2024年度エッセイ
「はじまりの春に」
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。上級生の皆さんも新たな気持ちで4月を迎えておられることと思います。今年度は情報数理学部という新たな学部も誕生しました。大学はいつにも増して新鮮な空気に包まれているように思います。
新たな生活が始まるこの時期には、心配になること・不安になることがいろいろとわいてくるかもしれません。その内容も、履修・サークルやアルバイト・友達づくり・卒業や就職についてなど、様々だと思います。またその悩みは、やり方を覚えたり情報を得たりして自分で解決できるものもあれば、漠然としていて人には伝えにくいような、すぐには解決できないような心配ごとや不安であることもあるでしょう。
もし何か自分一人ではどうしていいかわからない悩みを抱えていたり、漠然とした不安に襲われていたり、思っていることを誰かに話して考えてみたいと思うような時は、大学の中に学生相談センターがあることを思い出してください。学生相談センターには専門の資格をもつカウンセラーがいて、学生さん一人ひとりに向き合い、共に考えていく仕事をしています。もちろん個人の秘密は守られますのでご安心ください。
大学という場で過ごす年月は、皆さんにとってかけがえがないものであるはずです。そこで経験することは、単に時間の長さで測ったり、関わった人の数で較べたり、活動の大きさで判断したりすることのできない、一人ひとり違う、特別な重みと深さを持ったものだと思います。「悩む」ということも、その中のとても大切な要素のひとつなのではないでしょうか。学問にうちこんだり、様々な活動に身を投じたりする傍らで、こころの動きや在り方は、はっきりとした形におさまることなく移ろっていきます。しかしそれは目には見えなくても存在することは確かで、それが私たちを苦しめることもあれば、豊かにしてくれることもあると思います。学生相談センターは、皆さんがこのようなこころや気持ちのことについて話したり考えたりすることができる場として、皆さんをお待ちしています。
(ポートヘボン「お知らせ」(2024/4月)より転載)
「自分らしさを大切に」
ゴールデンウイーク(今年は飛び石連休でしたね…)が明けて、夏休みまでしばらくは祝日のない日々が続きますね。連休明けのこの時期になると、ふとした瞬間に漫画「ドラえもん」でのび太くんが6月に祝日を作りたいとドラえもんにお願いしているシーンを思い出しますが、のび太くんの気持ちがわかる!と感じる人も多いのではないでしょうか。
そしてこの時期には、新しい環境に慣れるよう気を張っていたが少々疲れてきた、という方々がちらほら見られるようになります。特に、場の空気を読んで懸命に周りに合わせようと頑張りすぎてしまう、いわゆる「過剰適応」の傾向がある人は殊更に疲れが強く出てきているかもしれません。この「過剰適応」とは読んで字のごとく、本当の自分の欲求や感情を抑えて環境や他者に必要以上に合わせようとする傾向のことを指します。例えばせっかく友達ができたのだからとなんでも相手の意見に合わせてしまったり、サークルで任せられた役職を全うしようとして自分だけで責任を背負い込んだり、バイトでシフトをたくさん入れられてNOと言えなかったり…。いずれの場合も、周囲の都合を優先して自分を後回しにしている状態と言えるでしょう。
こうした過剰適応が生じる背景には、一人ぼっちが怖かったり、自分の評価が気になったり、自分に自信がなかったり、相手から嫌われるのが怖かったり、と様々な要因が考えられます。相手の迷惑を考えたり期待に応えようとする点では、いわゆる「良い人」がこの状態に陥りやすいとも言えます。確かに周りからの良い評価に繋がることもあるでしょう。しかし、ややもすれば八方美人と見なされることもありますし、皆がやりたがらないことを押し付けられてしまうような「都合の良い人」扱いをされてしまうことも起こりえます。また、無理をすることでストレスが溜まってイライラしたり、自分が大事にされてないような落ち込みに繋がったりと自分自身の疲弊に繋がりやすく、場合によってはメンタルを病む可能性も否定できません。
