社会学部教授
石原英樹 (Hideki Ishihara)
グローバル化が進み、宗教、文化、民族などが異なる人々との共生が必要となっています。市民社会が成熟する上で、異質な他者への寛容性がどの程度の水準にあるのか、寛容性を醸成する条件は何なのかを知ることは重要です。例えば同性愛に対する人々の寛容性を測定した国際比較調査によれば、1990年代以降、多くの国で同性愛への寛容性が高まり、日本も同じ傾向をみせています。性的マイノリティに対する寛容性の拡大は、異質な他者一般に対する寛容性の拡大と関連が深いといわれます。つまり社会の多様性(ダイバーシティ)が進むにつれて、性的マイノリティへの寛容性も進む可能性があるわけです。またジェンダー意識との関連も見られ、性別役割分業観が弱い人ほど同性愛に対しても寛容です(石原2012)。
しかし寛容性の高まりが、性的マイノリティ当事者が期待する関係性を作り出すとは限りません。日本の特徴として、「身近に性的マイノリティが存在しない」と答える人が他国と比べて多いことが統計データで知られています。寛容ではあるがひとごとなのかもしれない。こうした意識のねじれを主に統計調査によって明確にすることが、社会的排除に対する制度設計や教育改革に繋がると期待されます。
経済学部教授
齊藤嘉一 (Kaichi Saito)
市場には“インフルエンサー”と呼ばれる少数の特別な消費者がいて,彼らの発信するクチコミは多くの消費者の購買行動(例えば,何を食べ,どんな服を着て,どこに旅行に行くか)に影響を与える。このような認識に基づいて,企業はインフルエンサーを探し出し,マーケティングのために活用しようと試みてきました。しかし,近年では,固定的なインフルエンサーの存在を否定する研究結果が示され,“普通の消費者”がどのようにして影響力を持つかに研究の関心が移ってきました。
本研究は,この問いに答えようとする研究です。ソーシャルメディア上のコミュニケーションの特徴は,投稿者,受信者,他の受信者たちの三者間関係です。ある受信者がある投稿を見るとき,投稿内容だけでなく,他の受信者たちがその投稿につけた「いいね」も目にします。そのため,普通の消費者が影響力を持つようになる鍵は,投稿内容だけでなく,他の受信者たちがどれくらい「いいね」するかが握っているのです。本研究は,新しいマーケティングを模索する企業はもちろん,ソーシャルメディア時代を生きる個々の消費者にも貢献しうると考えています。
教養教育センター教授
篠崎美生子 (Mioko Shinozaki)
芥川龍之介が新聞社の特派員として1921年に中国に渡ったことをご存じでしょうか。私は、文学研究の立場からその時の手記や報道のされ方について調べるうちに、1910~30年代の日本人と中国人が、互いにいかに深い関心を持っていたかに気づきました。侵略と抗日のイメージだけで捉えるのはもったいない、多彩な様相がそこに見えるように思われたのです。
そこで、他分野の専門家とともに、当時の日本人、中国人が、互いに対してどのような情報を発信し、イメージを紡ぎ合っていたかを研究することにしました。その結果、先にも述べた芥川らが「西廂記」(せいしょうき)という古典戯曲まで大学で学んでいた一方で、一般的には20世紀の日本の「漢文」教育は衰退し、むしろ中国語、上海語の速習本を片手に海を渡る市民が増えたことがわかりました。この研究の守備範囲から少しずれますが、1943年の上海には10万人以上の日本人が住んでいたとも言います。一方で、日本に留学して学んだ中国人も多く、当時の中国の新聞が日本の新聞記事を引用して、批評を加えたりしてもいます。当時の両国市民は、思想的にだけでなく仕事や生活においても互いに無視できない存在だったのだと言えるでしょう。
もちろんそのことは、過去の日本の侵略の免罪符にはなりません。ですが、過去の両国市民の「交流」史のどこかに、別の選択肢がなかったかを探すことはできそうです。歴史を一色に塗りつぶさない発想を「未発の可能性」と呼ぶことがありますが、この研究を通して「未発の可能性」を見出すとともに、なぜそれが「未発」に終わらねばならなかったかを明らかにしていくつもりです。
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究課題名 |
---|---|---|---|
