書評【戦後日本と政治学史】
その他
「政治学って?」と問う人に
「政治学は政治の役に立つのか」―傍目には思いがけない問いだろうが、本格的に政治学を始めた人なら誰でもこう感じる機会はあるはずで、そもそも、これにためらいなく答える政治学者がいたなら、そいつは胡散臭い(と、政治学者なら、たいてい考える)。今、この
『戦後日本と政治学史』の表紙を飾る重厚な政治学書群に目をとめる人も、本書が日々の政治の風景からかけ離れた書物と思うだろう。だが、この本には三層の構造が隠れている。
本書で論じられているのは、川出良枝という度量豊かな政治思想史家が、自らをなすために格闘してきたその先生たちの著作と彼女自身の成果。それを一望できるのが第一層である。編者による親密なインタヴューを併せれば、第二層に、戦後日本の政治思想史研究の流れが透ける。そして、その作品群に取り組む各章筆者の書きぶりが、第三層の政治学の現在を見せる。この三層間には鋭い緊張があり、そこに、政治学を自問する政治学者たちの姿が浮かび上がる。本書によって読者は先の問いの深淵を覗いて驚愕することだろう。
渡部 純(法学部教授)
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戦後日本と政治学史
熊谷英人(法学部准教授)編
白水社 246頁/2,970円
白金通信2025冬号(No.525)掲載