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ボランティアが結ぶこころとこころ 顔の見える支援を続けて

2021.02.17

大学で初めて参加したボランティア活動。今では大出さんの学生生活の大きな部分を占めています。2020年11月、大出さんは大学での学びにより、充実したボランティア実践を行い、第1回ボランティア大賞を受賞しました。なぜ、ボランティアへの一歩を踏み出したのか、専門である心理学の研究との関係は…。

大出 結喜 心理学部 心理学科 3年 日本語学習支援教室「えがお」でのボランティア活動(2019年9月~)と大学での学びについてのプレゼンテーションで、2020年11月、第1回明治学院大学ボランティア大賞を受賞した。西園マーハ文 心理学部教授のゼミに所属。心理学科スチューデント・カウンセラー(SC)、「1 Day for Others」リーダー、ボランティアセンター海外プログラム事業部(~2020年3月)など多岐にわたり活動。趣味は映画鑑賞、水泳・ラグビー観戦。4歳から10年以上続けた空手は黒帯。

ボランティアに飛び込むきっかけ

2年生の時、明治学院共通科目「現代世界と人間:多文化共生各論」で初めて知った「やさしい日本語」*。それまでは、英語を交えた不思議な日本語で外国人とコンタクトしようとしていました。心理学科の授業「異文化間心理学」では、移住した人は母語、母国、親戚、友人、頼れる人の喪失体験、移住先ではマイノリティになる不安から抑うつやネガティブな感情に陥りやすいことを学びました。自分のまわりにもたくさんいる外国から移住してきた人たちに何ができるか?と考えたとき、「外国人への日本語学習支援」がうかびました。

高校卒業後、学習塾でのアルバイトをずっと続けるくらい、子ども好き。小さい子にやさしい言葉で教えることも得意なのでそれも生かしたいと思いました。

*「やさしい日本語」とは、外国人にもわかりやすい日本語のこと。日本語習得にも効果的といわれる。 例えば「今朝」を「今日の朝」、「確認する」を「よく見る」のように伝える。

日本語学習支援教室「えがお」の活動

外国人への日本語の支援ができること、長く続けたいので学校から近いこと、1対1の支援ができること…。そんな希望でボランティアセンターに相談する中、出会ったのが、港区の日本語学習支援教室「えがお」でした。

現在10人のボランティアが活動する「えがお」。海外にルーツをもつ小中学生を対象に、1対1で会話や教科学習の支援を行っています。日本の文化に触れられるよう、書き初めや豆まき、七夕といった行事にちなんだ遊びや、地域の方をお呼びして実験教室やマジック教室をすることも。2021年2月時点、新型コロナウイルスの影響で対面での学習支援は叶わず、オンラインでレッスンしています。

お子さんが喜ぶと私も嬉しい~直接かかわり、長く続く支援の大切さ

2019年9月から参加。今は月に2~3回、小学2年生のお子さんを担当しています。内向的なお子さんで、最初は話しかけても単語しか返ってこなかったことも…。学校でも友達作りや、先生との意思疎通、授業で困難があると聞き心配しました。レッスンでは、日本文化を伝えるアニメやイラストを盛り込んだパワーポイントを作り、楽しくわかりやすく説明。アニメには歓声をあげて喜んでくれるお子さんです。工作が大好きだと聞いたので、おしゃべりしながらよく折り紙を一緒に折り、毎回、お互い1冊ずつ絵本を読み合っています。

『こんとあき』(林明子作・絵 福音館書店)

約1年継続した今では、私が止めるまでおしゃべりが続くほど上達し、どんどん話してくれるようになりました。できるだけたくさん話せるようレッスンしているので、学校の出来事、家族とのエピソードを楽しそうに話す姿を頼もしく感じます。1時間から1時間半のレッスンが終わると「次回はこれがしたい」とリクエストをくれたり、「もっと続けたい」と希望してくれたり…。そんなとき、実感するのは、こころの距離が縮まっていること。その達成感は、ボランティアを続けたいというモチベーションにもつながっています。私にとって大切なのは顔の見える直接的な支援、そして相手の変化が感じられる継続的なサポートであることを感じる時です。

親御さんとも仲良くなり、今年は年賀状の交換も。親御さんには「やさしい日本語」で話し、お子さんの学校での適応のサポートができるように心がけています。「教える―教わる」という表面的な関係でなく、つながりを強く感じ、私自身が心から楽しんでいるからこそ続けられていると感じます。

「えがお」のこれから

小規模な団体でボランティアの人数が少ない「えがお」。サポートを受けられていないお子さんに支援が届くよう、団体を大きくすることが長期的な目標です。また現在、遠隔であることもあり、会話中心の低学年のお子さんの支援にとどまっていますが、高学年のお子さんへの教科学習のサポートや大人へのサポートも検討中。そのためにもボランティア同士でレッスン方法のアイデアを共有したり、外国人支援に関わるフォーラムに参加したり、日本語学習支援ボランティアの講座に参加したりして、勉強を続けています。

