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今求められる「グローカル」な国際福祉

2022.03.17

日本で暮らす外国人は近年増加を続け、少子高齢化による労働力人口減少を背景に、さらなる増加も予測されています。一方で、外国人や外国にルーツをもつ人は生活にさまざまな課題を抱え、社会的な支援を必要とする人も少なくありません。国際福祉・国際ソーシャルワークを専門とする明石留美子教授は、そうした課題の解決をグローバル社会の責務と考え、外国人の生活改善や多文化共創につながる研究に力を注いでいます。

明石 留美子 社会学部 社会福祉学科 教授 上智大学国際学部比較文化学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了(政治学修士号取得。コロンビア大学大学院スクール・オブ・ソーシャルワーク社会福祉学研究科博士課程修了(Master of Science、Master of Philosophy取得)・博士課程修了(Ph.D.取得)。Ph.D.(社会福祉学博士)。UNICEF、国際協力機構、世界銀行東京事務所に勤務し、リベリアやフィリピンで貧困緩和などの国際協力に従事。その後アメリカ・ニューヨークへ留学し、高齢者福祉、国際福祉を学ぶ。ニューヨーク州修士号レベル・ソーシャルワーカーのライセンスを取得。本学社会学部社会福祉学科准教授を経て、2015年4月より現職。

帰国後まで視野に入れてサポートを考える

社会福祉学は、人々の生活全般に関わるとても幅広い研究領域です。一般的に知られているのは、児童福祉や障がい者福祉ですが、私が専門とする国際福祉の分野は、発展途上国の福祉課題や、自国内で暮らす外国人や外国にルーツをもつ人の生活課題への支援など、国境を超えて世界に目を向けた研究を行います。私自身は、発展途上国などに対する支援を「アウトバウンドソーシャルワーク」、国内の外国人などへの支援を「インバウンドソーシャルワーク」と捉え、それぞれについて研究を進めています。

日本でも近年外国人人口が増加していますが、その多くは、一定の滞在期間を終えれば帰国することを前提としています。そのため、支援する側には、その人の母国の風習、宗教などを理解するグローバルな視点が欠かせません。さらに、その人が日本に来る前にどんな生活をし、どんな教育を受け、どんな強みを持っていたのかを把握し、それに合った支援を考える必要があります。さらに、いずれ帰国することを視野に、帰国後の生活についても日本にいる間に検討しておかなければなりません。そうした多角的な視点で支援を行うため、現代の国際福祉や国際ソーシャルワークでは、グローバルな知識を持ちつつ、地域性(ローカル)を考慮した生活支援を考える「グローカル」なアプローチが重要だと考えています。

日本で暮らすロヒンギャ女性の生活課題とは

グローカルアプローチによる国際福祉の研究として、2019年から取り組んでいるのが、日本で暮らすロヒンギャ族の女性を対象にした生活課題の調査研究です。

ミャンマーのイスラム系少数民族であるロヒンギャ族は、国籍さえ与えられず、国内で激しい差別を受ける「世界で最も迫害されている少数民族」のひとつと言われています。2017年の治安部隊による武力弾圧以降、多くの人々が国外に脱出していることは、報道などを通じてご存知の方も多いと思います。日本にも難を逃れたロヒンギャ族の方が集住する地域があり、そこで暮らしている女性、特に小さい子どもをもつ母親に対して、身体的、心理的、社会的な生活課題について聞き取り調査を行いました。

彼女たちのほとんどは、難民申請をし、人道的な理由などで在留を認められた「定住者」です。日本で生活し、子どもを育てていくことを考えている彼女たちが、今もっとも案じているのは、「日本で生まれた子どもたちが、将来も差別を受けることなく、日本人と同じように人生を選択していけるか」でした。

話を聞いた女性たちの子どもには、日本で育ち、日本語を使い、むしろロヒンギャ語はあまり話せないという子が少なくありません。一方で、親世代には学校にほとんど通えなかったという人もいて、子どもに勉強を教えられない、塾に通わせたくても費用を捻出できないといった具体的な不安も抱えています。子どもたちに、進学や就職で日本人と同じように機会や選択肢を与えてほしい。それが彼女たちにとって大きな「生活課題」であるという調査結果は、福祉や支援という領域にとどまらず、日本人全体の意識変革の必要性を感じさせるものでした。

新たに取り組むクルド人への調査研究

2022年度からは、日本で厳しい状況に置かれているクルド人の方々に目を向け、生活課題の把握と支援についての研究を本格的にスタートさせたいと考えています。

クルド人は、主にトルコ、イラン、イラク、シリアにまたがる地域に住む民族です。独自の言語や文化を持っていますが、「クルド人の国」はなく、国土を持たない民族としては世界最大と言われています。居住地域がある各国の政府との対立が絶えず、難民として国外に逃れるクルド人も多いのですが、日本ではクルド人が難民に認定されたことはありません。ロヒンギャ族には、在留資格を持ち、働くことも社会保障を受けることもできる人がいるのに対し、難民認定されていないクルド人には就労ができず、移動も制限されている人々がいます。さらに、クルド人には以前の居住地の国籍があり、日本にはトルコ人やイラン人として入国しています。そのため、「クルド人」としての統計資料がなく、実態が見えにくいという課題もあります。研究を通じて、日本で暮らすクルド人が抱えている問題を明らかにするとともに、効果的な支援を検討していきたいと考えています。

学生を成長させる“学びのアウトプット”

大学では、2年次から4年次のゼミの指導を担当しています。コロナ禍にあった2020年度の3年次ゼミでは、学生の発案で、カンボジアの貧困家庭の子どもたちへの日本語学習をオンラインで支援するプロジェクトを実行しました。教材開発やクラウドファンディングによる資金調達も学生が行い、活動は次年度以降にも引き継がれています。

