取り巻く社会問題を解決したい!

2011年に株式会社「フェアスタート」を立ち上げ、児童養護施設や里親家庭、定時制高校などの子どもたちへ、就労支援をしています。これまで支援した子どもたちの数は700名以上になります。また2013年には、NPO法人「フェアスタートサポート」を設立し、就職前のキャリア教育と就職後のアフターフォローも行なっています。

私が起業を決意したのは、大学卒業後に就職した「リクルート」での2年間の勤務を経て、大学院生専門の就職支援会社「アカリク」に勤めていた時のことです。3年ほど就職支援の仕事に携わる中で、「自分らしくはたらく」を実現できていない若者がたくさんいることや、一方で若者を採用できずに苦しむ中小企業の存在を知り、自分に何かできないかと、日に日に思うようになっていました。一度気になったらとことん掘り下げる性格の私は、若者と雇用を取り巻く社会課題にじっくり向き合ってみようと、アカリクを辞め、起業に向けて準備を始めました。

※これまで「フェアスタート」の何らかのサービスを利用したことのある子どもたちの累計数

まずは「若者」「教育」「働く」をキーワードに、関連する団体に片っ端から連絡を取りました。そして、できる限り現場に足を運んで現状を見聞きしながら、必要な情報を集めました。

そんなある日、NPO法人「日向ぼっこ」が登壇した、「子どもの貧困」をテーマにしたシンポジウムに参加する機会があったんです。「日向ぼっこ」では当時、「社会的養護の当事者の社会参加」を目指し、児童養護施設や里親家庭などの経験者と未経験者が一緒に活動していました。私はこのシンポジウムを通して、多くの児童養護施設出身者が適正に合った仕事に就けなかったり、就いても早期に離職してしまっていたりするという現状を知り、彼ら・彼女らの力になりたいと思いました。また彼ら・彼女らの力になることで、長年感じていた若者と雇用を取り巻く社会課題を、解決できるのではないかとも思いました。そして、この問題についてもっと知りたいという思いから、その翌週には、神奈川県内にある「鎌倉児童ホーム」という児童養護施設に飛び込み訪問。その後もたびたび足を運ぶ中で、児童養護施設出身の若者がワーキングプアとなってしまうケースについて、実際に肌で感じ取っていきました。

その傍ら、横浜にある社会起業塾に入り、一人黙々と事業計画も練りました。また、資本金を得るため、ビジネスコンテスト用に「児童養護施設の子ども・若者への就労支援事業」への熱い思いを、さまざまな角度から企画書にまとめました。すると運よく、1回目に挑戦した内閣府事業のソーシャルビジネスコンテストで優勝。支援金として500万円をいただくことができたんです。アカリクを辞めてから、1年が経とうとしていました。この500万円を資本金に、30歳の時にようやくフェアスタートをスタートさせました。

「親を頼ることなく若くして自立する子どもたちの就労を応援しよう」というメッセージが込められたフェアスタートサポートの啓発バッジ。「コーポレートカラーのオレンジと、はたらく人をイメージするネクタイを組み合わせました」(永岡さん)

明学時代の「ゼロからなにかを生み出す体験」が起業家精神の原点

私が起業を決意するまでには、リクルートでの営業経験や、就職支援会社の立ち上げに参画したこと、児童養護施設での出会いなど、それまでのさまざまな出来事が関係していますが、振り返ってみると、大学1年生の時に「明治学院生協学生委員会」の復活に挑戦したことから、とても大きな影響を受けていると思います。

明治学院生協学生委員会は、学生が充実したキャンパスライフを送れるようにサポートする団体ですが、私が明治学院大学に入学した2000年は、学内での活動が途絶えてしまっていました。入学してすぐ、購買部の職員の方からその話を聞いた私は、ピンとくるサークルがなかったこともあり、明治学院生協学生委員会の学生委員長に自ら立候補。約2年にわたり、委員会の復活に夢中で取り組みました。

