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矢澤亜希子 2003年 法学部法律学科卒業
プロのバックギャモンプレイヤー。
国内・海外のトーナメントを転戦し、数多くの優勝および入賞を果たす。2014年および2018年の世界選手権(モナコ公国・モンテカルロ)のメイン種目で優勝し、日本人初、そして国籍に関係なく女性初となる2度目の世界チャンピオンとなった。
「バックギャモン」というゲームをご存じですか?西洋すごろくと呼ばれ、2人が交互にサイコロを振り、出た目に従って駒を動かします。自分の駒15個全てを先にゴールさせたほうが勝ち。日本ではあまり知られていませんが、世界では3億人が楽しむボードゲームです。
バックギャモンは自分の出目だけでなく、相手の動きによっても状況が刻々と変化します。プレイヤーはサイコロを振るたびに生まれる膨大な選択肢や可能性の中から、最善の一手を選択し、ゲームを進めます。サイコロの「運」も作用しますが、戦略がより重要な役割を果たす頭脳ゲームで、試合が一日10時間に及ぶこともあり、集中力と粘り強さが求められます。このたび矢澤さんにお話を伺いました。
私は中学時代に「毎年10個、新しいことを実行する」という目標を立て、今でも毎年実践しています。もともとあまり挑戦をするほうではなく、興味の対象も「狭く深く」のタイプだったため、自分の足りない部分を補うつもりでこの目標を考えました。この目標を立てなかったら、おそらくバックギャモンにも出会わなかったと思います。
大学時代、「新しいこと」として始めたスキューバダイビングに夢中になりました。そして、ダイビングのためにエジプトを訪れた際に、昼間から路上に大人が集まり、何かのゲームに熱中している様子が目に入りました。「あのゲームは何?」・・・とても気になりました。
帰国後、インターネットで調べ、それがバックギャモンだと知りました。ネット上の対戦を観戦するなど、独学で学び始め、ルールや要領がわかるようになると「何故あそこであの手を打ったのだろう」「あの手が最善だったのだろうか?」と四六時中バックギャモンのことを考え、授業中も頭から離れなくなってしまいました。
そこで思い切って解析ソフトを購入したところ、学習の効率が劇的に上がり、短期間で急激に強くなれました。納得できる答えが得られるので、ずるずる考え続けることがなくなり、授業にも集中できるようになりました。学生にとっては大きな出費でしたが、良い投資をしたと思っています。
大学卒業後、仕事の休暇を利用して競技会に参加するなど、バックギャモンを楽しんでいました。しかし2008年頃に体調を崩し、とてもしんどくて、退職せざるを得なくなくなり、バックギャモンからも離れました。
2012年に子宮がんが見つかりました。既にかなり進行していて、手術をしなければ余命1年以下、手術をしても高い再発の可能性がありました。死と向き合うなか「自分は何かこの世に残せただろうか」「何も残せていない自分は、価値のない人間ではないか・・・」「子宮を残せば、子どもを産めるかも」と自問自答を繰り返し、落ち込みました。
しかし、バックギャモンのプレイヤーである主人から「手術は今しかできないよ」と言われ、今できる最善の選択を取るべきだと気づき、手術を受けることを決めました。また「自分に価値がないなら、つくればいい」と考え直し、バックギャモンの世界チャンピオンを目指すことにしました。
2013年、抗がん剤の治療中で自力歩行すら困難な状態でしたが、競技仲間に助けられながらモナコに渡航し、全身の痛みと戦いながら世界大会に挑み、スーパージャックポットという部門で優勝しました。翌2014年の世界大会では総合優勝を果たすことができました。当時の私はまさに生きるか死ぬかギリギリの状態で臨んでおり、集中力や気迫が並はずれていたのだと思います。