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学生

大学院での6年間で身についた論理的思考力が研究者としての財産になる

経済学研究科 経済学専攻 博士後期課程
2024年3月修了
呂 晨梅

日本語力を活用して新しいことにチャレンジしたい!

私は中国出身で、母国の大学で貿易分野を専門に学び、卒業後は大手貿易会社に就職しました。2年半ほど勤務する間に重要なポストに昇進することに喜びを得る一方、そこでできることはやり尽くした、と感じるようになりました。同時に、何か新しいことにチャレンジして自分の可能性を試したいという思いが湧き上がり、何かないかと考えた時、行き着いたのが「日本」でした。大学時代に日本のアニメのファンになったことがきっかけとなり独学で日本語を勉強した経験があり、日本語能力試験1級(N1)に合格しました。その能力を活用しないのはもったいないですし、英語はどこへ行っても使えます。また、日本は中国の隣国なので家族と離れてもすぐに戻れる安心感があり、日本の大学院で何か新しいことを学ぼうと思い、日本留学を決心しました。2017年春に来日して、しばらくは日本語学校に通っていましたが、たまたま友人から大学院進学のためにキャンパス見学をするのでつき合って欲しいと誘われ、訪れたのが明治学院大学でした。学内を巡るうちに、キャンパスの美しさに目を奪われ、「ここで勉強したい!」と強く思うようになりました。そして、改めて明治学院大学大学院に関して調べ、入学試験を受験して合格を手にすることができ、2018年4月から経済学研究科博士前期課程で学ぶことになりました。

ヨーロッパでの貴重な体験で後期課程への進学を決意

中国の大学では経済学、特に貿易関連分野を学んでいましたが、いざ大学院で学ぶとなったら何をやりたいのか自分でも分からず迷っていました。そのことを指導教員である室和伸教授に相談すると、「一通り講義を受けてみて興味がある分野が見つかったら教えてください」とアドバイスを受け、勧めていただいた科目を受講することになりました。そういう意味で、大学院1年目は自分が興味あるテーマを見つける“自分探し”の期間だったと言えます。そして、さまざまな分野の講義を受ける中で理論分析の分野に興味を持ちました。もともと数学は得意でしたし、室教授が理論経済学の専門家だったこともこの分野を選んだ理由の一つかもしれません。

博士前期課程で最も印象的だった体験は、ヨーロッパの大学で実施された経済学の短期プログラムに参加したことです。1年目はイギリスのサリー大学、2年目はパリ経済学校(PSE)で開催され、両方とも室教授とともに参加しました。特にパリ経済学校はヨーロッパを代表する経済学の教育・研究機関で、ノーベル経済学賞受賞者を輩出している名門校です。参加者は世界各地から集まっていて、そのほとんどが博士号を持った研究者の方々で、欧米各国の中央銀行や証券会社のアナリストたちも数多くいました。彼らは経済学の最新研究に触れることでビジネスにおける新しいアイデアから具体的なプランを創出することを目的として参加しています。その中で私のような学生が自己紹介する機会があり、とても緊張しましたがこれから自分がどのような姿勢で経済学の研究に向き合っていくかという抱負をアピールすることができました。この貴重な体験を通して、博士後期課程に進み自分の研究を深く追究しようと決心しました。「自分も一人前の研究者になって、またあんなすごい人たちと交流したい!」という思いが私のチャレンジを支えてくれました。

博士後期課程では、「人口問題に関する政策の役割」を研究テーマに博士論文の執筆に取り組みました。中国と日本における人口問題が政府の政策にどのような影響を与えているかを論じたもので、第1章では中国の一人っ子政策を取り上げ、中国の出生率や人口動態とGDPや賃金などの因果関係を調べました。私自身、一人っ子政策の中で生まれたのでとても興味深いテーマでした。私たちの親世代は兄弟が多かったため教育にお金をかけられない状況でしたが、一人っ子政策により多くの人が大学に進学するようになり、教育レベルが向上しました。それによって人的資本のクオリティが高まるとともに社会の経済水準が一気に上がり、結果として一人っ子政策は中国の経済成長に大きく貢献したのです。第2章、第3章は日本の問題を取り上げていて、日本で男性が育休を取れるようになり、女性の負担軽減によって社会進出が加速したことや少子高齢化の中で労働者の退職年齢延長が進んだことが、労働力市場や経済状況にどのような影響を及ぼすかについて論じました。この論文執筆にあたっては、室教授に大変お世話になりました。論文を発表する予定だった専門誌に掲載できないことになり、落ち込んでいた時に「大丈夫だよ」と親身になって声をかけてくださり、学会発表のサポートから他の雑誌への投稿をアドバイスしていただいたおかげで無事に掲載されることになり、本当に嬉しかったです。室教授には論文作成だけでなく、日本での生活やキャリア形成などについても親身になって相談に乗っていただき、本当に感謝しています。教授がいなければ私は研究を続けられなかったと思います。

明治学院との出会いで見つけた研究者の道を歩み続けたい

明治学院大学はキャンパスが美しいだけでなく、図書館の蔵書が素晴らしく、必要なものがあれば高価な専門書でも取り寄せてもらえるのはとても助かりました。また、経済学の短期プログラムへの参加のためにロンドンとパリへ渡る際に、チケット代や宿泊代に大学院の奨励金を利用できたこともありがたかったです。

6年間の大学院での学習・研究を通して、経済学が私たちの日常と密接に関係していることが分かり、その魅力を実感することができました。そこから自分の身の回りのさまざまな物事に好奇心が湧いて、人生が楽しくなりました。そして、理論経済学を学ぶことで物事を感情に左右されず、客観的に、論理的に考える力が身につきました。それは私の人生にとって大きな財産になってくれるはずです。

大学院修了後の進路は室教授と相談し、明治学院大学産業経済研究所の研究員として勤務することになりました。将来的にはどこかの大学で講師を務めながら日本で研究者としての道を歩んでいきたいと思っています。研究テーマは無限にありますが、今興味を持っているのは、移民政策と経済の関係性やAIの労働市場への影響などです。会社員は給与で満足感を得ることが大きいですが、定年までしか続けられません。一方、研究者は自分の研究成果で達成感を得られ、一生続けていくことができます。振り返ると、明治学院大学大学院との出会いが私の人生を決め、より豊かなものにしてくれました。これからも学習・研究に励み、論文執筆や学会発表に取り組み、研究者の道を歩み続けたいと思っています。