1年生の時は、全国の大学生と交流する機会をつくったり、新入生歓迎冊子「アンシャンテ!」の制作やクリスマス会などのイベントを開催したりする中で、私を入れて活動委員も5人に増えました。2年生になると、自らが中心となって新入生向けの歓迎パーティーを企画。イベントの広報やシナリオ作成、会場セッティング、当日の司会進行や生協と連携した食事の手配、予算管理など、5人で協力してたくさんの作業をこなしました。その結果、3日間で約500人の生徒を動員し、パーティーはみごとに大成功。新入生のキャンパスライフを充実させるべく、友だちづくりの場を提供することができました。明治学院生協学生委員会の復活からイベントの成功まで、ゼロからなにかを生み出すことの楽しさを教えてくれたこの体験は、私にとって大きな自信となり、その後の起業への思いにつながっていると思います。

明学時代に学んだ、“他者への貢献”という考え方

私が大学進学の際に明治学院大学を選んだのは、横浜キャンパスが実家から近く、身近に感じたというのもありますが、キャンパスに広がる穏やかな空気感が自分に合っているかもしれないと思ったからです。なかでも経営学科を選んだ理由は、経営のことを勉強して、「お金持ちになりたい!」と、当時漠然と思ったからなんです。

というのも高校生の頃、親の教育方針でお小遣いをもらっていなかった私は、ほしいものは働いて買うのが当たり前でした。そのため、高校3年間、ずっとファミリーレストランなどでアルバイトをしていました。特に高価なものを買うわけではなかったのですが、自分で稼いだお金でCDや洋服などを買うのは、背伸びをした感じで楽しかったですね。そんな日々を過ごすうちに、働いてもっとお金を稼ぎたい、「お金持ちになりたい!」と思うようになりました。高校2年生の夏休みには朝から晩まで週5日で働いて、10万円以上貯めたんですよ。

大学在学中は、正直、あまり勉強熱心な学生ではなかったと思います。1、2年生の間は、まじめに授業を受けていましたが、3年生になると、明治学院生協学生委員会の学生委員長の名刺をもって、中小企業の経営者が集まる異業種交流会などに積極的に参加し、大学の外の世界と交流する機会も増えていきました。というのも、3年生の時に受けた、さまざまな企業のビジネスモデルを紹介してくれる経営学の講義がとても面白く、そのこともあってか、実社会で働いている社会人や経営者からリアルな仕事の話をたくさん聞きたいという意欲が喚起されたんです。

また、今、会社を経営する中で、会計経理業務を誰かに頼らずに自分一人でこなせているのは、経営学科で会計や簿記の基礎を学んだからだと思います。

さらに、あの時、明学でたびたび触れた「他者への貢献」の精神は、フェアスタートを起業するうえでも、私の根底に深くあると思います。今まで「福祉」の視点からしか支援を受けてこなかった児童養護施設などの子どもたちへ、「企業」の視点から支援を行なうという私なりのアプローチで、これからも他者へ貢献し続けたいと思っています。

起業後は、経済学部や社会学部の在学生に、その経験を話す機会も増えました。私の話がきっかけとなり、学生のみなさんにとって、「自分たちは、今、社会にどんな貢献ができているか。これからどんな貢献ができるのか」ということを、振り返るよい機会になったらと思っています。

新しい取り組みにも、どんどんチャレンジしていきたい!

2017年より、関東圏において、児童福祉施設と中小企業との仲人事業もスタートしました。協力企業や団体、そして施設を巣立ち就職をした先輩の若者とも連携して、これから社会へ羽ばたく子どもたちや社会に羽ばたいたばかりの若者たちをバックアップする体制をとっています。また、古巣のリクルートからも連携のオファーをいただき、神奈川や埼玉、千葉で、「WORK FIT」という中高生向けのキャリア育成プログラムも実施しています。これは、リクルートのプロの講師の方が児童養護施設を訪れ、子どもたちが自分自身の職業適性や興味を把握できるように指導するものです。参加型のワークショップなので、子どもたちも楽しそうに取り組んでいます。

さらに2021年からは、児童養護施設応援企業の情報を日本全国から収集し、児童養護施設へ提供する活動も始めました。地域密着型の就労支援が今後さらに広がっていくように、新しい取り組みにもどんどんチャレンジできたらと思っています。

どんな環境で育ったとしても、誰もが「自分らしくはたらく」の実現に向けてスタートを切れるように、これからも一人でも多くの子どもたちを全力でサポートしていきたいです。

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