明治学院大学
JPEN
2026.06.25

常識や流行に流されず自分自身が見つけた「価値」を発信していきたい

学生
常識や流行に流されず自分自身が見つけた「価値」を発信していきたい
文学研究科 フランス文学専攻
博士前期課程 2020年3月修了
博士後期課程 2025年3月単位取得満期退学
藤本 和

言葉が紡ぎ出す世界の不思議な魅力が大学院への扉を開いた

私が文学、とりわけフランス文学の世界に足を踏み入れたのは、ごく自然な流れだったと思います。児童文学の研究者であった父の影響もあり、幼少期からさまざまな書物に親しむ環境にありました。高校時代に語学に触れた際、単なるコミュニケーションの道具としての言葉ではなく、その背後にある思想や芸術性の深さに触れたいという思いから、明治学院大学文学部フランス文学科への入学を決めました。周囲が経営や経済といった実学に関心を寄せる中で、私は一貫して、言葉が紡ぎ出す世界の不思議な魅力に惹かれていました。学部のゼミでは、論文の執筆方法や発表の作法について専門的に学ぶことができました。そして、卒業論文を執筆する過程で、一つの対象に深く向き合う研究という営みが自分の性格に合っていると思い、明治学院大学大学院文学研究科フランス文学専攻への進学を決意しました。

明治学院大学大学院の最大の魅力は、先生方による密度の高い指導にあります。博士前期課程入学当初から、先生方に研究者としての基礎を徹底的に指導していただきました。また、大学院での学びは、学部での学びとは一線を画すものでした。フランス語の原典をガシガシと読み進める力はもちろん、一文一文の背景にあるニュアンスや構造を、指導教員と一緒に一文ずつ紐解いていきます。学部では文法習得に終始しがちですが、大学院では素材そのものと向き合う、その読解のプロセスこそが、研究の醍醐味であることを知りました。



マラルメの難解な詩に潜む「ユーモア」を読み解く楽しさを実感

私の研究テーマは、ステファヌ・マラルメというフランスの詩人です。学部時代は別の詩人を扱っておりましたが、講義で「マラルメは難解だよ」という話を聞き、むしろその困難に挑んでみたいというチャレンジ精神からこのテーマを選びました。詩という形式は極めて短く完結します。しかし、その短い10数行、時にはわずか4行の中に、宇宙にも等しい広大な世界が凝縮されています。広く浅く探究するよりも、極めて小さな対象から多層的な意味を掘り起こし、一つの対象とじっくり向き合いたいと考える私の研究姿勢には、詩という素材が最も合っていたと思います。

一般にマラルメは、秘境的で難解な詩人いうイメージで語られがちです。しかし、彼の手紙や日常的な贈答詩を詳細に分析していくと、そこには驚くほど豊かなユーモアや愛嬌、そして洗練された「笑い」が散りばめられていることに気づきます。マラルメは、扇子や小石に詩を書いて友人に贈り、あるいは住所そのものを詩で表現して手紙を出すといった、遊び心に満ちた人物でもありました。

修士論文では、マラルメが用いる「客寄せ口上(呼び込みの言葉)」に着目しました。縁日の出店などで見られるような卑俗な言葉遣いを、彼はあえて格式の高い芸術である詩の中に混在させました。この一見奇妙な組み合わせこそが、マラルメの詩の核心であり、人々の日常に降りてくるような感覚を表そうとしたのではないかというのが私の結論です。ランボーのような激しく攻撃的な笑いとは異なる、繊細な、相手をクスッとさせるユーモアです。明治学院の自由な学風の中で、既存のマラルメ像を疑い、自分なりの視点で彼の素顔を再構成できたことは、私にとって大きな財産となりました。このように、自身の「好き」という感情を起点に、先行研究の枠を超えた探究をバックアップしてくれる環境が明治学院大学大学院には整っています。

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「読む力」「議論する力」「伝える力」がフランス留学へ導く

明治学院大学大学院のもう一つの大きな魅力は、教授陣の層の厚さと、専門領域の枠を超えた知的交流にあります。本学には、文学のみならず美術、哲学、映画といった多岐にわたる分野の第一線で活躍する先生方が揃っていて、他大学の先生方からも「明学のフランス文学専攻は恵まれているね」と羨まれるほどです。こうした環境に身を置くことで、詩の世界に留まらず、芸術全般へと視点を広げることができました。一見、詩とは無関係に見える絵画や映画の理論が、実はマラルメの思考と深く響き合っていることを発見することもあり、研究のクオリティを高めてくれました。ユーモアという普遍的なテーマが、他分野でどのように表現されているかを知ることは、自らの思考を柔軟にしてくれます。

実務的な面においても、明治学院大学大学院での学びは極めて実践的でした。特に強調したいのは「自分の考えを形にして伝える力」の養成です。指導教員の先生からは、古くから伝わる「レトリック(修辞学)」の技術を、発表の構成や表現の細部に至るまで指導していただきました。どうやって人々の関心を引き、自らの主張を論理的かつ魅力的に伝えるか。この技術は学術発表のノウハウに留まらず、社会のあらゆる場面で通用する武器となります。先生と対話を重ね、発表の構成を練り上げるプロセスそのものが、思考の整理と発信力の強化に直結していました。

大学院という場所は、必然的に他者と議論する機会が多くなりますが、本学の先生方は、私たちが伸び伸びと意見を戦わせられる雰囲気を作ってくださいました。修士時代の友人たちとは、修了した今でもオンラインで読書会を継続していて、有意義な交流の場となっています。本学で培ったフランス語の精緻な読解力と、レトリックに基づいた議論の力。これらをベースにして、明治学院の博士後期課程に進学した後に休学して、マラルメ研究をより深めるためパリ第8大学博士後期課程への3年間の留学という道を選びました。日本で培った基礎があったからこそ、現地のカフェや図書館を巡りながら、フランス語で思考し、発信する充実した研究生活を送ることができました。



大学院は常識に流されず自分自身の「好き」を追究できる場所

現在、私はパリ第8大学の博士後期課程に在籍し、博士論文執筆を進めています。また、2026年4月からは、母校である明治学院大学で、非常勤講師として1・2年生のフランス語の授業を担当させていただくことになりました。研究者としての探究を続けながら、次世代の学生たちに語学の楽しさ・奥深さを伝えることにも挑戦したいと考えています。将来的には、これまでの研究成果を広く世に問うため、論文発表の機会を増やしていきたいと思います。

研究者の道を選ぶことに不安がなかったわけではありません。経済や経営のように、直接的に社会の数値や仕組みを動かす分野ではないフランス文学を志すことは、ある種の「怖さ」を伴います。私自身、先行きの見えない不安に涙することもありました。しかし、私は明治学院大学大学院での学習・研究を通じて、世の中に溢れる「常識」や「流行」に安易に追随するのではなく、自分自身で価値を見出し、それを発信していくことの重要性を実感しました。また、学会活動などを通して学外の多くの人たちと出会い、交流する中で、研究者の道に進もうという決意が徐々に固まっていきました。

現代社会は、価値観が一本化されやすく、周囲の空気や既成の評価に無意識に従ってしまう傾向があります。大学院という場所は、そうした社会の力学から一度距離を置き、2年間という時間をかけて、「自分はこれが好きなんだ」「私はこう思う」という内なる声を磨き上げる場所です。学部の卒業論文はタイムスパンが短く、先行研究に引っ張られがちですが、大学院ではじっくりと自分の思考を練り上げることができます。先行研究を尊重しつつも、「自分の視点、思考」を貫く。大学院で磨くそのプロセスこそが、社会を生き抜くための主体性と自信を育むのだと思います。

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