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洋服に新たな命を-古着×ファッションショーから見えてきたもの-

9月28日、白金キャンパスアートホールでファッションショーが開催された。主役は、誰も着なくなった古着たち。学内外から集めた古着をリメイクし、再利用することで服としての新たな価値を見出す。こんなコンセプトで活動する学生団体「MGC(Meiji Gakuin Closet)」(以下、MGC)が主催した。全体構成からモデル、メイク、照明に至るまで、全てを学生が手がけた今回のイベント。舞台袖から固唾を呑んでランウェイを見守った仕掛け人が語る、「服」への想いとは。

藤井 るなさん 国際学部 国際学科 2年 服飾学校出身の母の影響から、裁断、コーディネート、モデルなどに関心を持ち、幼少期をファッションとともに過ごす。2018年10月、授業で鑑賞した「THE TRUE COST」でファストファッションに代表される「大量生産大量消費」の背景にある発展途上国の過酷な労働環境問題を目の当たりにし、同年10月、問題解決に向けた学生団体「MGC(Meiji Gakuin Closet)」を設立、現在も代表を務める。

好きは「犠牲」の上に

もともとファッションが大好きでした。けれど、大好きと言っても趣味程度。国際学部にはダブル・ディグリーを目的に入学し、入学後に入ったカンボジアの支援団体やフラサークルの活動など、多忙な毎日を過ごしていました。けれど、何かが物足りない。そんな時に出会ったのが、2018年10月の田中桂子教授(国際学科)の授業「文化研究の基礎」で見た映画「THE TRUE COST」。そこには劣悪な環境、安価な賃金で大量の服を作り続け、現状を涙ながらに訴える人たちの姿がありました。目に焼き付いて離れなかったのが、2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊「ラナ・プラザ」ビルで起きた崩落事故。この事故で1,100名以上もの衣料労働者が亡くなりました。自分が楽しむためのファッションが多くの犠牲の上で成り立っていること、そして、ファッションに対する自分の大好きな気持ち(エネルギー)を、この人たちのために何か使えないか。そう強く感じたのです。

「何か」したい!

ラッキーなことに、この授業で映画を見て私と同じように行動を起こしたいと考えた友人たちがいました。同年10月、私とともに後の共同代表を務める薮ノ下結羽さん(国際学科2年)をはじめ、友人たち5名とすぐにMGCを立ち上げ、団体としてのゴールを「古着を再びキラキラさせよう」と設定。実現に向かって必要な行動を考え始めました。ただ、思いつくアイデアはフリーマーケットや古着をそのまま配布するなど、効果的だけど何か「パンチ」の足りないものばかり。「自分たちが今すぐにできる範囲のこと」というフィルターに囚われていたのかもしれません。こんなことで自分たちのゴールを達成できるのか? 達成するためには、高いハードルに挑戦しなければならないのでは?そう考えて浮かんだのがファッションショーでした。リメイクした古着をモデルに着てもらう。もともとフリーマーケットの企画段階で考えた古着の再利用から得たアイデアですが、一番のハードルはリメイクの工程。裁断、縫い付けなど一定のノウハウが必要とされます。ただ、リメイクとは言え服を作る工程に携わってこそ、衣料労働者の方々の想いの一端に触れることができると考えていたので、真正面から取り組むことを決めました。そして、ファッションショー当日の入場料や同時開催するフリーマーケットの売り上げは、フェアトレードを推進する「グローバルヴィレッジ」に全額寄付し、過酷な労働環境に苦しむ衣料労働者の方のために役立てていただく。イベントの枠組みが決まって一安心したのは束の間。すぐさま人手の確保に着手しました。