青野 純子 | 教授 | 3,400,000 | 農民画礼賛:18世紀国際絵画市場におけるオランダ絵画趣味と蒐集 研究課題 |
杉田 由仁 | 教授 | 3,200,000 | AIを活用した英文ライティング自動評価採点システムの開発 |
長谷川 一 | 教授 | 3,200,000 | 原発PR施設の日米比較―展示の実態からそのコミュニケーションの特質を探る |
平岩 健 | 教授 | 3,300,000 | 自然言語における不定語システムの統語メカニズムの記述的・理論的研究 |
貞廣 真紀 | 准教授 | 2,900,000 | 世紀転換期における文化意識の変遷とアメリカ文学史の形成 |
板橋 雅則 | 講師 | 1,500,000 | 学校教育全体を通した道徳教育実践プログラムに関する実践史的研究 |
鈴木 和彦 | 講師 | 1,900,000 | フランスにおける古典主義とロマン主義の相克-18世紀文学を補助線として |
平澤 剛 | 研究員 | 3,300,000 | 日本実験映画を対象としたアーカイブとフィルム・キュレーションの学術的考察 |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究課題名 |
---|---|---|---|
生方 雅人 | 教授 | 3,100,000 | 金融市場におけるジャンプリスクと資産価格形成に関する応用研究 |
大野 弘明 | 教授 | 3,300,000 | 経済発展における金融システムの移行過程に関する動学的分析 |
大村 真樹子 | 教授 | 3,500,000 | 子どもの貧困:健康格差と貧困連鎖の社会経済学的分析 |
齊藤 嘉一 | 教授 | 3,200,000 | いいね意思決定の理論構築 |
斉藤 都美 | 教授 | 3,300,000 | 公共財としての灯台供給における市場と政府の役割 |
齋藤 隆志 | 教授 | 3,100,000 | 労使コミュニケーションが人事制度改革の実施・成果に与える影響 |
佐々木 百合 | 教授 | 2,100,000 | 国際銀行規制の問題点と邦銀への影響 -自己資本比率規制の理論実証分析- |
中野 聡子 | 教授 | 2,700,000 | 限界革命期のエッジワースの契約モデルの現代的意義 |
室 和伸 | 教授 | 3,200,000 | 金融市場の摩擦がマクロ経済に及ぼす影響 |
山田 純平 | 教授 | 2,400,000 | 日米会計基準の適用とその環境 |
赤松 直樹 | 准教授 | 3,100,000 | 店舗内における選択間の影響に着目した消費者購買意思決定の分析 |
犬飼 佳吾 | 准教授 | 4,900,000 | 経済実験における研究知見の再現性と頑健性に関する検討 |
犬飼 佳吾 | 准教授 | 13,100,000 | 生活習慣病と経済行動:行動・神経経済学的アプローチによる検討 |
大竹 光寿 | 准教授 | 3,300,000 | ブランドマネジメントの慣性に関する実証研究:ブランドのあるべき姿の再構築 |
高松 慶裕 | 准教授 | 1,000,000 | 年齢や世代に基づく就業選択行動と所得課税・再分配政策 |
林 祥平 | 准教授 | 1,800,000 | 従業員の認識共有とその支援に関する研究 |
岩尾 俊兵 | 講師 | 2,400,000 | イノベーションの発生に影響する組織の「形」と「広さ」についての研究 |
岡本 実哲 | 講師 | 3,200,000 | 私的情報保護のメカニズムデザイン |
坂本 陽子 | 講師 | 2,200,000 | 多国籍企業によるイノベーションの国際展開とその要因に関する研究 |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究課題名 |
---|---|---|---|
明石 留美子 | 教授 | 3,100,000 | 母親の就労と子ども:母親の養育役割認識と就労の子どもへの影響 |
石原 俊 | 教授 | 3,000,000 | 南方離島民の戦時・戦後経験の比較歴史社会学的研究: 強制疎開と動員、帰還と離散 |
石原 英樹 | 教授 | 2,600,000 | 性的マイノリティをめぐる寛容性と不可視性―社会意識と居場所の社会学的考察 |
加藤 秀一 | 教授 | 3,200,000 | 遺伝学・ゲノム学と〈人々の形而上学〉との関係をめぐる概念分析の社会学 |
