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ぶれない自分の軸を持つ。明学での教えが心の支えに

2025.04.07

ドン・ペリニヨンやモエ・エ・シャンドンなど、有名高級洋酒を扱う商社「MHD モエ ヘネシー ディアジオ」で営業を担当する吉田深夏さん。憧れていた企業で働く楽しさを語るその姿からは、充実した日々が伺えます。しかし、そんな吉田さんにも、大学時代には進路に迷い、悩んだ時期がありました。支えとなったのが、明治学院大学の先生方から受けた“Do for Others(他者への貢献)”の精神。これを通じて自身の軸を築いたといいます。今回は、そんな大学時代のエピソードと、現在の仕事に対する思いを語っていただきました。

吉田 深夏 MHD モエ ヘネシー ディアジオ 営業
2023年 文学部 フランス文学科卒
大学卒業後の2023年に、かねてからの憧れだった洋酒輸入販売会社MHD モエ ヘネシーディアジオに入社。京都に赴任し、バーやレストランなど飲食店への営業を担当する。2024年からは東京本社に異動し、百貨店をはじめとした量販店への営業を務める。

フランス文化が息づく企業に憧れを抱いた学生時代

一粒のショコラと出合い、「なんて美しくて美味しいんだろう」と感動した中学生の頃から、私にとってフランスは特別な国になりました。フランス人の根底に息づく、「生活を豊かに、美しく生きる(Art de vivre)」という人生哲学に共鳴し、以来、美しく生きるということを私の信念にしてきました。

「憧れだったMHD モエ ヘネシー ディアジオ、この会社で働きたい!」と思ったのも、美しいもの、素敵なものにアンテナを張って生きてきた私にとって理想的な会社だったからです。酒類業界で働く両親が、20歳のお祝いにプレゼントしてくれた「ヴーヴ・クリコ」をはじめ、私にとっての素敵な思い出とともにあるお酒を扱う会社でもありました。

お酒が飲める年齢になり、シャンパンに興味を持ち始めた頃に、フランスに本社を置くショコラのお店で、フランス産のシャンパンとショコラのペアリング販売のアルバイトをしたことがありました。そこには、MHD モエ ヘネシー ディアジオの営業担当者がお手伝いに来ていたのですが、その方の名刺の裏に並ぶお酒の名前を見て、衝撃を受けました。というのも、私にとって特別な思い入れのあるお酒が、全てMHDモエ ヘネシー ディアジオで扱われていたと知ったからです。美しい世界、素敵な世界を体現しているような会社がこの世界にあったのかと感激し、就職したいと強く心に決めました。

お酒を通して、人の感情に訴え、飲んだ人を幸せにしたい

入社当初は京都で営業職に就き、主に飲食店への訪問やお酒の導入交渉に取り組んでいました。一人の客としてお店に足繁く通い、お酒を味わいながら店主とコミュニケーションを深め、信頼関係を築く日々でした。

昼間は酒類問屋を訪問し、夜は飲食店を回るというスケジュールで、営業活動が深夜に及ぶことも少なくありませんでした。体力勝負なところもありましたが、「吉田さん、無理せず体も大事にしてね」と、家族のように気遣ってくれる店主の存在に何度も救われました。今でも訪れると笑顔で迎えてくださる方が多く、その温かさに感謝しています。

バーやレストラン、ホテルなど、取引先には年上の先輩方が多く、私はまだまだひよっこという立場です。そこで、お酒の知識を伝えるだけでなく、20代の女性ならではの視点から「こんな提供の仕方だと嬉しい」といった消費者目線の情報を共有することを大切にしてきました。

京都赴任中、特に心に残っている出来事があります。それは、当社が主催するカクテルコンペティションに、私が担当していたバーのバーテンダーが出場したことです。素晴らしいカクテルをつくるその方に出場を打診したところ快諾していただき、オリジナルカクテルの制作に熱心に取り組んでくださいました。その結果、見事フランスで行われる最終審査に勝ち残り、世界中から集まった何千人ものバーテンダーの中で頂点に立たれたのです。

これまでは主に消費者に向けてお酒の体験を届けたいと考えていましたが、この経験を通じて、お酒を提供する方々にも特別な幸せを感じていただけたことが、何よりも嬉しかったです。

フランス文学科での学びが営業の武器に

その後、東京本社に異動し、現在は法人向けの営業を担当しています。顧客は百貨店をはじめとした量販店が中心です。こちらでは、毎日足を運び信頼を得ることが重要だった飲食店での営業とは異なり、売上予測を正確に立て、「現在のトレンドではこういった商品が売れるので、こういうお酒がおすすめです」といった、より合理的でデータに基づいた営業スタイルが求められます。

営業のスタイルは変わっても、お酒を通してお客様に感情を動かしてもらえるような体験を提供したいという気持ちは変わりません。当社が扱うお酒は伝統のあるメゾンでつくられたブランドの洋酒が多く、特別な時、特別な人とともに味わいたいという方が多いので、店舗回りをした際にお酒談義をするのはとても楽しい時間です。

