- 舘野 佑菜
リクルート ゼクシィ編集部 編集デスク/ブライダル総研 研究員
2015年 国際学部 国際学科卒 大学卒業後、ワーキングホリデー制度を使い韓国に1年間渡航。帰国後は編集プロダクション勤務を経て、2017年にリクルートマーケティングパートナーズ(現・リクルート)ゼクシィ編集部入社。結婚情報誌『ゼクシィ』の記事編集、付録制作などを担当する一方、2022年から若者世代研究にも取り組む。2023年から、「リクルート ブライダル総研」にも籍を置き未婚者調査を担当。
結婚情報誌『ゼクシィ』の編集デスクを務める舘野佑菜さん。現在は「リクルート ブライダル総研」の研究員も兼務し、恋愛、結婚に関して調査研究も行っています。一見華やかなキャリアに見えますが、実はさまざまな選択と葛藤を経て今があるといいます。そのなかでやりがいと目標を見出せたのは、明学で培った「自分で考える力」があったおかげだとも話してくれました。
2017年にリクルートマーケティングパートナーズ(現・リクルート)に、結婚情報誌『ゼクシィ』の編集者として入社し、2024年からは編集デスクとして働いています。雑誌の編集者は、担当ページのコンセプトを立てて構成を考え、カメラマンやライターを手配して記事を仕上げます。編集デスクは各編集者の記事作成をフォローアップし、雑誌全体を完成に導く仕事です。
『ゼクシィ』には毎月付録が付き、その付録制作にも携わっています。何月号にどの企業とコラボレーションしてどんな付録を付けるのか、年間ラインナップを立てるのも編集デスクの仕事です。実際にアイテムを制作するのは編集者で、編集デスクはそれにも伴走します。私もデスクになるまでは、編集者として付録を制作してきました。付録は雑誌の販売部数にも直結する重要なものなので、毎回ドキドキしながらつくっていました。
雑誌編集はやりがいのある仕事です。日々の暮らしの中で見たもの触れたものすべてが仕事のヒントになるし、同じテーマでも編集者によって誌面がまったく異なるのも面白い。何より読者のインサイト(潜在的な欲求)を見抜き、心に響く誌面をつくれた時に手応えを感じます。
雑誌編集の業務に加え、若者世代研究も担当しています。『ゼクシィ』の次世代読者層の結婚観や結婚式観を研究分析したく、2022年から取り組んでいます。データ調査だけでなく実際に大学生にインタビューすると、私の世代との違いに気づく機会も多く、どんなスタイルだったらこの先も「結婚式をしたいな」と思う人が増えるか、検討するヒントになっています。そこから派生し、大学で「結婚式について考えよう」という講義を行うこともあります。
この若者世代研究がきっかけで、2023年には社内の別部署であるブライダル総研にも籍を置くこととなりました。ここでは未婚者を対象に、恋愛・結婚に関するインサイトの調査を担当しています。コミュニティ内の恋愛を避ける方が増えていたり、“恋愛するなら結婚のため”という思考が強かったり……いろいろと調査結果から見えていてとても興味深いです。では、どんな情報に触れたら、若者の恋愛や結婚に関するイメージや意識に影響を及ぼすのか――? そんなことを探り、結婚式のカタチ・あり方についてもあれこれ議論を重ねています。忙しい毎日ですが、いろいろな仕事に携われることが嬉しく、張り合いを感じています。
『ゼクシィ』は、誰かと一緒に生きていこうと決めた人を応援しています。だから私の仕事は、誰かと一緒に生きていこうと決めた方々が、その方の幸せに向かってまっすぐ進めるように、「たしかな情報・たしかな選択肢を届けること」だと考えています。正解がない仕事で、悩むことも多いです。でも、だからこそ仕事の意義の大きさにやりがいを感じ、日々前のめりで働いています!
