明治学院大学
JPEN
2026.06.25

「法」と「経営」の統合的な視点からファッションの保護を探究できた

学生
「法」と「経営」の統合的な視点からファッションの保護を探究できた
法と経営学研究科 法と経営学専攻 修士課程
2023年3月修了
日下部 智樹

ファッションへの興味が法律学と結びつき研究の道へ

高校時代は実家から離れた学校に通学していたため、大学では慣れ親しんだ土地で落ち着いて学問に励みたいという強い思いがありました。私の実家は明治学院大学の横浜キャンパスの近隣にあったため、大学進学の際にごく自然な流れで明治学院大学法学部法律学科への進学を決めました。また、明治学院の充実した図書館の蔵書と静かな学習環境は、多様な知見に触れられる良い機会だと感じました。法学部を選択した理由は、現代社会を規定する「法律」という目に見えない仕組みを深く解明することで、私たちの権利や義務がどのような論理的根拠に基づき、いかなる社会正義の下で運用されているのかを主体的に理解したいと考えたからです。小さい頃から推理小説が好きで、論理的に物事を考えるプロセスに喜びを感じる性格だったことも、法学に惹かれた大きな要因だったかもしれません。

学部での学びにおいて、興味の中心となったのは「ファッション」でした。高校生の頃からファッションの世界に興味を持つようになり、関心が広がっていきました。数多くの衣服に触れ、メゾンのデザインの細部を観察する中で、「このデザインは、別の有名ブランドのデザインを模倣しているのではないか?」という違和感を抱くことが多くなりました。この素朴な実感が、法学部の講義で学んでいた著作権法や知的財産保護法の知識と結びつき、私の学術的な研究の原点となりました。自分の愛するブランドのアイデンティティが守られるべきであるという思いが、ファッションデザインを法的に保護する「ファッション・ロー(ファッション法)」の学習・研究へと導いたのです。



「飛び入学制度」を活用して効率的に大学院へ進学

大学生活を送る中で、「飛び入学制度」という画期的な選択肢に出会いました。これは、学部3年次を修了した段階で一定の成績基準を満たした学生に対し、4年次を経ずに大学院へ進学することを認める明治学院大学の制度です。当時、世の中は新型コロナウイルスの世界的な蔓延により、将来的な就職への不安感が漂っていました。自分自身も2年次の終わりに、このまま就職活動に身を投じるべきか、あるいは専門性を極めるために進学を選ぶべきか葛藤していた時、大学からこの制度の案内をいただき、「純粋な好奇心を学術的な研究へと進化させる絶好の機会」と確信しました。この制度の最大のメリットは、「時間」と「経済性」の最適化にあります。通常よりも1年早く修士課程を修了できるため、学費の総額を大幅に抑制しながら、早期に高度な専門知識を備えた人材として社会に出ることが可能です。両親に対しても、「大学に4年通ってから大学院に行く」という従来の固定観念ではなく、「合計5年間で修士号を取得し、1年早く社会人になる」という合理的かつ効率的なキャリアプランを提示したことで、快く理解を得ることができました。さらに、学業成績に基づく給付型奨学金の受給もあり、経済的な不安を払拭して研究に没頭する環境を整えることができました。これまで慣れ親しんだ明治学院で学びを継続できることも、私にとっては大きなメリットでした。

大学院進学を検討する際には、ファッションデザインがいかにして法律の枠組みで保護されるべきかを専門的に研究したいと考えましたが、「ファッション・ロー」という分野を専門的に学習・研究できる大学院は見当たりませんでした。その中で、明治学院大学大学院の「法と経営学研究科」は理想的な学びの場でした。本研究科の最大の魅力は、法律の解釈という領域に留まらず、ファッションを1つのビジネスとして展開する「経営者」や「事業者」の実務的な視点を複眼的に学べる点にあります。例えば、他者のデザインを安易に模倣したほうが短期的には高い利益を上げることができるという経営的誘惑やジレンマに対し、いかに規律をもたらし、公正な競争環境と持続可能な業界の発展を法律が促すべきか。この「法」と「経営」の両輪を統合的に学べる環境こそが、ファッション業界の適正化と健全な発展に寄与したいという私の志を具現化する道だと確信しました。本研究科は、研究室での思索に留まらず、税理士科目免除やマスター消費生活アドバイザーなど実務的なスペシャリストの育成も重視しています。「法律を理解した経営者こそが次世代を担う」という理念の下、常に実社会の動向と呼応した教育が行われており、その実務的な姿勢に共感を覚えました。