また、2年次の福祉開発フィールドワークでは、2022年度から、インドネシアの企業とオンラインでつないで技能実習生に関わる学びを計画しています。技能実習生は、日本に来る前に抱える多額の借金や、受け入れる日本企業の扱いが問題になっていますが、研究パートナーとなるインドネシアの企業は、実習生に借金をさせないシステムを構築しています。学生がそうしたグッドプラクティスに接することは、新しい福祉の形を考えていく上で大切なことだと考えています。

ゼミでの学びで私が重視しているのは、“学びのアウトプット”です。文献や教室で学んだことを、実際の支援の形でアウトプットし、体験していくことが、学生の思考力と実践力を向上させ、自信にもつながっています。ゼミには20人ほどの学生がいるため、それぞれがやりたいことを主張し合い、その主張をまとめ上げてゼミとして活動するには、さまざまな苦労があり、時間もかかります。しかし、アウトプットまでやり遂げると、学生にはおのずとこれから自分がやっていきたいことが見えてきます。ゼミ生の中には「自分の軸を持っているから、就職活動でもブレないんです」と言う学生もいて、そうした自信に満ちた言葉を聞くたびに、学生の成長を実感しています。

国際福祉研究の入口は100円の募金

私が国際福祉の道に進むきっかけになったのは、小学校3年生の時、学校の募金活動でUNICEFに100円を寄付したことでした。この時、母は私に、日本の子どもも第二次世界大戦後にUNICEFの支援を受けたことを教えてくれて、「将来UNICEFで働いて恩返しをしたい」と心に決めたんです。大学と大学院で国際政治学や国際関係論を学び、大学院修了後には、念願叶ってUNICEFに勤務することになりました。

UNICEFでは、西アフリカのリベリアに駐在して子どもたちの支援に携わり、その後もJICAや世界銀行で発展途上国の貧困問題に取り組みました。実際に現場で業務をするなかで感じたのは、支援や福祉に関する自分の知識不足と、国際福祉をもっと学んでみたいという思いです。そこで一念発起し、コロンビア大学の大学院に留学することにしたのですが、在学中に一人の先生にいただいた「あなたはアメリカでも日本でも良いから博士課程に進んだ方がいい」というレポートへのコメントがきっかけで、研究の道に進むことになりました。後年、先生にその時のことを伝えると「Comments from professors are important(教師からのコメントは重要ね)」と。今の私があるのは、先生のひと言があったからこそ。その思いを今も持ち続けているので、私自身も学生にかける言葉をとても大事にしています。

外国をルーツにする人とともに「多文化共創」

「私たちは、日本の社会に溶け込むように頑張るし、きれいな日本語を話せるように頑張る。だから、日本人も頑張ってほしい。私たちのことを差別しないでほしい」

これは、調査に協力してくれたロヒンギャ族の女性の言葉です。また、クルド人への調査研究をサポートしてくれているパートナーには、多くのクルド人が、日本で働き、税金を納め、社会に貢献したいという気持ちを持っているという話を聞きました。外国人や外国にルーツをもつ人々には、多様な生活課題があり、支援が必要であることは間違いありません。ただ、彼らの多くは、「支援を受け続けたい」わけではないのです。働いて賃金をもらい、自立した生活を送りたい。そう考えている方が大勢いるという点は、私たち日本人がもっと理解しなければならないと思っています。

日本人と外国人がともに暮らすことをめざすキーワードとして、「多文化共生」という言葉がよく使われます。しかし私は、今後人口減少が続く日本では、外国人と「共に生きる」ことを超えて、社会を「共に創る」こと、つまり「多文化共創」をめざすべきだと考えています。外国人を、労働力を補う労働者としてではなく、地域で暮らす生活者として捉え、一緒に社会を創っていく。社会が彼らを支援するだけではなく、彼らにも社会に貢献してもらう。そんなふうに意識を変革することこそ、今、日本人に求められているのだと思います。

人の本質が見られる社会をめざして

私がUNICEFで働き始める時、一番初めにサインしたのは「どの国の指示も受けない」ことを誓約する契約書でした。その契約書にサインをした瞬間、私は「自分はグローバル人だ」という感覚を持ったことを覚えていますし、それ以来、誰と会っても肌や髪の色、宗教の違いを意識することはありません。私は今、国際福祉や国際ソーシャルワークの研究成果を若い人に伝えていくことで、私と同じような感覚を持つ人が増え、「人の本質を見られる社会」になってほしいと願っています。

2021年度の3年生ゼミの学生は、「人に影響を与える人材になる」をゼミのビジョンに掲げ、自分たちの学びを高校生に伝える活動に取り組んでくれました。私が一人で本や論文を発表すること以上に、20人の学生がそれぞれ学んだことを伝え広めることには、社会全体の意識の高まりに貢献する力があるはずです。自分たちが「知る」だけでなく、他者に「伝える」という意識を持ち、それを実践する。そんな学生の姿を見て、教育の一つの醍醐味を感じることができました。大学の教員として、学生が外国人や外国にルーツをもつ人を深く理解する手助けをし、多文化共創社会を実現するグローバル人材を育てることは、自分の職務であり、責任でもあると感じながら、日々研究や指導を続けています。

人間が偏見を完全になくすことは難しいのですが、自分の偏見を知った上で、相手の本質を見られる人が増えてほしい。これからも、教育研究を通して、多様であることが当たり前の社会、多文化共創社会の実現に貢献していきたいと考えています。

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明治学院大学は、研究成果の社会還元と優秀な研究者の輩出により、社会に貢献していきます。


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