金子 充 | 教授 | 3,300,000 | 過疎地域における若年貧困層の生活保障とコミュニティ形成の理論と実践方法の探究 |
北川 清一 | 教授 | 7,500,000 | 児童養護施設実践のソーシャルワーク化に向けた支援環境の整備に関する研究 |
坂口 緑 | 教授 | 2,900,000 | デンマークの若者支援に見る生涯学習実践と行政および非営利セクターの協働構造の解明 |
武川 正吾 | 教授 | 1,800,000 | 日本・韓国・台湾の福祉意識に関する実証的な比較福祉レジーム研究 |
柘植 あづみ | 教授 | 4,100,000 | 生殖医療技術の利用における選択―新しい技術の受容・拒否・躊躇 |
藤川 賢 | 教授 | 10,000,000 | 放射能汚染地域における自然・社会関係の回復に向けた社会的過程の国際比較研究 |
金 圓景 | 准教授 | 2,500,000 | 認知症ケアにおける意思決定支援プログラムの開発 |
榊原 美樹 | 准教授 | 10,800,000 | 地域福祉計画の策定・実施・改定を促進する複合的評価システムの開発に関する研究 |
松波 康男 | 准教授 | 700,000 | 苦悩に対処する社会装置としての儀礼に関する人類学的研究:エチオピアの事例から |
米澤 旦 | 准教授 | 2,600,000 | 労働統合型社会的企業の就労環境に関する新制度派組織論的視点からの基礎的研究 |
古波藏 契 | 研究員 | 2,200,000 | 沖縄 1961-1964 -米国の対沖経済政策の形成から「第二の島ぐるみ闘争」まで |
菅野 摂子 | 研究員 | 8,400,000 | 医療実践としての人工妊娠中絶の新たなフレイム構築―出生前検査とのかかわりから |
崔 仙姫 | 研究員 | 2,000,000 | コミュニティにおける高齢者ケアのあり方に関する研究 |
原田 亜希子 | 研究員 | 3,200,000 | デンマークの学校民主主義における生徒参加の実証的研究 |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究課題名 |
---|---|---|---|
池本 大輔 | 教授 | 3,300,000 | イギリスと経済通貨同盟:ブレグジットの歴史的起源 |
中谷 美穂 | 教授 | 3,300,000 | 自治体レベルの意思決定過程に対する住民選好に関わる実証分析 |
井頭 麻子 | 准教授 | 3,400,000 | イオン性超分子金属錯体の構築と機能性開発 |
酒井 一博 | 准教授 | 2,500,000 | リサージェンスに基づく弦理論の非摂動効果の探究 |
久保 浩樹 | 講師 | 3,300,000 | イデオロギー的分極化と政党内政治の国際比較 |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究課題名 |
---|---|---|---|
大川 玲子 | 教授 | 1,900,000 | 現代エジプトにおけるクルアーン解釈とその社会的受容ーカイロ大学とアズハル大学ー |
久保田 浩 | 教授 | 7,900,000 | 宗教理論の思想史的再検討を踏まえた現代的宗教思想研究の条件と可能性を巡る研究 |
張 艶 | 教授 | 3,400,000 | 中国株価のマクロ経済・金融政策との関係及び国際株式市場との連関に関する実証研究 |
中田 瑞穂 | 教授 | 900,000 | 選挙プロフェッショナル政党概念の発展可能性―東中欧における政党機能の分析から |
浪岡 新太郎 | 教授 | 2,500,000 | リベラルな排外主義の理論的実証的研究:フランスにおけるムスリムの排除と抵抗 |
森 あおい | 教授 | 3,200,000 | トニ・モリスンの他者表象を通して見る不寛容な時代の文学・文化研究 |
森本 泉 | 教授 | 13,100,000 | 移動・移民による地域像の再構築:ネパールを越えるネパール地域研究の試み |
李 嬋娟 | 准教授 | 2,900,000 | 英語教育と海外留学が認知・非認知能力と労働市場の成果に与える影響に関する実証分析 |
野口 久美子 | 准教授 | 3,300,000 | インディアン・カジノ時代における先住民社会のエンパワーメントの諸相 |