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現場の声と多角的分析で挑んだ修士論文の執筆プロセス

大学院における学びの質は、学部時代の受動的な講義スタイルとは本質的に異なり、極めて濃密で知的刺激に満ちたものでした。授業は少人数のゼミ形式によるディスカッションやプレゼンテーションが中心で、自らの仮説を論理的に言語化し、他者の批評を受け止めながら議論を深める能力が鍛えられました。私の修士論文のテーマである「ファッションデザインの法的保護」は、国内における先行研究が極めて少なく、参考となる文献や資料の収集だけでもとても苦労しました。しかし、指導教員である飯田浩司教授が私を導く羅針盤となってくださいました。飯田教授の広範なネットワークを通じ、アパレル業界の第一線で活躍するMD(マーチャンダイザー)や営業、現場の販売員の方々への貴重なインタビュー調査を実施することができました。

このフィールドワークを通して、机上の空論ではない業界の実態の一端を知ることができました。商品をゼロから企画し、魂を込めて作り上げるMDの方々が、自らのデザインを「我が子」のように愛し、その権利保護に対して強い思いを抱いている一方で、販売現場の最前線では「流行を追い、売上を最大化すること」が至上命令となり、知的財産への配慮が欠落しがちであるという、深刻な意識の乖離を目の当たりにしました。また、デザインの模倣が蔓延する一因とされているファストファッションブランドの爆発的な台頭についても緻密に分析しました。かつてはスケッチでしか持ち出せなかった最新のデザインが、今や高精細な画像データとして瞬時に世界を駆け巡り、即座に模倣品が大量生産されるという構造的な課題に直面しているのです。修士論文では、不正競争防止法2条1項3号による形態模倣の禁止といった「ハード・ロー」による法的救済の強化を提言すると同時に、近年インターネットを通じて急速に拡大したファッションブランドが抱える新疆ウイグル自治区の強制労働問題や環境負荷、そしてSDGsといった観点から、倫理的消費や社会的規範「ソフト・ロー」による解決の重要性も強く主張しました。文化庁が日本のファッションを重要な「文化的資産」と位置づけ始めた動向も踏まえ、著作権法による保護の可能性を論じたこの論文は、法学的視点と経営学的視点を融合させた、大学院での学習・研究の集大成となりました。



「法と経営学」のバックグラウンドという武器を職場で活用

修士課程修了後、私は行政機関で働いています。この進路を選択した背景には、大学院まで経済的に支えてくれた両親を安心させたいという思いと、公務に準ずる安定した環境で着実に社会へ貢献したいという願いがありました。現在は、所管する社内ルールの管理を行うとともに、それに基づいて業務が適切に実施されているかを評価・確認する業務に従事しています。大学院で培った能力は、あらゆる場面で私の武器となってくれています。例えば、新しい規定を立案する際、「なぜこの制約が必要なのか」という本質的な立法趣旨に立ち返って検討する姿勢や、膨大かつ緻密な法令を迅速かつ正確に読み解くリテラシーは、大学院での論文執筆プロセスがあったからこそ身についたものです。国民生活に関わる行政機関でのルールの解釈ミスは許されません。法律への深い造詣に基づいた論理的思考と、組織経営の視点を併せ持つ「法と経営学」のバックグラウンドは、どのようなフィールドにおいても求められる素養だと実感しています。

将来の展望としては、現在の組織において法と経営の知識を活かして着実にステップアップを目指すと同時に、いつか再び、「ファッション・ロー」の研究活動に復帰したいという情熱も失っていません。弁理士をはじめとする専門的な士業への挑戦も、自身の可能性を広げる選択肢として常に視野に入れています。これから大学院への進学を志す方々に伝えたいことは、大学院とは単に学位を得るための場所ではなく、「学生という特権を享受しながら、試行錯誤しながら失敗を経験できる、人生で唯一無二の贅沢な空間」であるということです。社会に出て責任ある立場に就けば、一つの失策が重大な影響を及ぼしますが、大学院という守られた環境であれば、ディスカッションやプレゼンテーションで何度失敗を重ねても、それがすべて自分を形作る血肉となります。経済的な観点からも、修士号取得による初任給の優遇や、専門職としてのキャリアの広がりといった実利的なメリットは非常に大きいものがあります。しかしそれ以上に、「自分自身が納得できるまで、一つの問いを突き詰めた」という体験は、その後の人生において、大きな自信の源泉となります。「あの時、もっと深く学んでおけばよかった」という後悔を残すくらいなら、勇気を出して大学院進学の道を選択してください。

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