もし自分らしくいられず無理をしているなと感じた際には、この過剰適応が生じてないかを一度確認してみてください。そして、自分が本当にしたいこと・思っていることは何かを一度振り返ってみましょう。自分だけでは気づきにくい場合には、信頼のおける家族や友達など誰かに話してみるのも効果的です。話す相手がパッと思いつかない時には、日記などに書き綴ってみるのも良いでしょう。まずは、自分の本音に気づくことが大切です。
そして、偶には主張してみることができると尚良しです。主張することが難しい時には、そのグループや役割から一旦退却したり別の場所に移動するのだってかまいません。自分が参ってしまったら、そもそもその関係の維持だって難しくなるのですから…。役割を任せられている場合には、誰かにお手伝いをお願いしたり頼ったりして自分だけで頑張らないことも大切です。
ただし、もし何度もこうした過剰適応を繰り返している場合には、もしかするとそれが対人関係の癖になっているかもしれません。そうした場合には、自分自身について一度しっかり振り返る機会を設けることをお勧めします。自分を大切にする術を身に着けていくことが、本当の意味での適応に繋がっていくかと思います。
(ポートヘボン「お知らせ」(2024/5月)より転載)
「他者と私のこころの距離」
友だちがほしいけどできない。どうやって友達って作るんだっけ・・・。挨拶をする知り合いはいるけど、なかなか人との距離を縮められないから知り合い以上友達未満の関係さえ作れず寂しい。そんな相談を受けることがあります。好きな事、楽しいと思うことを共有できると人は何となく心の距離が狭まり、あったかい気持ちになりますね。推し活やサークル活動ではウキウキする共通項が多々あるために、人は仲良くなりやすいんでしょう。ゼミでは一緒に同じ苦労をすることもあります。そのような経験を共有することも、人と人の心の距離を近づけることに繋がりますね。
一方で、一緒にいる友だちはできたけど、いつもニコニコ、同意していないと嫌われそうで怖い。いつになっても人の前では作った自分を出しているから、家に帰って一人になるとどっと疲れている自分に気づく。本当の友達って言えないような気がしてモヤモヤする・・・。そんな相談も受けます。怒ったり、時に険悪になったり、違いを認めたり。それでも一緒にいられるなら安心感が増しますし、大学や外出の時間が長くなっても、心の疲れ方はずいぶん少なくなるでしょう。
家族や心許せるパートナーといる時には、友だちといる時よりもリラックスするという人が多いのは、そのようなコミュニケーションがすでに出来上がっているからなのでしょう。
ただ、大学時代には家族といることが徐々にモヤモヤする時期があるのではないでしょうか。GWや長期休みに実家に帰って、今まではあんなに過ごしやすかった実家が、ちょっと窮屈になっていることに気づく。そして4月には寂しいと感じていた一人暮らしの家に戻るとちょっとホッとする。そんなことは青年期にはよく起こります。
「絆」は「きずな」と読みますが、同時に「ほだし」という訓読みもあります。「情にほだされる」というのは、人間関係の近さによって生じる、相手への感情に取り込まれ、自由がなくなる苦しさや葛藤を示します。英語の「Bond」も同様に、絆、繋がりと同時に束縛という否定的な意味を持っています。そう。私たちは他者と親しくなる時にはこのような、親密さと孤独の相克を生きるのです。
他者と親しくなり孤独から解放されたい。しかし同時に他者と適度な距離を保って自分のこころをも守りたい。そんな願いを私たちは誰もが感じているはずです。そんな時に大切になるのが、「境界」です。相手が信用してきた家族であっても、青年期には親世代との境界線をきちんと持つことで「大人な関係を親世代と結び直す」感じのことが起こります。親しい友だちや、気の合うパートナーであっても、言いなりになるのではなく、感情をぶつけるのでもなく。また時には言葉で自分の考えを伝え直したり、距離感を修正したりして、他者と自分のこころの間に「境界」を持ち直すことも必要になります。そうすることで、安定した、安心なこころの距離を維持することができることが多いのです。
