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他者理解は自己理解から-地球の反対側で学んだ大切なこと-

2021.01.22

明治学院大学では基本的に対面授業を実施している。しかし、春学期は新型コロナウイルス感染拡大を踏まえた政府の緊急事態宣言に基づき、全ての授業がオンライン授業となった。多くの学生が自宅から受講する中、なんと小林さんは南米ペルーのアマゾン流域にある小さな街 「タラポト」から受講。祖父に会いに行くため2020年2月に現地入りし、9月まで帰国できなかったためだ。意図せず長期滞在したペルーでの気付きと学び。異文化交流から見出した、現在の研究活動の原動力となっている一番大切なこととは。

小林 パウラ 愛里 経済学部 経済学科 3年 高校2年生のオープンキャンパスで明治学院大学に惚れ込み、経済学部経済学科に入学。2020年春学期は日本との時差が14時間ある南米ペルーからオンライン授業を受ける。現在は犬飼佳吾ゼミ(経済学部経済学科)に所属し、「人間の意思決定プロセスの行動分析」をテーマに、研究活動に没頭する日々。趣味はパステル画、アルトサックス(中学1年生から6年間、吹奏楽部に所属し、全国大会の出場経験あり。)

諦めかけていた明学

明学に入りたい! 高校時代、そう意気込む私に対する周囲の反応は冷ややかでした。「大丈夫?」「もっと現実的に考えたほうが良いよ」など。クラスの成績はビリから数えたほうが早いくらい。明学は、私の当時の成績では合格はほぼ不可能と言われていました。それでも入学したいと思えたのは、高校2年の夏に行ったオープンキャンパスの体験があったから。おしゃれなキャンパス。将来のビジョンを明確に語る先輩たち。そして、ボランティア参加人数の多さ。将来に対する葛藤を抱え、決められた制服で授業と部活動に勤しむ毎日を過ごす私にとっては全てが刺激的で。個性的な学生が在籍していることも魅力的でした。

ペルー人の父と日本人の母の元に生まれた私は、良い意味でも悪い意味でも小さい頃から特別扱いされてきました。そのため、ときどき孤独な気分になることも。だからこそ明学に惹かれたのかもしれません。「ありのままの私を受け入れてくれる環境はここだ!」と。だから当時は「あの学科で勉強したいから入学したい」とまでは考えていませんでした。「明学そのものに一目惚れ」こう言ったほうがしっくりきます。高校3年生の5月に部活動を仮引退し、必死で勉強しました。多い日は一日15時間ほど。その甲斐あってA日程でなんとか合格。今でも合格通知を思い出すと泣きそうになります。

経済学の面白さ

経済学の面白さに気づいたのは1年生の春学期でした。

「何で人は宿題をしないのか」 ミクロ経済学入門でこんなテーマと出会ったことがきっかけです。テーマに共感しつつも、このテーマと経済学のどこにつながりがあるのか、強い関心を抱きました。宿題を後回しにすることがどれだけ無駄か。逆に宿題をするとどのようなメリットがあるか。機会費用や効用。身近な例と経済学の専門的な言葉がつながり、経済学に対するイメージが覆りました。経済学には人の心理も関わっている。大きな気づきでした。実験経済学や行動経済学を専門分野とする犬飼佳吾ゼミ(経済学部経済学科)、に入ったのも、この気づきがあったからこそ。とても人気のゼミだったため、2019年11月に合格が決まった時は明学に合格した時と同じくらい嬉しかったです。振り返ると、入学当初は経済学に興味も関心もなかった自分が嘘のよう。すっかり虜になっている自分がいました。

地球の反対側で見えたもの

さあ、ゼミが始まる! 嬉しい気持ちを胸に秘めて過ごした2年生の春休み。アルバイトで貯めたお金で、高齢の祖父が住む南米ペルーのアマゾン流域にある小さな街「タラポト」に行きました。予定では2020年2月から約1ヶ月半。現地の国家緊急事態令が発令されたのは、ちょうど帰国を予定していた3月16日のことでした。16日23時59分以降,ペルーの陸・海・空すべての国境が閉鎖され,人の移動が禁止されました。期間は3月30日までの15日間。「もう少し滞在できる」と喜んでしまったのが正直なところですが、18日に夜間外出禁止令、国家緊急事態令の延長と、事態は深刻になるばかり。私が滞在していた地域はアマゾン流域のジャングル地帯で、チャーター便も用意されませんでした。ペルーでは道路が整備されていないところが多く、国内間の大きな移動は飛行機を利用するのが主流です。そのため、飛行機がストップしたというのは致命的でした。「日本に帰れない!」こんな不安がよぎり、大きなストレスに襲われました。

