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世界初の「階段昇降ロボット」をはじめ 新しいテクノロジーの開発に全力を投じる

2022.11.30

掃除や点検、荷物の運搬など、さまざまな場面で活躍する自律移動ロボット。その開発に全力を注ぎ、ロボット市場から大きな注目を集めているのが、神奈川県相模原市と福島県南相馬市を拠点にするクフウシヤです。同社を率いるのは明治学院大学の卒業生、大西威一郎さん。明学時代は「仲間との時間が何よりも大切でした」と話す大西さんに、明学時代の学びやロボット開発にかける想いをお聞きしました。

大西威一郎 株式会社クフウシヤ 代表取締役

1977年兵庫県生まれ。2001年に明治学院大学経済学部経営学科を卒業。ITシステム会社勤務などを経て、2009年に法政大学専門職大学院イノベーション・マネジメント専攻(MBA)修了。2014年にクフウシヤを起業し、「まだ世の中にないロボット」の開発を目指す。

学業よりも仲間との時間を優先

私は明治学院大学で有意義な学生生活を満喫しました。今も明学出身であることを誇りに思っています。でも、どうして明学を志望したのかというと、明確な理由はないんです。なんとなく、明るくて楽しい学生生活を送れそう。面白くて気の合う人が多そうな気がする。そんなふわりとした理由で、明治学院大学の受験を決めました。

入学してからも、そんなふわりとした気分で過ごしていました。授業やテストに真剣に取り組んでいたかというと、胸を張って「はい」とは言えません。恥ずかしい話ですが、ゼミも受講したことがないんです。サラリーマンで経営者をしていた父親の影響で経営に興味があったため、マーケティングやM&Aの授業は興味をもって受講していましたが、記憶に残っているのはそれくらい。決して模範的な学生ではありませんでしたね。

その代わり、友だちと過ごす時間やサークル活動を大切にしていました。横浜キャンパスでは学食前のベンチ、白金キャンパスでは3号館前のスペース。時間があれば友だちと集まり、ずっとしゃべっていましたね。これが、かけがえのない財産になった。今の自分の生き方の根幹をつくる重要な経験だったと思います。独り善がりではいけないということ、みんなで大きな力を生み出すには日頃の「あり方」が大切なこと、「強い」というのは「優しい」のだということ、負けず嫌いで「俺が、俺が」が強すぎると他人も自分も傷つけてしまうこと、何事も思う通りにはいかないということ。人生の教訓をたくさん学びました。

学生時代は漠然と、「将来は経営者になりたい」と思っていました。父親の影響と、私は歴史が好きなので史実に残るような人物に憧れていたからです。とはいえ、私には突出した技術や特技もないし、起業する資金もありません。20~30代は就職して経験を積み、お金を貯め、その後でチャンスがあれば起業したいな、くらいに考えていました。

そうした考えから、学生時代に就職活動を始めた時、3つのことを意識しました。1つ目は、これからの時代にますます必要とされるITの経験を積みたいということ。2つ目は、完成された製品をつくったり売ったりするのではなく、ゼロベースで製品やサービスをつくり出せるような仕事を選びたいということ。そして3つ目は、営業、技術、運用など、複数の職種を経験したいということです。ひとつの会社でさまざまな職種に就くのが難しいのであれば、何回か転職してもいいなと思っていました。

失敗からの学びが大きかった

就職した最初の会社ではIT&アウトソーシングの提案営業を担当。希望通り、「どんなものでも良いから、自分で商品を考えて、それを売ってこい」という部署に配属され、最初は途方に暮れましたが良い経験を積むことができました。次は箱根の温泉ホテルに勤め、現場でのオペレーション業務を経験し、その次の会社で再びIT業界に戻りましたが、今度は営業ではなくUNIXエンジニアとして技術を磨きました。その後、かねてから興味があった法政大学専門職大学院(MBA)に通い、経営の勉強に思う存分励んだのです。

MBAを修了した後、父親が勤め先を辞め飲食業界に挑戦するというので、仕事を手伝うことになりました。結果は散々。3店舗開業しましたが、わずか3年間で2店舗が閉鎖。大きな挫折を味わいました。でも、この挫折がいい学びになった。当時の私は、何をやっても自分ならできると、いくぶん天狗気味になっていたのです。事業の失敗は、そんな自分を見つめ直すいい機会になりました。

失敗したとはいえ、落ち込んでばかりもいられません。生活のために次の仕事を模索していると、MBA時代の友だちから相模原市産業振興財団を紹介されました。最初は中小企業診断士として勤務し、その後、神奈川県「さがみロボット産業特区」のコーディネーター役に。そこでロボットに深く関わっているうちに、自分の手でロボットビジネスに挑戦したいと思うようになりました。

クフウシヤ、始動!