他者と自分のこころの距離感に困った時にも、学生相談は皆様のお話をうかがいます。是非、扉を叩いてみてくださいね。
(ポートヘボン「お知らせ」(2024/6月)より転載)
「大学で親友はできますか?」
入学式で話しかけられて友達になった人と今まで一緒にいるのですが、だんだん気が合わないと思うことが多くなりました。大学で高校時代のような親友ができるのか心配です。(架空相談)
今までとは違う環境で
高校までは普通に過ごしていれば自然に友達が出来て増えていったのに、大学では難しいと感じる人は多いのではないでしょうか。大学は人によって授業の時間もバイトの時間も違うことがしばしばです。みんなが同じように一緒に時間をともにしていた高校までのように、そもそも大学は友達をつくることが難しい環境なのかもしれません。
特に入学直後はゼロからのスタートですので、大きな不安を抱えていても当然だと思います。そんななか、とりあえず近くにいる人と「友達」になること、入学式やガイダンスで一緒になった人、たまたま最初の授業で一緒になった人とひとまず過ごすことも、一人でいたら取り逃がした情報も得られるでしょうから、環境の変わる節目の当初では大切なことです。
自分にあった関係へ
しか4月の喧騒のなか、ともするとテンションが周りも自分も高めになり、お互いに素の自分とは異なって、通常の自分とは違うモードで過ごすこともあるでしょう。この雰囲気のなか、とりあえず物理的に接近していたことから関係が始まると、本当に気が合うとか、一緒に居ても安心だという感覚はただちに生じてはこないと思います。また、少し時間がってくると当初見せていたのとは違うところが見えてきて、なんだか違うなとお互いに思うこともあるかもしれません。ましてや気を使ってかえって苦痛だと感じるようになると、なんで一緒にいるのだろうという悩みも強くなるでしょう。
大人同士の関係へ
春学期も終わり夏休みになるこの時期は、特に新入生にとっては、入学当初にできた人間関係を見直して再構築するにはよい時期です。入学当初に暫定的にできた人間関係を自分の気持ちに即して修正や微調整することができます。夏休みを機にこれまでの関係と距離をとり、アルバイトなど新しい活動を始めるのも一つです。ただ、高校の友人関係と大学の友人関係とではあり方が違う、人生の時期に応じて「友人」や「親友」の内実は異なるのではないでしょうか。確かに大学の人間関係は高校までに比べれば広く浅いと思えるかもしれません。しかし、自分の中身が豊かに多様化すれば、以前の「深い」「親友」とは違うかもしれませんが、対人関係は広がりつつもそれぞれが意味ある関係となり得ます。当たり前のことですが、能動的に様々な活動に関わり自分の幅を広げることで「深くはないかもしれないがけして浅くもない関係」を様々な領域で構築することができるのです。こうした試みは、大学を卒業した後に経験する、さらに様々な背景をもつ人との関係構築が求められる、この先の人間関係の準備にも繋がる大切なことだと思います。
(白金通信 2024 Summerより転載)
「暑い夏休みが終わって、秋学期が始まりました」
秋学期が再開してキャンパスも賑わいが戻ってきました。みなさんは夏休みをどのように過ごされたでしょうか。関東にいたり地方にいたり、場合によっては海外で過ごしたりと、体験したこともイロイロあったかと思います。地球温暖化は益々加速して、北半球では40℃近い場所もあり、過去2000年の高気温を更新しました。一方逆に、南半球は例年以上に寒さが増して、-15℃近くにも冷え込む地域がありました。それから自然災害による甚大な被害が相次いで発生しまた。学生さんの中でも被害を受けられてしまった方がいらっしゃったかもしれません。心よりお見舞いを申し上げます。
