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書評【動物哲学物語 確かなリスの不確かさ】

動物とともに味わう哲学の世界

本書は全21の短編集で構成されており、主人公はすべて動物だ。大地を踏みしめて歩く生き物、大きな翼で空を翔ける生き物、水中で懸命に泳ぐ生き物など、さまざまな動物が主役である。

そうした動物の視点で描かれているのは、「自分とは何か」「この広い世界を生きるとはどういうことか」といった人間が一度は抱くだろう疑問についてだ。それらの疑問に動物たちは正面から向き合い、答えを模索する。例えば、ミツオビアルマジロは外敵から自身の「ヨロイ」を用いて身を守る。しかしそこから先は自分で動くことができない。ただ転がされてしまうだけの自分に「主体性がない」と負の感情を抱いていた。しかし、自然とのかかわりの中でミツオビアルマジロは新たな角度から今ある環境や世界を見つめ、自然との大きなつながりやそこに生きる自分の価値を見出す。

このように、本書では「その動物の持つ唯一無二の特徴」と「すべてのものに等しく与えられている自然や世界」が掛け合わされた物語が広がっている。

動物から見た自然の風景が生き生きと描写されているのも本書の特徴である。いつの間にか「動物の視点から見た世界」に入り込んでしまい、ページをめくるたびに主役である動物の横にいるような感覚になっていく。

本書を通じて動物の目線で哲学に触れた読者の心に新たな発見や転機が芽生えるだろう。

山下歩華(2023年国際学部卒業生)

動物哲学物語確かなリスの不確かさ

ドリアン助川(助川哲也 国際学部教授)著
集英社インターナショナル 304頁/ 2,000円

白金通信2023年冬号(No.517)掲載

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