明学時代は国際学部の秋月望先生(現・名誉教授)のゼミに入りました。高校1年生で韓国カルチャーが好きになり、国際系の学部がある大学を探して明治学院大学に進み、朝鮮半島の外交史を研究する秋月ゼミを選びました。
大学では他校の友人と韓国の留学生との交流の機会をつくったり、イベントを開いたりして語学留学気分を味わっていました。韓国大使館が派遣する学生レポーターに合格して韓国に行ったこともあります。2週間で国の隅々を見て、ますます韓国が好きになりました。
秋月ゼミで校外実習として韓国をまわったこともあります。2~3週間かけ、朝鮮通信使の足跡をたどって福岡から船で釜山に渡り、あちこちをめぐりました。行く先々で先生が講義をしてくださるというのは、今思うと本当にぜいたくですよね。当時は浮かれ気分でせっかくのお話も半分上の空だった場面もありましたが(笑)、学びも遊びもとにかく面白かった。ゼミには韓国からの留学生が3人いて、会話しながら、より一層韓国語を話したいという思いが募り、卒業後に渡韓することを決意しました。
新卒で就職する道は選ばず、アルバイトで資金を貯め、2016年からワーキングホリデー制度を使って1年間、韓国に滞在しました。お金に余裕がなく、慣れない土地でアルバイトやインターンをしながら勉強を続けるなかで、時にはつらいこともありましたが、おかげで韓国語は鍛えられました。秋月先生が遊びに来てくれたこともあります。私の好きな日本のお菓子を差し入れてくださったことは忘れません。また、ゼミの卒業生の集まりにも呼んでいただき、世界が広がりました。日本に留まっていては得られなかった経験や出会い、“日本人である自分”を俯瞰的な視点で捉えられた貴重な時間でした。
有意義な1年間でしたが、お金が底をついてしまい、帰国してすぐに職探しを開始。韓国語を使って働きたいと思ってたまたま見つけたのが、韓国の雑誌の編集を請け負う会社でした。もともと編集という仕事に興味があったわけではないのですが、やってみると面白いなと思うように。しかし、残念ながらその会社は倒産が決まってしまい、転職することになりました。今度は編集職に的を絞って転職活動をし、ご縁があったのがゼクシィ編集部でした。
望んで入った会社でしたが、数年経ったある時期、急に仕事が楽しめなくなってしまったんです。目の前の業務を必死にこなす毎日に、「私は自分を編集者と呼んでいいのか」「自分はどこを目指しているんだろう」と葛藤を抱える状態が続きました。
抜け出すきっかけをくれたのは、現在の部署の上長です。私の悩みを受け止め、社内のいろいろな人との接点をつくってくれました。他部署の人との交流の場に呼んでくれたり、営業部門からアイデア出しや企画の依頼が編集部に入ると、私に声をかけてくれたり。若者世代研究を担当しないかと声をかけてくれたのも、その時です。編集とはまた違う思考法ができ、新鮮な気持ちで仕事を楽しめるようになりました。真摯に話を聞いてすぐに対応してくれる上司や、悩みを相談しやすい環境に恵まれているなと感謝しています。
私はもともと、インサイトを想像することも相手に届くメッセージを考えることも好きですし、どちらかといえば得意な方です。例えば、「婚約指輪はいらない」という人がいます。でもなかには、本音では欲しいけれど自分から言い出せないだけの人もいるはず。そう考え、その人に向けた誌面をつくったことがあります。「言い出せないけど、本当は欲しい」――そんな思いを抱く等身大の女性を誌面ビジュアルと自分で綴った言葉で表現し、多くの反響をいただきました。完成した誌面は営業部門からも「よかったよ」と連絡を受け嬉しかったのを覚えています。
本音を探るにも、メッセージを発信するにも、想像力と分析力が大事です。特に私が携わっているテーマは、伝え方を間違うと誰かを傷つけかねません。
受け取り手の気持ちに寄り添い、心の中を想像し十分に考えて伝える。これはまさに、明学の教育目標にある「他者を理解する力を身につける」「分析力と構想力を身につける」と一致します。正直なところ、在学中に“Do for Others”を意識したことは多くはなかったのですが、今になって本当に大切なことを教わっていたのだと驚いています。
相手を思い、心の底にある本音を想像してどう届けるか考えるという思考法は、編集者に限らず、社会生活を送る全員が持つべきだと私は思います。その点で、“Do for Others”は、誰にとっても大事な理念です。在学生の皆さんは、せっかく明学にいるのだから、この姿勢を意識してもらえたら、きっと将来の糧になるはずです。
今後は研究成果の発信にも力を入れていきたいと思います。ブライダル総研の所長は外に出て話す機会が多く、いつも相手やシーンに合わせて自分の言葉で分かりやすく話しています。自分の言葉できちんと相手に届くように語れる人って、憧れます。人前で話すのは苦手ですが私もいつかそうなりたいと思っています。
これまでを振り返ると、すべて自分で考えて選択してきたという自信があります。卒業後、就職せずに韓国に行ったこと、ゼクシィ編集部に入ったこと、すべて自分で選んだことです。今、仕事にやりがいを感じているのも、新しい目標を持てたのも、キャリアの局面で都度、葛藤したことがバネになっています。
この、自分の頭で考えるという癖は、明学で身につきました。国際学部には自分で考えて行動を起こす人が多くいました。留学する人も多かったし、ボランティア活動に打ち込む人もいました。そういう環境だったので、誰かに流されるまま何となく学校に行って、何となく就活し、何となく働くという選択肢はありませんでした。
誰かの言う通りに進んだほうが、不安はないかもしれません。でも自分で考えて一歩一歩進むほうが、自分の生き方に納得できるし、人として厚みが出るのだと思います。明学生は、考える力を身につけられる環境にいます。ぜひ自分で考える癖をつけてほしいと思います。
私の唯一の後悔は、韓国関連以外の、もっといろいろな分野や人と接点をつくっておけばよかったということです。自分が知らないことは、夢にはなりません。人と会い、こういう世界もあるんだと知ることで、夢や目標も見えてくるし、「自分はこういうことにワクワクするんだ」と発見できると思います。
学生時代に多様な人と会い、多様な経験をして、自分の好き嫌いや強み、弱みを知っておくことが大事ではないでしょうか。