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未来を決めつけずに自分が楽しめる方向に進んでいけば、きっといい仕事ができるはず。

2021.10.07

主演映画『女たち』の圧倒的な演技で観客の心をつかんだ篠原ゆき子さん。彼女が俳優の道に進むことを決めたのは、明治学院大学に在学していた時でした。今、最も旬な俳優のひとりである篠原さんにお話を伺いました。

篠原 ゆき子 俳優
2003年法学部法律学科卒業
しのはら・ゆきこ/2005年、山下敦弘監督『中学生日記』で俳優デビュー。14年、青山真治監督『共喰い』で第28回高崎映画祭最優秀新進女優賞受賞。20年10月からスタートしたテレビドラマ『相棒』シリーズseason19(テレビ朝日)でレギュラーを務める。10月3日にスタートするWOWOWの連続ドラマW 宮部みゆき『ソロモンの偽証』に出演。

明学時代にモデル事務所に所属。卒業後に演技の道へ

世界中が新型コロナウイルスに翻弄された2020年は、篠原ゆき子さんにとっても激動の1年でした。『銃 2020』『浅田家!』『罪の声』『ミセス・ノイズィ』『あのこは貴族』と、出演した映画が次々に封切られ、10月からは人気テレビドラマ『相棒』のレギュラー出演者としてお茶の間にも広く知られる存在に。夏からは、21年6月に公開された主演映画『女たち』の撮影で群馬県富岡町に数週間滞在しました。

「前半は家で家族と一緒に自粛生活をしていたのですが、後半からとてもあわただしい生活になりました。本当に落差の激しい1年でしたね」

篠原さんはそう振り返ります。初主演となった『ミセス・ノイズィ』は、インディーズ作品ながらロングランを記録し、多くの人たちが篠原さんの高い演技力を知る作品となりました。今年に入ってからは、さまざま不幸に立ち向かって強く生きようとする女性を圧巻の表現力で演じた『女たち』のほか、ハリウッドデビュー作となった『モータルコンバット』も公開されています。

子どもの頃から映画が大好きで、映画番組の『金曜ロードショー』を見るのが一番の楽しみだったそう。そうしていつしか、自分もテレビや映画に出るような仕事がしたいと思うようになったといいます。でもその夢は、家族にも友だちにも話したことはありませんでした。

「人に話すのは恥ずかしかったし、芸能界に入る方法もわかりませんでした。20歳の頃にモデル事務所に所属しましたが、その時点でも進路をはっきり決めていたわけではないんです。自分の将来を真剣に考えるようになったのは、周りのみんなが就職活動を始めた頃でした。それからですね。演技の勉強をしっかりしようと思うようになったのは」

大学卒業後に映画監督の山下敦弘さんが主宰するワークショップに参加し、短編映画『中学生日記』に出演したのが役者としての最初の仕事になりました。その後、テレビドラマ『エンジン』『モテキ』などに出演しながら、一方でタレントとして生きていく方向も探ったといいます。

「10年くらいは模索の時期が続きましたね。バラエティ番組やスポーツ番組のオーディションを受けようとしたことも。でも私、興味がないことはなかなか頭に入らないんです(笑)。例えば、サッカー選手の名前を覚えようとしても絶対無理。でも、台本のセリフならすらすら覚えられました。ああ、やっぱり私はお芝居がやりたいんだって思いましたね」

個性を大事にしてくれる校風が好きでした

転機になったのは、青山真治監督の『共喰い』への出演でした。田中慎弥さんの芥川賞受賞作を原作としたこの映画で、篠原さんは光石研さん、田中裕子さん、菅田将暉さんといった個性的な役者と共に中心人物のひとりを体当たりで演じ、観客に強い印象を与えました。『共喰い』の後、『ミセス・ノイズィ』で主演を務めるまでの7年ほどの間に、実に15本以上の映画に出演しています。

「これまで演じてきたのは、シリアスで重い役柄が多かったですね。私自身は、全く波乱のない普通の人生を歩んできたのですが、いただくのはなぜか悲劇的で波乱万丈な役なんです。台本を開くたびに、今回もすごく難しい役だなあと、いつも思っています(笑)」

女優になる夢を一人静かに胸に抱いていた明学時代のことを、篠原さんは「本当にゆったりした時間を過ごすことができた」と振り返ります。
「のんびりしていて、堅苦しくなくて、一人ひとりの個性を重んじてくれる。それが明学の校風だと感じていました。大学時代の友人には、自由にクリエイティブに生きている人がとても多いんです。きっと、青春時代をそんな校風の中で過ごすことができたからだと思います」

いくつになってもチャレンジをしたい

一人娘は5歳になり、母の仕事を理解できるようになりました。 「一緒に銭湯に行った時に、お客さんたちに向かって、〝この人は『相棒』と『ミセス・ノイズィ』に出演していまーす。よろしくお願いしまーす〟と大声で言い出した時はびっくりしました。裸のままで皆さんに〝すみません、すみません〟って謝りました(笑)」

家族の支えがあって自由に仕事ができることが何よりの幸せだと篠原さんはいいます。オフの日は、好きなお酒を飲んで、おいしいものを食べて、ヨガをすることでストレスを発散しているとか。

「でも私、仕事が大変だと感じることってあまりないんですよ。共演者の皆さんやスタッフさんと話すのが大好きだし、もともと嫌いな人ってあまりいないんです。人が好きだから、この仕事が楽しめているのだと思います」

俳優として節目を迎えて、新しいことへのチャレンジを始めたという篠原さん。そのひとつが英語の勉強です。
「海外の作品に出る機会をいただき、これからもチャンスがあればどんどんチャレンジしていきたいので、英語に取り組み始めました。もっと若い時に勉強をしておけば良かったとつくづく思います。今から大学時代に戻りたいくらいですね」

もうひとつのチャレンジが、脚本の執筆です。いつか完成したら、自分の作品を撮影したい。そんな思いを温めています。また、今後はコミカルな役や悪女役もやってみたいと篠原さんはいいます。

「自分で未来を決めつけず、流れに乗って、自分が好きな方向、楽しめる方向に進んでいけば、きっとこれからもいい仕事ができるはず。そう思っています」

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