音楽は、いつもそばにあった
小さい時から生活の中にはいつも音楽がありました。父はアマチュアでバンド活動を、母はピアノを弾き、姉は大学でクラリネットを専攻していて、音楽がごく自然に身近にあったように思います。私自身も幼稚園から小学校までピアノを習っていました。ただ、楽譜に苦手意識があり、そのうちピアノ教室からは離れてしまいました。家族の期待を裏切ってしまったような感覚がありましたが、父や母はピアノを無理に続けさせることなく、自分の気持ちを受け入れてくれました。その後、自分に合った音楽のかたちを探す中でギターに出会い、演奏する楽しさをあらためて感じるようになりました。こうした一連の経験が「自由に音楽を楽しむ」という、今の自分の音楽観につながっているように思います。
また、幼少期から一貫して少し古いものが好きでした。友達がアンパンマンを好きな時に私は初代ガンダムが好きで、古風な子どもだったかもしれません(笑)。
記憶に残っていた白金の風景
明学との出会いは中学生のときでした。明治学院高校の学校説明会で初めて白金キャンパスを訪れ、荘厳なチャペルの佇まいに歴史やロマンを感じたのを、今でも鮮明に覚えています。最終的に別の高校へ進学することになりましたが、この記憶が心の片隅にあり、明学のことを忘れられずにいました。
大学進学を考える際には、芸術大学や音楽大学で演奏者として技術を磨く進路も考えましたが、次第に文化や歴史、理論といった座学のアプローチから、芸術を深く学びたいという思いが強くなっていきました。将来の目標を明確に定めるというよりは、まずは学びたいことにしっかりと向き合える環境を大切にしたいと考え、その点で魅力を感じた明治学院大学文学部芸術学科を志望しました。また今振り返ると、中学生の頃に見たあのチャペルの記憶も、自分の選択を後押ししてくれたように思います。
美術の世界に出会う
芸術学科では、1年次に幅広い分野から芸術全体を学び、2年次からは音楽学コースや映像芸術学コースなど、6つの専門コースの中から自分の関心に合った領域を選ぶというカリキュラムが組まれています。これまで自分の人生の軸になっていた音楽をより深く学びたいと考えていたので、音楽学コースを志望して入学しましたが、1年次に履修した山下裕二先生の授業「日本・東洋美術通史P」が、自分の中に大きな転機をもたらしました。授業で初めて伊藤若冲や曽我蕭白の作品に触れ、緻密でありながらアヴァンギャルドな表現に衝撃を受け、強く心を揺さぶられました。それまで抱いていた「わび・さび」という日本美術のイメージを大きく覆され、そこから一気にその世界に引き込まれていきました。さらに、作品のビジュアルだけでなく、制作の過程や背景、歴史的な経緯を辿ることで、ただ“見る”だけではなく、“読み解く”ことの面白さも知りました。美術経験は全くなかった私ですが、こうした学びを通して日本美術をより探究したいという思いが強くなり、2年次から美術史学コースを選択しました。
先入観にとらわれず、多様性を受け入れる姿勢を大切にすることで、思いもよらない新たな世界と出会うことができる——そうした学びの環境がある明学に来ることができてよかった、と心から思います。また、美術初心者の自分を丁寧に導いてくださった山下先生との出会いに、本当に感謝しています。
自分らしくいられる場所「ソング・ライツ」
明学には複数の公認音楽サークルがありますが、私が所属する「ソング・ライツ」は、その中でも少し異色な存在かもしれません。まず、見た目がちょっと怖い人が多いんです(笑)。でも実際は、話してみるとみんな優しくて、面白い人ばかり。ジャンルや演奏スタイルに縛りがなく、サークルとしての決まりも少ないのが特徴で、それぞれが自分の音楽を自由に表現できる空気があります。私は洋楽のクラシックなロックが好きで、今のトレンドとは少し違うこともあり、入学当初は自分の音楽が受け入れてもらえるのか不安でした。でも、ソング・ライツには音楽そのものに対する深いリスペクトがあり、ジャンルを問わず、それぞれの考え方を尊重し合う文化があります。ここなら自分らしくいられる、と思えました。
ソング・ライツ出身の先輩にはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT のチバユウスケさんや東京スカパラダイスオーケストラの茂木欣一さん(当時はフィッシュマンズ)がいらっしゃいます。自由な空気の中で、個性豊かな音楽が育ってきたサークルなんだと思います。
今は、主将としてサークルをまとめる立場にあります。自分が入学時に感じた「安心感」や「自由な空気」を大切にしながら、多様な価値観を受け入れる土壌を、これから入ってくる後輩たちにも残していきたいと考えています。
第3応援歌「M.G.Glorious」
ソング・ライツでの活動を通じて、大学の学生課から「明学の第3応援歌『M.G.Glorious』(作詞・作曲:茂木欣一さん)をアレンジしてみないか」というお話をいただきました。これから明学の伝統になっていくであろう応援歌に、手を加えることへの迷いやためらいはありましたが、同時に私たちなりの感性や表現で新たな魅力を引き出すことができたら、という思いもありました。原曲への敬意を忘れずに、より多くの明学生にとって刺激的で、心に響く応援歌にしたい、そんな思いからバンドメンバーとアレンジに取り組みました。
第3応援歌お披露目会の当日、茂木さんご本人も横浜キャンパスにお越しくださり、満員になった会場で「M.G.Glorious」を一緒に歌うことができました。最後に茂木さんより「さすがソング・ライツ!」と声をかけていただき、その時の会場が一つになった光景、空気を忘れることはありません。メンバーそれぞれが異なる音楽的背景や感性を持っていて、その違いを否定することなく何度も意見をぶつけ、少しずつ形にしていくなかで、個性の「違い」が力になることを体感しました。この活動を通じて、音楽で人とつながる喜びや、違いを認め合うことの大切さを教わったように思います。
受験生へのメッセージ
もちろん、将来の夢に向かって突き進むことも大切です。でも、それと同じくらい、目標から逆算しない考え方も大事にしてほしいと思います。大学に入ると、たくさんの人や、多様な考え方に出会います。そんなとき、自分の中にある先入観や考え方に固執せず、まずは受け入れてみることで、新しい世界への扉を開くきっかけになるかもしれません。私自身が日本美術と出会ったように、明学にはそんな機会がたくさん用意されています。今、何を学びたいか、何をやってみたいか、その気持ちを優先して、それができる環境をぜひ探してみてください。