そして10月が始まりましたが、皆さんの中には「あああ、また勉強する日が戻ってきた、嫌だなぁ~。」と感じている方々もいらっしゃるかと思います。勉強の多くは、机に座って講義を聞いたり本を読んだり、課題が出されて発表資料を作ったりするなど、いわば受け身的な時間です。寝不足が続いていたり疲れていたりすると、すぐ眠気が襲ってくるような時間でもあるでしょう。そんな時間を過ごしていると、さらに勉強する意欲はどんどん下がることになります。
このように低下している意欲をどうやったらもとに戻すことができるでしょうか。。。秋学期が順調にスタートし無事に終了させるためにも、どうやったら能動的な時間が持てるようになるか、そのための対策を考えることは大事なことだと思います。これまでも時間だけがどんどん過ぎて、どうしてよいかわからなくて学生相談にいらした方もいらっしゃいました。対策は一人で探すよりも一緒に考える方が有効なので、もしよかったら一緒に考えてみませんか。意欲低下の対策を導きだせれば、大学生活が前よりも楽になるかもしれません。
さて今回、皆さんに、一つご紹介したい考えがあります。それは「欲求階層説」です。アメリカの心理学者マズローは、「人間は、自己実現に向かって成長し続ける生き物である」と仮定し、人間に生じる欲求には段階があるという説を唱えました。彼は、人間の欲求を、低次から高次までの5段階(以下、➀~➄)に分類しました。
① 生理的欲求(生命維持のための食事・睡眠・排泄等の本能的欲求のこと)
② 安全の欲求(身体的、経済的な安全を求める欲求)
③ 所属の愛の欲求(社会において、他者に受け入れられている、どこかに所属していたいという欲求)
④ 承認の欲求(集団内において、自分が他人から高く評価され、尊重されたいという欲求)
⑤ 自己実現の欲求(自分の能力を最大限に発揮し、自己実現を図りたいとする欲求)
皆さんは、自分の欲求について考えた時、①から⑤のどの欲求を強く感じていますか。まずはなぜそれらの欲求が満たされていないと感じるのかを考えてみましょう。その上で、その欲求を「健康的」に満たす為に、どう気持ちを立て直し、どんな行動をすれば満たせるのかを探しましょう。しかし効果はすぐには表れないものです。そして場合によっては自分の弱点にも向き合うことになるので、違和感や居心地の悪さを感じる場合もあるでしょう。解決を急がずじっくり時間をかけて考えていくことが大事です。
この欲求の5段階は、先のマズローの理論によると、①~④は足りないものを満たそうとする「欠乏欲求」に分類されます。これらは全ての人に備わっている欲求です。例えば、前述のように、寝不足により意欲の低下が生じた場合は、充分な睡眠をとることで生理的欲求が満たされ、集中力や意欲が改善するかもしれません。マズローの理論では、欲求は①から⑤へとピラミッドのように段階的になっていますが、実際には複数の欲求が同時に現れることも多いと感じます。例えば、所属欲求と承認欲求を同時に満たしたいと感じることもあるでしょう。なお、⑤は、自身の成長や発展に関する「成長欲求」に分類され、自己実現は、青年期のテーマの一つにもなっています。
青年期とは、精神科医の小此木啓吾がいう「モラトリアム」であったり、ユング派の心理学者フォンフランツがいう「永遠の少年」であったり、心理学者レヴィンのいう「マージナル=マン」であったりします。“子供でもなく大人でもない”という過渡期にあって、できることならば自分の判断や行動の責任を保留したいという心性が色濃くある時期です。ですがこの時期の自分に向き合うことや自己実現を目指すことは重要なプロセスであり、同時に思いのほか苦しいことだったりもします。
皆さんの中には、本当は学生生活を充実させたいのに、目標が見えなかったり、面白いことに出会えず、それこそ欲求不満な心境になっている学生さんもいらっしゃるかもしれません。この際、今のこの状況を逆手にとって、どうしたら大学生活がもう少し居心地よくなるかや、心のもやもやを整理してみてはいかがでしょうか。不確実なことが多い世の中なだけに、大学生として、社会から少し距離をおき、自分を見つめて過ごすことができる今は、何よりも貴重な時間です。
「SNSをめぐって思うこと」
