昔からピアノを習いクラシック音楽に親しんでいた影響で、ヨーロッパの文化に憧れを持っていました。高校生になると特にフランスの小説や絵画に興味が湧き、フランス文化について真剣に学んでみたいと思い、明治学院大学文学部フランス文学科に進学しました。そして、2年次に選択した講義で、フランスの女性小説家であり、映画監督でもあるマルグリット・デュラスのことを知りました。彼女の作品は1960~80年代に日本でも高く評価され、映画「愛人/ラマン」のヒットで一般的な人気を得たこともあります。初めて彼女の小説に触れた時の感覚は今でも忘れられません。感想も言えないくらい難解な内容で、私にとって全く未知の世界が広がっていました。その読者の理解を拒むような難解な部分が彼女の小説のひとつの魅力で、それを何とか自分なりに理解して、「彼女の小説と彼女自身のことを語れるようになりたい!」という思いから大学院でさらに学習・研究を深めようと決心しました。明治学院大学大学院のフランス文学専攻を選んだのは、明治学院大学の出身に加えて、以前にお世話になった非常勤講師の先生に「フランス文学を深く学ぶなら明治学院はとても良い環境だよ」とアドバイスをいただいたことも大きな理由でした。
大学院では当初の目的通り、デュラスに関する研究に取り組み、論文も「マルグリット・デュラスにおける身体表象と『声』」をテーマにまとめていきました。デュラスの作品において「声」という素材が頻繁に使われていて、声が身体から分離して声単体の存在となっていると言われており、それが本当なのかについて敢えて身体を主軸に置いて論じた内容となっています。作業としてはデュラスの作品を読み込むのはもちろんですが、彼女に関する先行研究や文献で身体について論じているものは少なかったので、身体で何が語れるのかを様々な視点から考え、精神分析など直接的に関連性が薄いと思われる分野の資料なども参考にしながら、研究テーマを追究していきました。指導教員の慎改康之教授は論文を構築する上での方法論について親身になって指導してくださり、特に教授が専門的に研究されているミシェル・フーコーの理論を取り入れることで大きなヒントをいただきました。おかげで満足できるレベルの論文が仕上がったと思います。この論文執筆や日々の講義を通して、ある一つの物事に対して多角的に、柔軟にアプローチすること、そして他者の意見を取り入れつつも自分の意見や考えはしっかりと貫くことの大切さを学ぶことができました。
大学院でのもう一つの忘れられない体験は、フランスへの長期留学です。大学院2年目の秋から翌春までの2学期間にかけてフランス西部のレンヌにあるレンヌ第二大学で文学の講義を受けました。留学準備のためにフランス語は自分なりにトレーニングして日常会話レベルはできましたが、フランス語でフランス文学を学ぶのは全く新しい感覚でした。グループ・ディスカッションの時間なども多くかなり苦労しましたが、ネイティブのクラスメイトから「フランス人でも難しいから大丈夫だよ」と励ましてもらいました。おかげでフランス語は上達しましたが、フランスの文化や芸術を学習・研究するためにはもっと努力しなければいけないと実感させられました。ネイティブレベルになって初めて見えてくる世界もあるので、今後も継続してフランス語を学んでいきたいと思っています。
レンヌ第二大学は世界中から留学生が集まるグローバルな環境で、学生寮は個室でしたが共同キッチンなどでの交流を通して友だちもたくさんできましたし、レンヌはパリから特急で1時間半の距離にある郊外都市で自然が多く、学習の疲れをリフレッシュできる環境にも恵まれていました。留学生活の中で日本では手に入らない資料に出会えたことは論文執筆に大きなプラスになりました。また、フランス人はコミュニケーションが積極的で、その環境に慣れてくるとこちらもオープンな気分になり、日本では引っ込み思案だった自分が学習・研究に限らずいろいろなことに前向きにチャレンジしようという姿勢になれたことも留学体験のおかげだと感じています。
大学院修了後は教科書事業関連会社に事務職として就職する予定です。明治学院大学の図書館でアルバイトをするほど本が好きで、本を通して人の学びの役に立ちたいという思いから就職先を決めました。大学院での学習・研究を経験して、ある目標に対して計画を立て、スケジュール通りに実行する力や調査する力が向上したと思うので、職場でもそれを活かしていきたいです。また、フランス文学に関する研究活動については、デュラスに拘らず幅広く作品を読み、研究を継続していくつもりです。将来的には研究者としてまたフランスに行ってみたいですし、私が留学先でたくさんの方にお世話になったように、日本で勉強を頑張ろうという外国人の方のサポートもできたらいいなと思っています。
フランスに留学して実感しましたが、フランス人は表現方法や感情の表し方が日本人とは異なります。哲学や宗教の影響も強く、人間としての面白さ、興味深さがあり、それを追究することは人間とは何かという大きなテーマにもつながります。それがフランス文学や文化を学習・研究する魅力のひとつだと私は考えています。明治学院大学大学院文学研究科は、少人数制で学生個々の興味に応じた幅広いテーマを研究することができ、先生方もそれを受け入れて全力でサポートしてくださいます。私がデュラスに出会ったように、自分の好きなこと、学びたいことがあれば、きっとそれを実現できる環境がここにはあります。