- 中溝 雄也
千葉ロッテマリーンズ ブルペン捕手兼一軍用具係
2012年社会福祉学科卒 小学2年生から野球を始め、明治学院大学では野球部に所属。卒業後、独立リーグの新潟アルビレックスBC(現オイシックス新潟アルビレックスBC)に入団し、2年後に福井ミラクルエレファンツに移籍。4年プレーした後に引退し、2018年に千葉ロッテマリーンズに入団して現職。
NPB※プロ野球チーム・千葉ロッテマリーンズのブルペン捕手兼一軍用具係として、選手をサポートしている中溝雄也さん。自身も小学生の時から野球に打ち込み、大学時代は野球部で活躍しました。今は裏方として選手を支えており、明治学院大学の教育理念“Do for Others(他者への貢献)”が、仕事をする上での軸になっていると話します。仕事のやりがいや、明学時代の思い出、教育理念に対する思いを語っていただきました。
私は小学2年生の時に野球を始め、小学生の時にはすでに「プロ野球選手になる」と決意していました。小学生時代はピッチャーをすることもありましたが、中学からは先生の勧めでずっとキャッチャーです。中学・高校時代は野球が人生の中心でした。受験勉強のモチベーションも野球でしたし、野球に集中するために恋愛を諦めた時期もあります。しかし、甲子園を目指した高校3年の夏、神奈川県大会ベスト8で敗退してしまいました。
部活を引退し、進路について本格的に決める時期になるわけですが、私は勉強も好きだったので、スポーツ推薦ではなく、一般受験で大学に進学したいと考えました。その中で、野球と学業の両立ができる明治学院大学を選びました。勉強も頑張りたいと思っていたので、学校の授業にもきちんと出席し、大学3年でほとんどの単位を取り終えました。 社会福祉学科はチームで発表したり、グループワークをするような授業が多く、その授業を通して同級生たちとコミュニケーションを取ることが楽しかったです。グループワークではリーダーを務めることもあり、部活以外でも友達ができました。
特に印象に残っているのは大学2年生の時のゼミで、先生の指導がすごく厳しかったんです。毎回、決められたテーマを発表し、先生から厳しい指摘を受けます。いかに指摘をかわすかを考え、しっかりと準備をする大切さを学びました。それは今の仕事にも生かされています。また、指摘に対してどう対応するか、常に戦闘態勢で臨んでいたので、メンタルもかなり鍛えられたと思います。
明学野球部には、合格発表の翌日から練習に参加しました。元プロ野球選手の森山正義監督(当時)のもとでプレーができたのは、とても大きな経験となりました。森山監督がいつも言っていた言葉で印象に残っているのが、「自分中心になるな。相手を中心に考えなさい」という教えです。野球は相手チームがあって成り立つスポーツなので、相手チームの監督は何を考えているのか、相手バッターは何を考えて打席に立っているのかを想像できなければ、良いプレーはできませんし試合に勝つこともできません。これは勝負だけではなく、日常生活にも通じるもので、「相手がなぜそのような発言をするのか」「なぜこのような態度をとるのか」を考えることがコミュニケーションにおいてとても大事だと思います。この監督の教えは、社会人になってからも自分の考え方の軸となっています。
大学3年生の就職活動が始まったタイミングで、本格的に野球で生きていこうと考えました。どうすればプロ野球や社会人野球の世界で野球を続けていけるのか模索を続け、他チームの指導者に話を聞きに行ったこともあります。また、社会人チームを紹介していただき、練習に参加させてもらうなど、当時はなりふり構わず行動しました。
その結果、独立リーグの新潟アルビレックスBC(現オイシックス新潟アルビレックスBC)に入団し、野球を続けることができました。2年間プレーした後に福井ミラクルエレファンツに移籍、4年間プレーし、28歳で引退しました。自分の中ですごく調子がよく、好成績を残せた年でも、NPBへの道は開かれませんでした。世の中には素晴らしい才能の持ち主がいて、そんな人がものすごく努力してなれるのがNPBの選手です。自分がどれだけ努力しても追いつけないと悟りました。ただ、「やり切った」という思いが強く、まったく悔いは残っていません。
引退後は福井時代のコーチの紹介で千葉ロッテマリーンズのブルペン捕手のテストを受け2018年に入団。二軍のブルペン捕手を任され、今はブルペン捕手兼一軍用具係の仕事をしています。ブルペン捕手は主に投手のサポートをする仕事で、練習の時に投手のキャッチボールの相手をするほか、試合で登板する前の投手がブルペンで投球練習をする際に捕手としてサポートをします。ブルペンでは投手に集中してもらうことが一番大事なので、投手が自分自身の投球に集中できるよう意識しています。練習やブルペンでの投球練習でサポートして送り出した投手が、試合で活躍した時はうれしいですね。 仕事の難しさは、タイプの違う一人ひとりの投手とうまくコミュニケーションを取り、先回りして要望に応えられるよう日々判断が求められることです。最初は相手の要望を正確に見極められず、良かれと思って取った行動が裏目に出てしまったこともありました。今年で7年目になり、今は投手のキャラクターも理解できるようになりました。仕事には大変なことも楽しいこともありますが、これからもたくさんのことを経験したいと思います。
一方、用具係はボールやネットなど、野球で使うさまざまな道具を管理する仕事です。練習や試合時の準備と片付け、不足した用具の発注やユニフォームのクリーニング手配、キャンプの準備・設営など、非常に多岐にわたります。いわゆる裏方として、選手の役に立てることにやりがいを感じます。もちろん私自身も野球が大好きなので、最新の用具に触れられることも用具係の楽しさの一つです。
最近ではSNSを通じて、野球に関係なくさまざまな発信をしています。これからはエンターテイナーとしても、よりたくさんの人を楽しませていきたいと思っています。
ブルペン捕手や用具係は裏方の仕事なので、まさに明学の“Do for Others(他者への貢献)”の精神がなければできない仕事です。明学野球部時代、選手同士で「Do for Othersだよ!」という掛け声が飛び交っていたくらい、実は野球部で浸透している精神でした。「Do for Others」の精神そのものが、「明学らしさ」ではないかと感じます。そして、「Do for Others」の教育理念は、自分自身の人生を豊かにしてくれるものだと思います。
どんな仕事でも、5つの教育目標のどれもが求められると思いますが、中でもやはり「1.他者を理解する力を身につける。」がとても大事だと思います。これは監督から教わった「自分中心になるな。相手を中心に考えなさい」と同じ教えだと思います。
大学時代には、ぜひたくさん挑戦して失敗をしてください。失敗経験が多いほど、自分の中の引き出しが増えますし、同じ悩みを持っている人にアドバイスすることができます。野球の世界でも、失敗や挫折の多い人ほど、名コーチになっているように感じます。やはりそれは、できない人、失敗した人の気持ちが分かるからだと思います。だから、失敗を恐れず、たくさん挑戦してほしいと思います。たとえ失敗しても、それはこの先の人生できっと大きな糧になるはずです。
また、やりたいことが見つからずに悩んでいる人もいるかもしれません。そんな人は、まずは今できることに一生懸命取り組んでみてください。先のことを考えるのは大事ですが、目の前のことを頑張ることで、先が見えてくることもあると思います。キャリアを選択する際には、視野を広く持ち、最初から決めつけず、選択肢を多く残しておくことが大事です。そして、これと決めたら、腹をくくってトライしてみてほしいと思います。