明治学院大学
JPEN
2026.02.02

日本と世界の会計基準を比較 ルールという枠組みの外にも目を向けて会計の動向を注視

教員
日本と世界の会計基準を比較 ルールという枠組みの外にも目を向けて会計の動向を注視
経済学研究科 経営学専攻
山田 純平 教授

国際会計基準の中、日本企業はどの方向に進むか

企業が行う会計(企業会計)には、外部の利害関係者に公開する決算書を対象とした財務会計や経営の意思決定に役立てるための情報を対象とした管理会計などがあります。私は、そのなかでも財務会計を専門とし、会計基準(財務諸表を作成する際のルール)が国際化の影響を色濃く受けていることに着目して研究を進めています。

従来の会計基準は国ごとに作られてきましたが、2000年代以降、急速に国際化が進み、会計基準も一つの方向にまとまってきました。その理由は、異なる国の企業を比較しようとするときに、会計基準が違っていると、本来の業績の違いがわからなくなってしまうからです。そこで、世界共通のモノサシとして国際会計基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)が策定されました。その結果、大多数の国は国際会計基準を採用するようになりましたが、米国や日本のように市場が大きい国では今でもそれぞれ自国基準を維持しています。ただし、国際会計基準のなかにも選択肢があり、企業による裁量が認められている部分があります。国際会計基準という共通のモノサシがあったとしても、国ごとに経済的あるいは法的な環境が異なるために、完全に一律の適用とはいかないというわけです。

最近の会計基準をめぐる話題としては、「のれん」の償却問題があげられます。「のれん」とは、会社が他社を買収したときに計上されるもので、買収された側の会社のブランドなどの目に見えない資産を指します。買収されないのれんは資産計上されませんが、買収されると突如として買収側のバランスシート(貸借対照表)に「資産」として現れます。問題は、その後の処理が日本基準と世界基準では異なっていることです。現在の米国基準や国際会計基準では、のれんは償却せず、価値の減価が認められたときに減少させるという処理をとっています。それに対して日本基準では、他の固定資産と同様に毎期規則的に償却することを求めています。この状況が約20年間続いてきましたが、最近になって、日本のスタートアップ企業から「毎期償却しなければならない日本の企業は、他国に比べて不利な状況に置かれている」という不満の声があがってきました。そのため、日本ののれんの会計基準を改めるよう政府の会議でも取り上げられています。この問題は政治的な側面もありますが、のれんの会計基準に対してどの利害関係者からどのような意見が出てくるのか注目しています。

会計基準の国際比較ということでは、日本とニュージーランドの資産再評価に関する研究を始めました。少し前にニュージーランドに滞在した際に、現地の研究者と共同研究をすることになりました。先ほども述べたように、国際会計基準にはいくつかの選択肢があり、企業はそれを選ぶ裁量を持っています。土地や建物などの有形固定資産についても原価で記録し続けるモデルと時価で再評価するモデルとがあります。IFRSに準拠している日本企業のほとんどが原価モデルを採用しているのに対して、ニュージーランド企業の約3分の1が再評価モデルを採用しています。なぜこうした違いが生じるのか、これまでの歴史や法律を通じてその理由を明らかにしようとしています。

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現実の企業と接点を持ちながら研究できる面白さ

会計は企業の裏方のような仕事で、前面に出ることはあまりありません。したがって、この分野を研究しようとする人は、家族に会計専門職の人がいる、または自身が資格試験のための勉強をして会計に興味を持つようになったという場合が多いようです。しかし、入口はどのようなものであっても、それぞれの研究者は会計に魅力や面白さを感じているのだと思います。私自身は、会計という分野は企業の現実と接点を持ちやすいところに魅力を感じています。先ほど触れたのれんの会計基準のように、スタートアップ企業だけではなく、伝統的な大企業や会計士、投資家など市場関係者の意見から企業の生の声に接することになります。また、会計基準のなかには一定の裁量のようなものがあり、それ自体が興味深い研究対象となっています。一つの事象に対して一つの会計処理があるというのではなく、いくつかの会計処理の選択肢が残されています。このとき、企業はどのように裁量を働かせるか、研究室や教室のなかであっても企業の現実を垣間見ることができるという点に面白さがあるといえます。

企業会計に対する見方を少し変えてみるだけで、数々の研究トピックを見出すことができます。例えば、「債務超過」と聞くと倒産寸前の会社をイメージし、実際に日本では一定期間内に債務超過が解消されなければ上場廃止になります。ところが、海外の市場では債務超過に対する規制がほとんど存在せずに、世界的に知られている大手企業でも債務超過、つまり負債が資産を上回っている状態で経営していることもあります。海外企業ではバランスシートがマイナスになっていてもキャッシュフローがあれば良いとされ、最近では人的資本やブランドなどの無形資産を企業価値として評価しますから、必ずしも債務超過を問題視しないようです。ありがたいことに、現在はオンライン上で多くの企業のIR情報を閲覧することが可能ですから、どうしてそうなっているのかを決算書類から紐解いていくこともできます。

これからの会計の問題では、AIと会計教育に興味をもっています。基本的に経済活動にまつわる数字を扱う会計はAIと相性が良く、おそらく会計に関するさまざまな場面でAIの導入が進むでしょう。こうした状況に合わせて会計に関する教育はどのように行われていくことになるのでしょうか。従来は新人会計士がやってきたデータ整理や数値のエラーチェックのようなことはAIに任せて、判断や裁量が問われる部分のみを人間がやるようになるといわれています。すでに税務調査や税務申告などで活用されているAI導入が会計の世界でも当たり前になってくると思います。そうなってきたときに新人の教育をどうするのか、といったことも研究テーマの一つとして取り組んでみたいと考えています。

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視野を狭めず、会計以外にも広く関心を寄せてほしい

大学院で会計について研究する場合、会計制度の仕組みや歴史などを論理的に分析する制度研究と、多数のサンプルを用いて実証的に検証する研究とに大別されます。私の研究アプローチは前者ですが、いずれの研究においても、細かなルールに縛られすぎず、そのルールの合理性を考えることを大切にしています。そのため大学院生に対しても、長年にわたって実務に根ざしてきたルールには一定の合理性があるというスタンスで論文指導も行うようにしています。また、会計基準だけを検討するのではなく、会計基準を使って各企業がどのような決算書を作成しているのか、現実を見ることも重視しています。

大学院への進学を検討している人は、受験時点で研究テーマが固まっているのが理想的ですが、進学後に変更することも認めています。大学院に進学して、周りの人と議論をしたり、先行研究を読んだりすることにより、問題の設定を深くすることが期待されます。また、会計研究にもさまざまなスタイルがあって、経済学や法律学などの他の分野で行われているアプローチを使う研究もあるので、会計以外の分野にも関心を持って勉強してほしいです。

これまでの日本は職場で勉強することが多かったでしょうが、これからは職場以外での勉強が重要になってきます。職場以外での勉強というと、資格を取得することがすぐに思い浮かぶかもしれませんが、大学院ではすでに確立された内容を学ぶのではなく、自分で未知の問題を探してきて、論文の形にするということを行います。受動的な学びではなく、能動的な学びを希望する人は、大学院で博士号を目指しましょう。