初雪の便りも届き、冬支度に忙しい季節となりました。いよいよ秋学期の授業も、忙しくなっていく頃ですね。体調や生活リズム、環境を整えながら、学期末までうまく乗り切っていきましょう。例えば、時間に少し余裕を持たせたり、作業スペースを少し整理整頓したりするだけでも、意外に気持ちは落ち着き、物事に集中しやすくなると思います。
ところで、集中したい時やリラックスしたい時に、スマホやSNSに時間を奪われる感覚を持つ方は、とても多いと感じます。「少しだけのつもりが、うっかり長い時間を無駄にしてしまった」という後悔のぼやきが、よく聞こえてきます。SNSは、情報を得たりコンテンツを楽しむのに便利なだけでなく、個で存在する私たちをゆるやかに他者と繋ぎ、他者と共感しあえる場にもなっており、人を癒す力のある魅力的な装置だと思います。ただ問題としては、常にあちらは進行中で「終わり」のない装置であるため、強い意志で遮断して抜け出てこなければ、こちらのリアルに戻れないことがあります。次の予定や切羽詰まったやるべきことがあると、抜け出てくることは比較的簡単ですが、予定がない時やリラックスしたい時には、こちら側の緩んだ体に、あちらから中身を持ち帰れない状態になることも多いでしょう。暇な時ほど、終わりの時間の目途や「終わりにする意志」をしっかり持った上で、ネット空間に入る必要がありそうです。そして、離れる時はきっぱりと離れるため、物理的にもスマホを離した方がよいかもしれません。
少し話を戻すと、このネット空間の、他者と簡単に共感できるという性質が、喜びや安心といったポジティブな感情を増幅してくれるので、ネット空間の引力は強いのだと思います。それは同時に、嫌悪や攻撃などネガティブな感情の増幅にも繋がっているのが、難しいところです。比較的簡単に場は興奮して凝集し、本来大切にされるはずのそれぞれの人の思いや特徴、差異などはすぐ脇に置かれ、「正しさ」や「意義」といった大きな言葉があふれていきます。こうした波に翻弄されないためには、大きな言葉ではなく、自分の言葉=小さな言葉を地道に鍛えていく必要があるのではないかと感じています。それにはまず、自分がしっかりと感じ、じっくりと考えることや、そのための隙間を大切にすることが必要です。
千葉雅也は「センスの哲学」で、芸術について論じていますが、その考え方は、私たちが日常で自分の視点や自分の言葉を鍛えるのにも役立つと感じました。本書の中では「意味や目的からいったん離れて、ものをそれ自体として、つまり形や色、響き、味などのリズムとして楽しむ」ことを勧めています。「作品とか体験というものは、いろんなパーツが組み合わさってできているわけですが、全体としての意味を問われると大ざっぱな感想になってしまう。でも、部分部分を見ていくと、より複雑な、ひとことでは言えないような感覚、つまりリズムが浮かび上がってくる。」 ひとことではまとまらないようなことこそ、その人らしいことであり、価値があります。それを表現しようとする試行錯誤を、日々大切にしていけたらと思っています。
学生相談センターでは、皆さんの学生生活を応援しています。どのようなことでも、お気軽にご相談にいらしてください。ご自分の言葉を探りたい方も歓迎です。
(ポートヘボン「お知らせ」(2024/11月)より転載)
「やるべきことをすぐやるためのヒント」
新しい年が始まりました。学年末の時期ですから、課題やレポート、テストの準備など、やらなくてはならないことも多いと思います。「早くやらなくちゃ」と思いつつなかなか手がつけられない、という人も少なくないのではないでしょうか。そう思いつつ日々が過ぎて行き、直前になって「なんでもっと早くやらなかったのか」と後悔し、「自分はいつもいつもこの繰り返しだ」「自分はなんて進歩のない、ダメな人間なんだ」という思いに駆られる人もいるかもしれません。
