スマートフォン版を表示
2023年7月4日

明治学院東村山高等学校の高校3年生が法学部今尾真ゼミ・黒田美亜紀ゼミの合同ゼミに参加しました

2023年6月9日(金)5時限目、白金キャンパスにて法学部今尾真ゼミ、黒田美亜紀ゼミ(以下、「今尾ゼミ」、「黒田ゼミ」)による合同ゼミが実施されました。
この日は明治学院東村山高等学校の高校3年生が合同ゼミを訪問する形で特別授業を実施。
今尾ゼミ10名、黒田ゼミ18名の学生、法学部に関心を持つ高校生37名による活気あふれる90分となりました。

「法律学に正解はありません。気になったことや思ったことがあればどんどん発言してみんなで議論をしましょう!」
合同ゼミは黒田教授の挨拶からスタートしました。

今回の合同ゼミのテーマは、「本人名義の使用許諾と民法109条等の法理」。
民法学の分野では著名な「東京地裁厚生部事件(最判昭35・10・21 民集14巻12号2661頁)」を扱いました。「東京地裁厚生部」というのは、東京地裁の庁舎内にあり地裁職員の生活物資等の調達を目的として現役の地裁職員が裁判所の印や用紙を使って書類を作成して取引を行ってきたが、これは太平洋戦争末期・戦後の食糧難等の状況に対処するため(経済統制法下の配給制だけでは裁判所職員の生活が維持できないため)で、東京地裁厚生部は東京地方裁判所の正式な部署ではなく事実上の部署でした。この部署が繊維製品の販売業者との間で行った布地取引における未払代金について、東京地裁の責任(代金支払義務)がどのような根拠に基づいて認められるかがポイントになった事件です。壇上では、報告担当の学生グループが、スライドやレジュメを用いて、事実の概要や第一審、控訴審の判断をはじめ、「東京地裁厚生部」や「信義則」、「表見代理(民法109条)・名板貸し(商法旧23条・現行14条)の法理」、「これらの条文の類推適用」など、今回の核となるキーワードを丁寧に説明しました。

学生たちの説明に熱心に耳を傾け、ペンを走らせる生徒の姿が印象的でした。

合同ゼミ開始から45分後には、学生・生徒が1チーム7名ごとに分かれて議論がスタート。
「わからないことがあったらどんどん質問して!」
「どう?理解できそうかな?」
どのチームも学生が生徒をリードし、和やか且つ活発な議論が展開されました。

議論では適宜、学生たちや今尾教授、黒田教授による補足がなされ、終盤では議論の成果をチームごとに発表しました。

発表のポイントは、「東京地裁に支払い責任があるとした最高裁の判決を支持するか・しないか、またその根拠は何か」でした。この点を巡っては、「東京地裁厚生部の職員は東京地裁の職員でもあるので、取引の相手方からしたら、そこを見分ける手段はないのではないか」、「東京地裁厚生部という名称が紛らわしいため、相手方が厚生部が東京地裁の一部局であると信じるのは自然である」など、発表では最高裁の判決を支持する意見が多数を占めました。

一方、今尾教授や黒田教授からは、学生達が最高裁判所の判断に全面的に賛成することに対して、批判的考察も必要との考慮からか、敢えて、この判決の問題点を衝くような形で、
「裁判所という公的機関に私法取引に関する民法が適用されるのか?」、
「民法109条は法定代理に適用されるのか?」、
「裁判所の部局・部署が行える権限は、法律に定められており、東京地裁厚生部が当該取引(職員の生活物資等の購入)を行う権限を認めた法令の規定は存在しないのでは?」、
「相手方業者がそのような法律は知らなかった、といっても、そうした言い訳は通用しないのではないか?つまり、『法律の不知は害する』というローマ法の法格言にもあるように、法律は万民に公表されているもので、法律を知らないという抗弁は成り立たないのではないか?」などの問いかけが、矢継ぎ早に発せられました。

学生・生徒達は、一瞬、たじろいだ様子でしたが、学生の一人が、
「公的機関であっても、一切私法上の取引を行わないわけではなく、それが行われたときには、こうした機関の行う行為に民法が適用されてよいはずです」、
「公的機関の職務権限や事務内容を一般人が知ることは困難なので、民法109条を直接適用するのではなく、この規定のおおもとにある思想、すなわち、禁反言の原則に照らせば、民法109条を類推適用する余地もあると思います」と理路整然と答えて、今尾教授も得心されておられました。

最後に、今尾教授から、なぜ、「東京地裁厚生部」のような裁判所の正式な機関ではない部署ができたのかについて、事件当時の社会状況などを背景に、経済統制法違反事件を扱う裁判所の裁判官や職員が、自分自身やその家族の生命・生活を維持するために、その法律を破る(闇市などで闇米などの生活物資を購入等する)ことはできないため、法に触れない形で生活物資を調達する部署が自然発生的にできあがったものとの説明もありました。さらに、これに関連して、経済統制違反事件を主に担当した山口忠良という裁判官が違法に調達された食糧を一切口にせず(当時の国民の大部分が闇米などを食さないと生きていけない状況であったが)、栄養失調で亡くなったといったエピソードなども紹介されました。


先生方からの示唆に富む説明の数々は、生徒・学生にとって大きな学びの機会となったようです。

「今回の合同ゼミは、さまざまな視点や考え、捉え方を学ぶとても良い機会になりました。もともと法学部を志望していましたが、今回の学びで法律学そのものに強い関心を抱けるようになりました」
合同ゼミ終了後、生徒からはこのようなコメントが寄せられました。

合同ゼミで報告を担当した畑野さん(法律学科3年)からは、
「日頃の学びを伝えることの難しさを痛感しました。どの生徒もしっかりと事前の検討をした上で参加していたため、良い刺激となりました。むしろこちらがもっと勉強せねば、という気になりました」
とのコメントが寄せられ、生徒・学生双方にとり、かけがえのない時間となりました。

東村山高等学校の生徒によるゼミ訪問は今回が2回目。
同じく系列校の明治学院高等学校では法学部のゼミ体験が公式行事となっており、東村山高等学校においても、今後、検討していく予定です。

明治学院大学、明治学院高等学校/東村山高等学校の更なる連携にご期待ください。

丁寧に説明する合同ゼミの亀井さん(法律学科3年)
合同ゼミではゼミメンバー同士のチームワークも重要です
活気あふれる議論の1シーン
学生・生徒に補足をする黒田教授
発表の1シーン。発表ギリギリまで意見を練るチームも

おすすめ