2014年10月、自律移動ロボットとROS(Robot Operating System:オープンソースのロボット制御ソフトウェア、およびロボット開発の基盤となるサービス)ソフトウェアを開発する会社「クフウシヤ」を起業しました。

数あるロボットの中でどうして自律移動ロボットを選んだのかというと、将来性を高く感じたからです。自律移動ロボットに掃除ユニットを搭載すれば清掃ロボットに、AIカメラを搭載すれば警備ロボットに、各種計測用センサーを搭載すれば測定ロボットになります。さらに以前のロボットは操作系統をハードウェアの中に組み込んだタイプが主流でしたが、最近はROSで制御するスタイルが注目されています。自律移動ロボットのハードウェアと、ロボット制御アルゴリズムを同時に開発できる会社はきっと重宝されるだろうと思いました。

クフウシヤは従業員15人規模の小さなロボットベンチャーですから、大手企業と同じことをしていては競争に勝てません。これまでは業務用清掃ロボット「Asion(アシオン)」が当社を代表する製品でしたが、この市場には大手が参入してきました。したたかに生き残るために、もっとニッチな市場で、ニッチなニーズに対応するロボットをつくっていきたいと考えています。

現在、開発に力を注いでいるのが「階段昇降ロボット」。階段を自由に昇り降りする世界初のロボットで、掃除や点検のほか、荷物の運搬などにも運用できます。そして、「犬型四脚ロボット」のソフトウェア開発。タイヤ型の自律移動ロボットは安定性が高いものの、段差や石、ケーブルといった障害物に弱い。その点、犬型の四脚ロボットは悪路走破性が高く、屋外屋内を問わずにさまざまな業務で活躍できます。将来的には月面で活躍するロボットに……なんていうことになるかもしれないと、期待しているのです。

小さなベンチャー企業の強みを生かす

前述の通り、クフウシヤは小さなベンチャー企業です。しかし、小さいながらもロボット業界の中で存在感を発揮できていると自負しています。2019年には東日本大震災と原子力発電所事故からの復興に取り組む福島県南相馬市がロボット特区になったのをきっかけに、現地に事務所を構えることができました。南相馬では復興の助けになるようなロボットの開発に励んでいます。

クフウシヤのような小さな会社が活躍できているのは、スタッフの存在が大きいといえます。私は経済学部経営学科卒業の文系人間でロボット開発の実務はできません。より多くの仲間が集まってくれる作戦を考えたり、ロボットエンジニアが最先端のロボット開発に楽しんで取り組むことができる環境を整えたりするのが私の仕事です。現在、当社のエンジニアの多くは、ロボット競技会「ロボコン」の出身者。大手メーカーに就職できるはずなのに、クフウシヤを選んで来てくれているのです。

その理由は、クフウシヤがソフトウェアからハードウェアまで、一貫してつくり込むことができる企業だから。ロボット開発は大きく電気・メカ・ソフトウェアの3つに分けて考えられていますが、大手ではそれに沿って部門が分かれており、電気部門に配属されると電気だけ、メカ部門ではメカだけ、というようになってしまいます。ゼロから百までロボット開発に携われる。そこが小さな会社ならではのメリットでしょうね。

“Do for Others(他者への貢献)”と「情けは人の為ならず」

それと、明学在学中には特に意識もしませんでしたが、キャンパスで経験した時間も大きな財産になっていると思います。明学の教育理念は“Do for Others(他者への貢献)”で、私が大切にしている言葉は「情けは人の為ならず」や武田信玄の「人は城、人は石垣、人は堀。情けは味方、仇は敵なり」です。入り口が少し違うかもしれませんが、明学の理念も、私自身も、他者への貢献という同じゴールを目指していると感じています。

人のために尽くすことは、巡り巡って自分に返ってくる。他人がしてもらったらうれしいこと、逆にされたら嫌なことを常に考え、実践できる人のもとには仲間が集まってくる。そしてそれが大きな力を生み出すことになる。クフウシヤはその好循環を実践できる企業でありたいですね。

明学の在学生には、将来の方向性を模索中だという学生もいることでしょう。私から贈りたいメッセージは「素直で正直に誠実に。他人にやさしく。何事にも腹を立てず、他人のせいにせず、諦めずに一生懸命に努力を継続すること」です。どんな人にも必ず人生で数回は良いチャンスが巡ってくるものです。そのチャンスを生かすために、思う通りにいかない経験や、感謝の気持ちが自然と出てくるような経験、学びを重ねていってほしいですね。

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