やるべきことにすぐに手をつけられない原因を、性格ややる気と結びつけて考えることは多いと思いますが、そうではなく、それは「脳がすぐにやるというモードになっていない」と捉える考え方があります。人間の行動は、脳からなんらかの指示が出され、それに体が反応することでつくられています。つまり、脳のしくみや性質を理解し、それを利用すれば、すぐにやるという行動に結びつけられるという考え方です。そのいくつかをご紹介します。
まずは、「脳は起床から4時間後がもっとも冴えている(活性化している)時間である」ということです。やらねばならないタスクの中には、よく考えて思考を凝らして取り組む必要があるものと、比較的単純な作業を続けて行けば達成できるようなものがあると思います。この時間帯を前者のようなタイプの作業に充てると効率が良いということになりますね。ただし、睡眠が不足していると、起床後4時間経っても頭はぼーっとしたままなので、十分な睡眠を取ることは大前提です。
また、脳は目から入った情報(視覚情報)にもっとも大きな影響を受けます。ですから机の上にスマホ、手帳や本など「できればあれもこれもやっちゃいたい」と思ってのせると、沢山の視覚情報が入ることによって脳は惑わされてしまい、結局一つも達成できなくなってしまいます。使い終わったものはいちいちしまうこと。一見非効率のようですが、余分なものが見えなくなるだけで、脳はやるべき作業を確実に成し遂げて行くことができるようになるのです。
先ほど、脳は体に指示を出すということに触れましたが、脳は、それまでに経験したことのないものについては、どんな動きの指示を出せば目標を達成できるのかがわかりません。そこでその時すべきなのは、脳が「次の行動」を予測できるところまでは「前の行動」を途切れさせずに連続させる、ということです。例えば講義のレポートを書く時には、講義が終わった後なるべく時間を置かずにレポートの書き出しの部分だけ書いてみる。つまり講義の終わりが作業の区切りなのではなく、レポートを書くという次の作業が始まった所を作業の区切りとして脳に植え付けます。その作業にちょっとだけ手を付け、その法則を脳に植え付けるのです。それが脳の予測の対象となり、今の自分が置かれた状況と目指すものとの関係がより明らかになります。現状と将来像とのおおまかなつながりを見出すことが、脳が目的を達成するためにどうあるべきかを予測して行動を決めること(フィードフォワードシステムと呼ばれます)につながるのです。「ちょっとだけ手を付けてから行動を区切ること」を意識してみましょう。
いかがでしたか?やらねばならないことが多い忙しい日々の中で、これらの情報が少しでも役立つことができれば幸いです。
参考文献:菅原洋平著(2016)「すぐやる!『行動力』を高める”科学的な“方法」文響社
(ポートヘボン「お知らせ」(2025/1月)より転載)
「卒業を控えて不安を感じている皆さんへーカウンセラーからのメッセージ」
3月に卒業を迎えるが、「おめでとう!」という言葉にはちょっと違和感がある、むしろ卒業後どうなるのか不安、という皆さんに向けてこのメッセージを書いています。
まずは不安の理由が、「就職が未定なので…」という皆さんへのメッセージです。在学中に就活に取り組めなかったり、途中であきらめてしまった理由、事情については、やりたい仕事がわからない、自己PRできることがない、面接が怖い、コミュニケーションが苦手で要領もよくなく、そもそも働ける気がしない、心身の調子がよくなかった、などさまざまだと思います。そして「いずれにしてもこれからではもう遅い」と感じている方も少なくないのではないでしょうか。
そのような皆さんにお伝えしたいのは、就活は今からでも、卒業後でも可能だということです。それでは何から始めればよいのでしょうか。ありきたりと思われるもしれませんが、まずはキャリアセンター、ハローワーク(ハローワークには新卒応援窓口もあります)などの就活支援の窓口に相談に行ってみましょう。その前にもう少し自分の気持ちや考えを整理したいということであれば、学生相談センターに来談いただいてももちろんかまいません。
