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「緊張」は成長の種~心理学と剣道から見えたもの~

2022.02.28

あの時、もっと落ち着いて取り組んでいれば結果は変わったかもしれない。 誰しも一度はこのような経験があるのではないでしょうか。加藤さんにとっても「緊張」は悩みの種の一つでしたが、心理学との出会いが成長の種へと変化させました。受験に卒業、そして入学。新しい挑戦を控える皆さんにとって、加藤さんの学生生活が大きな気づきとなるかもしれません。

加藤 謙吾 心理学部 心理学科 4年緊張に悩まされた小中高時代の経験から、人の心の作用に強い関心を抱くようになり、心理学部に入学。社会心理学の勉強に注力する傍ら、体育会剣道部にて、幼少期から続ける剣道の腕を磨き続ける。卒業後は半導体メーカーに就職予定。好きな言葉は感謝報恩。

緊張に悩まされた小中高時代

幼少期から人前に立つのが苦手で、剣道の試合では極度の緊張状態に陥り、小中高と大事な場面で負けてしまうことが何度もありました。「どうすれば緊張状態でも自分の力を発揮できるのだろう?」 とても悩んでいたので、こんなことばかり考えていました。大学受験について考え始めた高校2年のある日。剣道部の先輩が部活動に遊びに来てくれたのです。その先輩がちょうど明治学院大学の学生で。心理学部があることも知って、オープンキャンパスに足を運びました。 まず目に飛び込んできたのは、正門で挨拶を交わす学生たちと警備員の姿。当たり前だけどなかなかできないことってあると思うのですが、日頃の挨拶や感謝を口にする光景が、その時の自分にはとても素敵に写りました。品の良さを感じる大学で、心理学と剣道ととことん向き合いたい。

私と明治学院大学の関係はここからスタートしました。

通学時のお供はスマホ、ではなく関数電卓

入学後は早々に剣道部に入部したのですが、勉強面でとても大きなハードルが待ち構えていました。「基礎統計学」の授業です。心理学を研究する上では統計法の基礎的な手法を習得することが必要なのですが、もともと数学が大の苦手。一気に心配になったことを覚えていますが、自分が学びたい心理学、いわゆる「緊張の正体」を学ぶためには避けて通れない道です。目標を見据え、自分を奮い立たせて勉強に取り組みました。

自分で言うのもおかしいかもしれませんが、1年次はまさに「統計学と血眼で向き合った」と表現できます。通学時のお供はスマホ、ではなく関数電卓。通学中の車内は自分にとって自習室のようなものでした。毎週火曜日には友人宅で勉強会。夜通し勉強し、緊張と戦いながらも、授業の小テストに臨んでいました。

授業を重ねるにつれ自分の中で小さな気づきを得ました。それは、「統計学は私たちの身の周りに溢れている」ということです。世の中の自然界の現象や状態を平均・確立などを用い、グラフや統計数字を見て世の中の仕組みを理解できた時が一番楽しいと感じるようになりました。あらゆる事象に対して用いられる統計学の奥深さと魅力を発見できたのは、私にとって大事な気づきでした。

ここまでやっていると不思議なことに、あれだけ嫌がっていた統計学の勉強がなぜだか好きになり始めたのです。小テストの結果が少しずつ良くなっていったことも大きな理由かもしれません。統計学の基礎的知識はもちろんですが、苦手「だからこそ」と積極的な気持ちをもって取り組んでみることの大切さを学んだ経験でした。

重視したのは部員同士の心と心をつなぐこと

高校まで、私はとにかく勝つことにこだわって剣道に取り組んでいました。大学でも同様の考えで部活動をスタートさせましたが、待っていたのは、「勝つことが全てではない」という異なる価値観との出会い。私のようにずっと剣道をやっている部員もいれば、大学で小学校ぶりに竹刀を握る部員もいます。試合に勝ちたい。剣道を楽しみたい。運動不足を解消したい。多様な背景を持つ部員が揃うため、目標もさまざまです。どのような価値観に重きを置いて剣道に取り組むべきか悩んだ時期もありましたが、2020年4月以降にコロナ禍となり、部活動をオンラインに変更せざるを得ない事態に。

「対面が前提となる剣道で、オンラインで何をやればいいのか?」 同級生たちと就職活動などの話をしていても、気づくと話題は剣道部のことばかり。3年生となり、部のマネジメントを担う立場でもある故に途方に暮れる日々もありました。個人でできる剣道を、自分たちはなぜ大学の部活動で取り組んでいるのか。今一度、自分が剣道と向き合う動機に振り返り、この状況で何をすべきか考え抜いたのです。同級生はもちろんですが、顧問の渡部純教授(法学部政治学科)もとても親身に相談にのってくださいました。そのような支えもあり、取り組みをスタートしたのが「ランニング」 ランニング?と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、何よりも重視したのは部員同士の心と心をつなぐことです。特に新入部員との交流はオンラインのみでしたので、部全体として何かに取り組む必要があるのでは。そう考えました。「ちょっと待って。もし部員のご家族が集団で何かをすると聞いた時、どのような気持ちになるだろう?」 このような葛藤と向き合いながらも、部員たちにランニングをする理由、そして想いを伝え続けました。その甲斐あって、参加人数は初回の4人から、気づけば25人まで増加。感染防止対策を徹底しながらランニングをしたことで上下間の心理的な壁も無くなり、上級生と下級生同士が楽しく会話をしていたあの光景は忘れることができません。

勝つことも大事だけど、大切な仲間とともに何かに取り組み、心と心で向き合えることは、何よりも尊い。コロナ禍は、そう気づかせてくれたのです。

緊張は成長の種に変わっていく

緊張した時は「漸進性筋弛緩法」や「呼吸法」を用いれば緊張とうまく向き合える。心理学部の学びからこのような知識を学ぶことはできました。漸進性筋弛緩法とは心理士が相談に来た患者に対して行う心理療法の一つで、筋弛緩法を用いてその人のストレスや緊張を解くことを目的とします。また私たちが感じる緊張やストレスは大脳皮質前頭前野が大きく関わっており、呼吸とも深く関連していることを授業で学びました。例えば試験前などで極度に緊張している時、呼吸法では4秒かけお腹が膨らむように大きく息を吸い、次に体の緊張を感じ取ったら8秒かけお腹が凹むようにゆっくり息を吐きます。筋弛緩法では各パーツ(腕、脚、肩、背中)の筋肉に対しそれぞれ10秒間力を入れ、次に15~20秒間脱力・弛緩します。これらを大事な試験や試合前の5分間を使って緊張を適度に緩和させたことで、本番では最大限の力を発揮することができました。

ただ、結局のところ自分にとっての緊張ってなんだろう?そう考えてみて気づいたのは、「緊張とは、自分が成長するタイミングを教えてくれるものではないか」ということです。統計学にコロナ禍の剣道。不安と緊張がつきまとう日々があったことは確かです。しかし、超えるべきハードルを乗り越えたときに現れる光景は、これまでの自分では見ることのできなかったもの。 「緊張している、どうしよう」このような自分を認めつつも、心のどこかで「緊張している、成長のチャンスだ」と思うこと。そうすれば緊張は成長の種に変わっていく。そう信じて残り少ない学生生活、そして社会人生活を楽しみたいと思います。

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