吉田さんが働くMHD モエ ヘネシー ディアジオのオフィス(東京本社)。会議室兼バーでは、取引先へのプレゼンテーションのほか、社内パーティなども行なわれる。

愛着のあるお酒の営業にやりがいを覚える半面、ラグジュアリーなお酒の世界観やブランディングから外れることなく、その魅力を伝える難しさも感じています。その点では、大学時代にフランス文学科で学んだ知識も私の武器になっています。例えば、シャンパン「モエ・エ・シャンドン」の代表的な一本である「モエ・アンペリアル(皇帝)」は、ナポレオンがこよなく愛したことからその名がつけられたとされています。ナポレオンがフランスに与えた影響や歴史的背景について大学時代に学んだ経験があるからこそ、商品紹介にも説得力が生まれます。大学時代に培った経験を土台に、これからも教養を深め、新たな情報を積極的に吸収しながら、高級なお酒を扱うにふさわしい立ち居振る舞いを身につけていきたいと思っています。

自分の生きる道を模索し、もがいた時期も

ですが、大学在学中には、ふと「このままフランスのことだけを考えていていいのだろうか」という漠然とした疑問が芽生えることがありました。視野が狭くなってしまうのではないか、もっと人生を豊かにする道があるのではないか。そう悩んだ末、2年生の秋学期を終えたタイミングで大学を離れる決意をしました。

その後、他大学への転学、フランスへの短期留学、写真専門学校への入学など、さまざまな経験を重ねながら、自分の進むべき道を模索する日々が続きました。行動しては考え、立ち止まってはまた動き出す。そんな試行錯誤の中で、ふと気づいたのです。制約なく自分らしく自由に学び、多様な経験を得られた明治学院大学での時間こそ、自分にとって最も楽しく、心から満たされていた瞬間だったのだと。そして、明治学院大学に再入学することを決めました。

再入学について相談した際、先生方はまず「なぜ大学を離れる選択をしたのか」「外でどんな経験を積んできたのか」を丁寧に聞いてくださいました。そして、私がどうすればより充実した学生生活を送れるのか、一緒に真剣に考えてくださったのです。

自分なりの揺るぎない美意識があり、それを探求したいという少し頑なな私の思いも、否定することなく尊重してくださいました。その寛容さと理解に対する感謝の気持ちは、今でも心に深く残っています。

大学時代、芸術の授業で、「美」をテーマにみんなで話し合ったことがありました。その時、私は「長野の善光寺の天井絵が、これまでの人生で最も美しいと思った光景でした」と発言したところ、担当の斉藤綾子教授がこうおっしゃったのです。「これが最も美しいと言い切れる、しっかりとした美の基準が自分の中にあるのは、とても素晴らしいことです」と。その言葉をいただいた瞬間、これまで追い求めてきた理想や費やしてきた時間は無駄ではなかったのだと、初めて自分の人生を肯定できた気がしました。この言葉は、私にとって宝物のような存在です。今でも心に大切にしまい続けています。

また、ゼミの慎改康之教授の講義も、学生生活において忘れられないものになりました。私がそれまで思考し続けてきた「美しく生きるとはどういうことか」「幸せとは何か」「生死とは」といった根源的なテーマが、講義を通じて言語化されていくことに新鮮な驚きがあり、新しい道が開けるような感覚を持ちました。私が学びたかったのはこういうことだったのかと、腑に落ちたのです。この講義で言語化された言葉一つひとつによって、私の美意識が支えられています。

『Poesies Completes』をはじめとした、フランスの詩人アルチュール・ランボーの作品集(吉田さん所有)。明学時代、「ランボーの作品から人生をひも解く」といった内容の授業を履修していた。フランス語の翻訳の勉強に使用することも。

先生方から“Do for Others”の精神を直に学んだ

「美しいものだけを選び取りたい」という私の思いは、少し極端すぎるところがあり、これまで回り道もしてきました。それでも、先生方はそれを否定することなく、一生懸命理解しようとしてくださる。これは、明学の教育目標の一つ「他者を理解する力」そのものだと思います。先生方と会話を重ねることで、まさに教育理念の“Do for Others”を体現しておられると身をもって感じることができました。そして、周囲の人の意見にぶれることなく、自分が本当に好きなものを好きでいられる楽しさや豊かさを学ぶことができました。

“Do for Others”と聞くと、何かボランティアをしなくてはいけない、何か善い行ないをしなくてはいけないというようなメッセージとして受け取る人がいるかもしれません。でも、私にとって“Do for Others”は、明学に戻った私の思いを先生方が必死に理解しようとしてくださったことにも通じるように、他者が本当に幸せでいられる道を後押ししようとする姿勢なのではないかと感じています。それを受け取ることができた学生生活を幸せだと思いますし、私自身もそうありたいと考えています。

卒業式で村田玲音学長(当時)が話された「自分が好きなものを、好きと言える人を育む」という考えにも、とても共感しました。世間や周囲の声に流されない自分の軸=自分らしさをきちんと大学で培うこともとても大切なこと。そういう意味では、明学には一人ひとりが自分らしいということはどういうことかを考え人生を送るための基盤となる教育や環境が準備されています。

私が在学生の方たちに言葉をかけるとしたら、さまざまな経験をしてほしいということです。自分がこうしたい、これが好きだと言える確固たる信念は、さまざまな場所に出向き、さまざまな価値観の人との出会いを通して培われていくものだと思うからです。私自身、明学を一旦離れた後、自分の人生は失敗だったのではないかと考えたこともあります。でも、結果としてあの時の経験があったから、今こうして好きな場所で働くことができています。たとえある時、失敗だと感じたことでも、後の人生が幸せに送れるなら、失敗は成功の経過でしかないと思います。だから、在学生の方にもぜひ失敗を恐れずに多くの経験を通して、自分だけが語れる言葉をたくさん持ってほしいと思います。

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