他者理解は自己理解から

約7ヶ月間もの長期間をアマゾンで過ごしたことは初めてのことでした。想像もしなかったことに、滞在中の祖父との暮らしもストレスの原因となりました。例えば日本では怪我をしたら薬を使うのが一般的ですが、現地の基本は自然治癒。実際に怪我をした時はやたらとレモンを塗ってもらいました。食事は自給自足が中心。モルモットや虫を食べることもありました。このような生活文化の違いは前半の滞在期間で慣れましたが、もっとも辛かったのがコミュニケーションに対する基本的な考え方の違い。日本では言葉に言わずとも相手の気持ちや考えを察する文化がありますが、現地の基本は「言葉で伝えること」。もともと、自分の考えや気持ちを言葉で伝えることが得意ではなかったので、仲の良かった祖父とも口喧嘩をするようになりましたし、現地の方々との何気ないやりとりが小さなストレスに変わっていきました。

特に6月の1ヶ月間は本当に辛かった。新型コロナウイルスにより近所に住む現地の人たちが何十人も亡くなり、日本の自宅で家族同然に過ごしていた愛犬の死も追い討ちとなりました。教務課の皆さんをはじめとした大学の協力のおかげで、4月から始まったオンライン授業はなんとか取り組めていましたが、6月から1ヶ月ほど、無気力の状態で過ごす日々が続きました。そんな時に救いとなったのが、クリスチャンである現地の叔母が教えてくれた聖書の言葉の数々。

「盗みを働いていた者は、今から盗んではいけません。むしろ、労苦して自分の手で正当な収入を得、困っている人々に分け与えるようにしなさい。悪い言葉を一切口にしてはなりません。ただ、聞く人に恵みが与えられるように、その人を造り上げるのに役立つ言葉を、必要に応じて語りなさい。(エフェソの信徒への手紙4章28、29節)」
「あなたがたを襲った試練で、人間として耐えられないようなものはなかったはずです。神は真実な方です。あなたがたを耐えられないような試練に遭わせることはなさらず、試練と共に、それに耐えられるよう、逃れる道をも備えていてくださいます。(コリントの信徒への手紙10章13節)」

特にこの2つの言葉には元気づけられました。現状をもっと前向きに捉えようと考え直すことができました。

こう考えてはじめたのが、日本の文化を伝え、自分を理解してもらう取り組みです。子どもたちに日本語での簡単な挨拶や折り紙を教えたり、現地で入手可能な食材で日本食を作ったり。日本でどういう音楽が流行っていて、自分はどんな友達とどんな生活を送っていたのか、など。できるだけ自分のことを知ってもらおうと努力しました。 すると、相手も自分たちの文化との違いを面白がって聞いてくれるようになりました。もっと私のことを知りたいと質問してくれたり、逆に「日本ではこんな時はこうするみたいだけど、私たちはこんなことをするんだよ」と教えてくれたり。

語学力さえあれば何とかなる。スペイン語で受け答えができれば良いだろう。そう思っていましたが、その考えは大きな間違いでした。

自分はどんな国から来て、普段、どんなことをしているか。自国の文化や考え方はどんなものか。コミュニケーションにおいては、いわゆる「自己理解」とそれを「伝え、理解してもらうこと」がまずは大切であることに気づきました。アマゾンで培った「人」とのコミュニケーションの仕方、強い関心は、人の意思決定のプロセスを学ぶ現在の研究活動の原動力となっています。

もっと「人間」を知りたい

現在、もっとも力を注いでいるのが研究活動です。人間の意思決定のプロセスを分析しています。人間が判断や意思決定をする際の身体や脳の働きを調べたり、人の行動の癖を調べたり。国内最大規模の経済実験設備が整備された高輪校舎にある実験室を中心に、犬飼佳吾准教授、ゼミの仲間と研究に取り組んでいます。現時点では、ゼミは対面とオンラインのハイブリッド形式で行っています。私は対面を選択していますので、毎週ゼミ生の仲間たちと会って、就職活動や何気ない雑談をすることも楽しみの一つ。ゼミでは、分析に必要なデータを集めるための被験者プールの登録数を増やすことも大切な取り組みです。登録数が増えれば分析の精度も高まるため、明治学院大学の学生だけではなく、今後は関東圏の大学、短大、専門学生、大学院生にも協力をお願いする予定です。最近はアイトラッキングにも強い関心を抱いています。人が広告などを見る際などの眼球の動きを計測する研究です。研究でわかった人間の行動の傾向を、将来マーケティングなど、人がより良い選択をする場合のサポートに役立てたいと思っています。

アマゾンで過ごした経験のおかげで、「人間」そのものに対する興味、関心が高まりました。自分が考えるテーマや仮説を、主観だけではなく定量的に分析し、実証する。明学に入る前は経済学にこれほど「ハマる」ことは想像していませんでしたが、自分が着実に成長できている。これだけは自信を持って言えます。 将来はIT業界を中心に、消費財メーカーも視野に入れて就活を進めています。デジタルを用いて資源の無駄遣いを減らし、アマゾンをはじめとする地球の環境保全に役立ちたいと思っているからです。人のために何かをする。明学の教育理念“Do for Others”にもつながることですが、経済学で培った分析力に想いを込めて、多くの人を笑顔にする仕事をしたいと考えています。

そのためにも、まずは1日1日を大切にしながら、これからも「経済学」にとことん向き合い、学びを深めていきます。

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