わずか5人が、60人に

開催にあたって必要な費用の確保については、2018年11月にボランティアセンターが主催するボランティアファンド・学生チャレンジ賞に応募し、採択されて何とかクリア。 集めた古着を使わなかったら? 古着の保管場所は? 衛生上、管理が難しい古着が寄付されたら? 採択までに行われた面談時の数々の指摘は、企画をより完璧なものとするために必要不可欠な内容ばかり。全てを前向きに捉え、対策を一つ一つ考えてきました。 人手の確保については、Instagramや立て看板、ポータルサイト、ビラ配布など、やれると思ったことは全てやりました。ファッションに関心を持つ学生たちが多くいたこと、そしてファッションに関するサークルが学内では珍しかったこともあり、2019年4月には30人ほどまで増えました。ただ、人数が増えてリメイクやショーに関する議論が白熱すると、個々の好きなものやこだわりが前面に出がちに。何のために古着を集め、誰のためにファッションショーをするのか。代表として心がけたのは、MGCのゴールを繰り返し伝えること、そして仲間同士の提案は否定から入るのではなく「どうやったらできるか」を前提に考えること。仲間のモチベーションを損なわず、ゴールに向かって楽しく取り組むことにもっとも気を配りました。そして肝心の古着は、2019年7月には学外の倉庫を借りて保管をするまでの量に。ファッションショーに必要な衣装数18着分を大きくクリアできました。学生を対象とした学内の回収をはじめ、MGCの仲間自身やご家族の古着も回収しました。古着が集まると、リメイクのイメージもどんどん広がりました。一時はリメイクの作業が難航し、学外の専門学校などに作業の一部を委託することも考えました。しかし、MGCの新しい仲間の多くがリメイクの作業に強い関心を持っていたため、2019年5月から4ヶ月間は、毎週、ミシンを持ち寄って教室やボランティアセンターでひたすら作業をする日々を過ごしました。

その甲斐あって、予定していた全ての衣装がファンションショー前日に完成。本当にギリギリでしたが、仲間たちの熱意に救われました。 2019年9月には、ファッションショー当日のスタッフやモデルを担当する学生たちを含め、合計60名ほどに。どんどん増える人数に嬉しさを感じる反面、失敗できないという大きなプレッシャーを感じました。そんな時に支えとなったのが、仲間たちが楽しそうに作業する姿、そしてMGC設立時に掲げた、自身の想い。気づけば、ファッションショー当日が近づいてきました。

楽しむこと、考えること

設置されたランウェイ。リメイクされた古着を纏うモデルたち。活気あるスタッフのやりとり。すべての準備が整った会場と、見に来てくれた幼馴染からの労いの一言に、ショー開始前に思わず泣いてしまいました。ショーが開幕してからも涙をこらえるのに必死でしたが、ゼロから企画したアイデアが形となる瞬間を目の当たりにした経験は、何物にも替えがたいものです。ショーでは、ランウェイを闊歩するモデルたちにメッセージカードを持ってもらいました。

「なんで毎日違う服が着たいの?」「安い服を作っている彼らの賃金は?」「原価はいくら?」

これらはメッセージの一部ですが、ただショーを楽しむだけではなく、ファッションを取り巻く問題を身近に感じてもらいたかったのです。もちろん、リメイクされた古着たちのデザインやコーディネートも見どころの一つ。特に印象的だったのがネクタイドレス(写真中央)です。ネクタイコレクターだった私の祖父のネクタイをリメイクしたもので、ドレスを着たモデルに嬉しそうに声をかける祖母の姿が忘れられません。ショーは順調に進行し、最後はイベントに関わったスタッフを含め、全員でランウェイを闊歩。大きな拍手とともに幕を閉じました。

「この活動に参加できてよかった」

多くの仲間から笑顔とともに寄せられたこの言葉は、自分にとって大きな自信となりました。どんなことでも目標を達成することは大切です。ただ、達成した時に自分1人だけが笑顔ではなく、仲間たちも笑顔であることが目標を達成する意味の1つではないか。こう考えるようになりました。何もできないと思っていた私が代表を務めることができたのは仲間たちのおかげです。将来は起業し、環境問題への取り組みを通じて社会貢献を果たすことが夢です。具体的なビジョンはまだまだですが、ゼロから形を作った今回の経験は、これからの自分の人生における大きな基盤となるような気がしています。学生生活も残り2年間。楽しむことを忘れずに、明るく、前向きに取り組んでいきたいと考えています。