平木先生・村田学長編
対談シリーズ Vol.1

10年後を見据えた、新たなる挑戦

― 情報数理学部にかける熱き思い

10年後、20年後の「情報」を扱う⼈材育成をめざして

情報数理学部には「数理・量⼦情報コース」「AI・データサイエンスコース」「情報システム・セキュリティコース」という3つのコースが予定されています。

平木

その1つである「数理・量⼦情報コース」についてですが、これは明治学院⼤学で量⼦コンピュータを作るという意味ではありません。2030年にはさすがに量⼦コンピュータはまだものにはなっていないと思いますが、量⼦情報は当然視野に⼊れておかなくてはなりません。量⼦コンピュータが登場したときに、それが⼈間にとってどんな意味を持つかを考えるために、前もってしっかり量⼦情報について考えておきましょう、将来融合的な研究ができるような種を育てておきましょうということでプランニングしています。

村田

量⼦に関しては私も素⼈ですが、現在のコンピュータを超えるものの代表が量⼦コンピュータだろうと考えています。量⼦情報を扱う際の理論は⾮常に数学と近いこともあり、それらについてしっかりと考える部局として「数理・量⼦情報コース」を作ったという意味もあります。「AI・データサイエンスコース」は、社会動向から考えてデータで物事を動かしていくのはどんな分野でも必要になることから、必須のコースでした。ある意味もっとも⼒を⼊れているのが3番⽬の「情報システム・セキュリティコース」です。平⽊先⽣の助⾔に負うところが⼤きいのですが、コンピュータやAIができることを、会社や組織の活動に適応させていくには、そうしたものをしっかりと⾃前のシステムに組み込むことができる⼈材が絶対に必要だからです。

平木
私が情報数理学部に望んでいるのは、20年後の社会で先頭に⽴って活躍できる⼈材を育ててほしいということです。情報のベースにある数学という学問には連続性があり、基本的に不変です。これまでのことを否定するような数学は出てきません。⼀⽅で情報の場合は、現在のことを否定するようなことが次々に登場して、それが新しい情報の世界を作っていきますが、そうした情報の世界と、数学の世界を併せ持った学部をつくることは⾮常に興味深いことですし、うまく機能するのではないかと思っています。

「共通言語」としての数学を学ぶ

情報数理学部では数学を重視しているわけですね。

村田

学問としての数学と、⾃然科学の共通⾔語としての数学は別のものだと考えており、情報数理学部では共通⾔語としての数学(数学語)をしっかり学んでもらうようにしたいと思っています。数学語をきちんと学べば、さまざまな分野・職域で活⽤や応⽤ができます。情報語をその上にのせることで情報の世界に深く⼊っていくこともできます。情報の素早い変化についていくためにも、数学は重視しています。

平木

村⽥先⽣は異論があるかもしれませんが、私は数学で⼤事なのは代数学と解析、特に微分⽅程式だと思っています。この2つを知らないで世の中のことを理解するのは不可能な時代にすでに突⼊しています。例えばある問題が持ち上がったときに、「この問題は2階の偏微分⽅程式にできるから、数値解を解けばいいね」ということがすぐにわかるようになってほしいのです。これはそんなに難しい内容ではなく、単に⾔語の問題です。きちんと⼿順を踏んで勉強すれば理解できるようになるはずです。

村田

我々は、⾃然科学の共通⾔語としての数学を学ぶ重要性に、強い確信を持っています。ですから情報数理学部も、当初は「数理情報学部」という名称にしようと思っていたくらいです。学部の名称には数学を基礎においた、理系の学部を作りたいという強い思いをこめて「数理」という単語を残しました。

⼈間の想像が及ばない世界を⽣きるために、今、始めなければならない

⼈間並のコンピュータが登場すると、世の中はどうなるのでしょうか。

平木

未来に対する⼈間の想像⼒って、私も含めて社会全般的に⾜りていないと思います。2030~2040年にどうなっているかを考えて教育をしなければならない、そう思っています。しかし現代において10年後、20年後の世の中を予測することは容易ではありません。だって10年前に、現在のように全員がスマートフォンを持ち、インターネット経由で⼈間関係が構築できるなんてことが想像できましたか。10年前には想像もつかない変化です。現代では⽣活の⼀部になっているSNSですが、20年前にはTwitterもFacebookもInstagramも存在していません。ですから2030~40年にどんな世の中になるのか、私にも正直わかりません。わかっていたらここで話さずに、とっくに起業しています(笑)。今、存在さえしていないものが主流になるわけですから、その時代や変化の到来に対応できるような知識や素地を養っておくことが重要ではないでしょうか。

村田

やがて、就職するとすぐAIが部下や同僚になり、さらにライバルとなる時代が確実に到来します。相⼿との良好な関係を保つには、相⼿の個性を知り、どんな能⼒があり、どこまで信頼できるかを知る必要があります。それを知っていれば、こんなに⼼強いことはありません。情報数理学部では、そういう教育をしていきたいと考えています。

平木

だからこそ情報倫理の教育がとても⼤切だと考えています。情報倫理というのは情報の世界と⼈間との関わりのことですから、全員が⾝につけていなければならないと思います。

村田

計算機に過ぎなかったコンピュータが、⼈間の仲間⼊りをして⼈格のようなものを備えはじめるわけですからね。その意味で本学が積み上げてきた⽂系の学問と共存する意義、融合する意義は⼗分にあると考えています。

どんな学生に入学してほしいとお考えですか。

平木

我々が想像すらできない世の中で、先陣を切って活躍してもらう⼈になってほしいと考えて、新しい情報系の学部を⽴ち上げる準備を進めているのですから、情報という切り⼝を使って、世の中を変えていきたいという意欲を持った⼈にぜひ来てほしいと思っています。

村田

⾼校時代を有意義に過ごして、エネルギーを失っていない学⽣に⼊学してもらいたいと思います。⼤学には本⼈が気づかなかったようなおもしろいことがたくさんあります。情報数理学部でも、⼊学後の数学教育や情報教育に触れることで⾯⽩さを知り、どんどん突っ⾛っていく学⽣があらわれることが⼤いに期待できます。⽂系の学⽣しかいなかった明治学院⼤学に理系の学部ができ、最先端の情報について学べるわけですから、⽂系の学問に興味を持ちながら情報を学んでみたいと考えているような学⽣が⼊ってくれればベストだと思っています。

情報数理学部にかける二人の熱い思いが詰まった対談となりました。