相談することで、例えば、やりたい仕事がわからない場合には具体的な職種(厚労省のサイト:jobtagはおススメです)や求人の情報に触れてみる、自己PRの素材は特別なことでなくとも日常の授業やアルバイトなどの取り組みでよい、面接練習をしながら受け答えや振舞いをチェックする、苦手/得意の特性、興味関心、性格などの自己理解を深める、といったさまざまな助言、支援を得られると思います。
就活は一人で考えていると、どうしてもネガティブな方へと気持ちや考えが傾き、視野狭窄、回避的になりがちです。就活で煮詰まってしまった皆さんの話をお聞きしていると、これまでなかなか専門の支援窓口に相談できてこなかったというケースが多いのです。また皆さんの世代はコロナ禍の影響で友人関係や先輩との関係を築きづらく、就活の情報を互いに共有したり、相談し合う機会が少なかったということもあるように思います。一歩踏み出して相談してみることが今後の展開につながっていくはずです。
一方で、心身の不調などがあり、就職は難しいと感じている方、そもそも自分の今後の進路の方向性が見えてこないという方もいらっしゃるでしょう。その場合も学生相談センターにいらしていただければ、自分の気持ち、考え、状態、状況などを整理しながら、必要に応じて卒業後の支援・治療機関の情報提供も行いつつ、今後について話し合うことができると思います。
最後に、内定は取れているが、必ずしも志望の会社ではなかった、社会人になるにあたり、性格や対人関係に課題を感じている、といったご相談も卒業前のこの時期によくあることをお伝えしておきます。
(ポートヘボン「お知らせ」(2025/2月)より転載)
「人間関係の悩み」
Q:毎日連絡を取り合っている親友がいます。親友から1日連絡がないと不安でたまらなくなります。(架空相談)
A:大切な人と連絡が取れないと、強い不安に襲われることがあります。人間関係のなかで生まれる感情や行動には、「愛着スタイル」が関係していると考えられています。
愛着と基本的信頼感
「愛着」は、幼い頃に養育者との間で築かれる絆のようなもので、“この人といると安心できる”“この世界は安全だ”といった感覚です。2~3歳頃までにこの愛着が安定して築かれると、“少し離れてもこの関係は続だろう”という「基本的信頼感」が芽生えます。この基本的信頼感によって、人は、大切な人と少しの間離れても適度に安心して過ごせるようになるのです。
その不安はどこから?
友達になったばかりの頃は、お互いにたくさん連絡を取ったり、長い時間通話を楽しんだりするかもしれません。しかし、親友となり時間が経つと、自然と連絡の頻度が少なくなることもあります。ただし、愛着スタイルが不安定な人は、この変化を受けて、「嫌われたかもしれない」などの考えが浮かび、不安になるのです。
愛着スタイルと対人関係
愛着スタイルには、「安定型」、「回避型」、「無秩序型」、「アンビバレント型」の4つのタイプがあります。
「安定型」の人は、養育者から十分な愛情を受け、精神的に自立した大人へと成長します。また、信頼できる人間関係を築き、他者と助け合うことができます。「回避型」は、幼少期に、養育者から欲求を十分に満たしてもらうことができなかった人で、大人になってからは、人との距離を保つことが多く、見た目には自立しているように見えることが多いようです。「無秩序型」の人は、逆境や、予測できない養育者の行動の中で育ち、他者に心を閉ざしがちです。一方、過剰な愛情を求めることもあり、気持ちが揺れやすいことも特徴です。「アンビバレント型」の人は、養育者からの愛情が一貫していないため、愛されているかどうか不安を抱き、大人になってからは、相手の行動に敏感に反応することが多いようです。今回の架空相談は、「アンビバレント型」に当てはまるかもしれません。いつもなら応答してくれるはずの親友の不在に、大きなダメージを受けるのです。
皆さんには、友達や仲間、親、大切な人との間で繰り返されている対人関係のパターンはありますか。自分の愛着スタイルを理解し、さらには相手の愛着スタイルにも目を向けることで、相手との関係を見つめ直してみませんか。ひょっとすると、不安や気持ちの揺れを和らげる手掛かりが見つかるかもしれません。
(白金通信 2024 Winterより転載)