紺屋 あかり | 講師 | 3,300,000 | 少数言語パラオ語のデジタルアーカイブをめぐるオーラリティ研究 |
江川 純一 | 研究員 | 2,700,000 | 宗教学生成期における宗教起源論の系譜をめぐる総合的研究 |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究課題名 |
---|---|---|---|
伊藤 拓 | 教授 | 2,500,000 | 「望む未来のビジョン」が主観的ウェルビーングと抑うつに与える影響の検討 |
清水 良三 | 教授 | 3,300,000 | 高齢者の心身の健康増進に有効な心身統合的援助プログラムの開発とその効果の検討 |
田中 知恵 | 教授 | 2,800,000 | 感情共有の機能に関する実験的検討:関係構築と集合的態度形成における役割 |
水戸 博道 | 教授 | 2,200,000 | 音楽科教育における移動ドと固定ドの教育実践の実態調査 |
佐藤 公 | 准教授 | 2,200,000 | 歴史教育における対外認識と自国認識の一体的な育成に関する日独比較研究 |
根本 淳子 | 准教授 | 3,400,000 | 教授設計理論を包含した初学者向け学習設計支援手法の開発 |
森本 浩志 | 准教授 | 3,200,000 | 認知症高齢者の家族介護者の役割間葛藤及び生活の質の改善要因の解明 |
滑川 瑞穂 | 講師 | 2,200,000 | うつのアセスメントツールとしてのワルテッグ描画テストの利用可能性 |
杉山 雅俊 | 助教 | 2,100,000 | 教師志望学生の理科授業力量の育成に関する研究-省察を支援するプログラム開発- |
谷川 夏実 | 助教 | 2,300,000 | 子ども間の葛藤に関する教育言説の研究―社会構築主義による幼稚園と小学校の比較分析 |
玉腰 和典 | 助教 | 1,800,000 | 体育科教育における戦術・運動技術に関する認識形成過程の理論モデルの構築 |
藤崎 眞知代 | 名誉教授 | 3,300,000 | 今日の教育・保育課題としての自己決定体験の重要性-生涯的縦断研究の成果を踏まえて |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究課題名 |
---|---|---|---|
篠崎 美生子 | 教授 | 3,400,000 | 1910~30年代の文化メディアにおける日中相互表象の形成と展開 |
渡辺 祐子 | 教授 | 2,300,000 | 宣教師資料に見る「満洲国」:植民地状況下におけるキリスト教伝道 |
杉崎 範英 | 准教授 | 3,200,000 | 負荷可変牽引装置を用いたスプリント走の力-速度関係の定量的評価に関する研究 |
野副 朋子 | 准教授 | 3,300,000 | ムギネ酸類及びニコチアナミンを介した植物の鉄欠乏シグナル感知機構の解明 |
吉岡 拓 | 准教授 | 3,400,000 | 明治~大正期民衆の天皇受容に関する研究 -御猟場を事例に- |
鈴木 陽子 | 講師 | 2,100,000 | 使用基盤モデルによる子どもの語彙と構文知識の習得についての研究 |
田中 祐介 | 講師 | 3,400,000 | 肉筆および活字資料の包括データベースに基づく近代日本の「日記文化」の発展的研究 |
池田 昭光 | 助教 | 1,900,000 | 現代レバノンのマロン派にみるアイデンティティ再編と社会関係 |
中野 綾子 | 助教 | 2,200,000 | アジア太平洋戦争における慰問雑誌の読者に関する総合的研究 |
安部 淳 | 助手 | 3,700,000 | 精子の授受を介した雌雄の配偶戦略の共進化:昆虫類を用いた精子経済理論の検証と発展 |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究課題名 |
---|---|---|---|
村上 志保 | 研究員 | 2,900,000 | 現代中国プロテスタント教会をめぐるグローバル化と政教関係の変化に関する研究 |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究課題名 |
---|---|---|---|
井上 孝代 | 研究員 | 2,100,000 | 元国費留学生のライフストーリー研究:コンフリクト解決と生涯キャリア発達の視点から |