今後も日本語学習支援の活動を継続し、卒業後もずっと何らかの形で携わりたいと思っています。

ボランティア大賞を受賞して

1年生の時から「 明治学院大学ボランティア・サティフィケイト・プログラム」に参加しています。人前で話すのは得意ではありませんが、プログラムの一環で、思い切ってボランティア大賞に応募。「心理学的支援に基づく日本に住む外国人へのボランティア実践~日本語学習支援に至るまでの歩み~」で思いがけず ボランティア大賞を受賞しました。

2019年10月、海外プログラム事業部の打合せで

応募書類の質問「あなたにとってのDo for Othersは?」。この問いは、「1 Day for Others」でのWFP(国連世界食糧計画)支援や、海外プログラム事業部の「TABLE FOR TWO」(世界の食の不均衡解消を目指す取り組み)の活動など、1-2年生の頃から自分の土台となったボランティア活動を内省し言語化する、いい機会を与えてくれました。また「えがお」での活動や「やさしい日本語」、移住者の不安や喪失体験を心理学の授業をベースに深く考えました。オンラインでのプレゼンテーションをさまざまな学部の先生方が真剣に聞いて、フィードバックをくださったことは嬉しかったです。所属している西園マーハゼミからは、戸塚区生活支援センターで活動している矢嶋祥伍さん(心理3年)も研究部門賞を受賞。ゼミでは先生と仲間から拍手の祝福を受けました。

「傾聴」から感じられること

ボランティアに限らず、人と人との関わりで重要だと感じているのが、真摯に相手の話を聞く「傾聴」です。「1 Day for Others」のプログラムの1つとして、2人の心理学科生とともに、明学生のための「傾聴ボランティア講座」を企画し、2020年11月22日にオンラインで開催しました。

質問の方法、話を聞く態度や姿勢、無言・沈黙の大切さ、話を聞きながら頭で整理する方法…。これは独学では難しいことです。当日は11名の学生が参加してくれました。最初に専門家の話を聞き、「ボランティアをする上でどんなビジョンを立てるか」「コロナ禍で活動がしにくいが、どんなボランティアがしたいか」について傾聴するワークショップを実施しました。

参加者からは「こんなに真剣に話を聞いてもらったことはなかった。嬉しい」「初めて言葉の力を感じた」との声も。傾聴の方法を学ぶことが目的でしたが、参加者自身が「傾聴される」体験をし、その大切さを実感してもらえたことはとても貴重でした。私も自分のボランティアの場に持ち帰り、傾聴や対話を行っていきます。

アクティブな心理学科の授業から、自分で考える力を養う

心理学科の授業はいつも刺激的で、よく心を動かされます。3年生の授業「グループアプローチ」で集団療法、箱庭療法など能動的な体験をし、刺激を受けました。講義では自分で考え、学生同士でディスカッションやロールプレイを行うことも多いです。日々試行錯誤しながら、新しいことを知る喜びを感じ、いつも楽しく授業を受けています。

この3年間、心理学・臨床心理学を学び、また、ボランティア活動を通じて外国人や障がいがある方と知り合ったことから、一人ひとりの個性をリアルに感じました。同時にそれまで私は、日常生活に困難を抱えている人から目をそらしていたことも痛感しました。

特に福祉の現場ではさらに心理学的知識を持ったサポートが求められていることに気づきました。自分の身近な人も関わりがない人も生活に困難を抱えているかもしれません。そのような人々がより健康的でより自分らしい生活が送れるように、学びを続け、力になりたいと考えるようになりました。

「共生社会」を目指すうえで「ボランティア活動」は大きかったです。「共生社会」を夢とあきらめず、まずは自分から探して問題を知ること、そして勇気を出して一歩踏み出すことができたのは、心理学の学びをはじめ、大学生活を通じて成長したからだと思います。

大学院に進学し、メンタルヘルスや地域保健に携わる心理専門職に

今、卒業論文に取り組んでいますが、在宅介護の心理的負担感や、どうすれば無理なく在宅介護を継続できるかに関心があります。将来的には介護をしている家族の支援について研究をしたいと考えています。

また、身体疾患や精神疾患がある方はもちろん、その親、子ども、きょうだいや周囲の方、その他専門職の方への支援を行いたいです。支援は問題を抱える方の苦悩を減らし、自分らしく充実した生活につながります。問題をゼロにするのではなく柔軟にうまく付き合い、たくさんの人が手を取り合うことで誰もが暮らしやすくなる社会に貢献したいです。

そのためには現場でクライエントと関わるためのスキルを学び身につけること、専門的な知識や倫理規範を学ぶことが求められます。それは充実した支援につなげるためになくてはならないからです。卒業後は大学院に進学し、学部以上の専門性とカウンセラーとしての知識・姿勢を身につけたいと考えています。春休みには大学院進学のための勉強をし、卒論執筆を進める予定です。将来的には臨床心理士、公認心理師の資格を取得し、地域で活躍する心理専門職を目指します。

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