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2024年7月3日

明治学院系列高等学校の3年生が法学部今尾真ゼミ・黒田美亜紀ゼミの合同ゼミに参加しました

2024年6月20日(木)5時限目、白金キャンパスにて法学部今尾真ゼミ、黒田美亜紀ゼミ(以下、「今尾ゼミ」、「黒田ゼミ」)による合同ゼミが実施されました。

この日は法学部に関心を持つ明治学院高等学校の3年生4名、明治学院東村山高等学校の3年生57名が合同ゼミを訪問する形で特別授業を実施。今尾ゼミ15名、黒田ゼミ22名のゼミ生、教員と合わせて約100名が参加しました。 

「ようこそ明治学院大学へ!話をしないと議論は始まりません。決められた正解はないので自分の考えていることを話してみてください。分からないことがあれば大学生を困らせるくらい質問してください。」と今尾教授、黒田教授の挨拶からゼミがスタートしました。 

今回のテーマは「権利の濫用、物権的請求権について考える」。参加者は民法学の分野で有名な「宇奈月温泉事件(大審院昭和10年10月5日第三民事部判決〔民集14巻1965頁〕)」とについて予習をして臨みました。

宇奈月温泉事件は富山県の黒薙温泉から宇奈月温泉へのお湯の供給に使われる引湯管が通る土地の所有者からの請求が認められるか否かが争点となった民事事件です。引湯管は大正6年頃にA社により巨費を投じて敷設されました。引湯管が通る土地には、一部が有償で、一部は無償で利用権が設定されていました。そうしたところ、引湯管が通る土地の一部(2坪ほどの崖地)を買って所有していたXは、A社から温泉の経営を引き継いでいたY社に対して、土地の不法占拠を理由に、引湯管を撤去するか、それができなければ周辺のX所有地(荒地)と合わせて約3000坪を時価の数百倍で買い取るように求めたのです。これについて大審院(現在の最高裁判所)は、Xの行為は不当な利益を得ることを目的として所有権をその手段として利用するものであり、社会的な観念上、所有権の目的に反し、その機能として許される範囲を超えているため、これは権利の濫用に他ならないと判断しました。権利の濫用について初めて裁判所が下した判決として重要な判例となっているものです。 

この事件に関連して、まずは黒田ゼミの学生から「信玄公旗掛松事件(大判大正8年3月3日民録25輯356頁)」、「板付基地事件(最判昭和40年3月9日民集19巻2号233頁)」の事例が紹介され、それぞれの権利行使が権利の濫用に当たるのか検討するグループワークが行われました。 

大学生3~4名、高校生5名が1グループとなり、全12グループに分かれての討論です。討論がスタートすると、どのグループからも「分からない!」「難しい!」という声が聞こえてきます。事例に登場する人物の関係性、この言葉はどういう意味かなど、難解に思われる法律用語などを大学生が分かりやすい言葉に置き換えて説明するところから意見交換が始まりました。各事例5分程度の討論の後に、高校生がグループ討論の結果を発表。信玄公旗掛松事件については「機関車の煙で松が枯れるのは容易に想像できた。国鉄が悪いと思う。」「国鉄は煙の対策ができるのにしていなかった。対策をせずに機関車をずっと走らせているのは権利の濫用にあたると思う。」といった意見がしっかりとした言葉で発表されました。 

これらの事件について今尾教授からは「権利者が権利を行使できるのは当然のように思えるかもしれませんが、権利を行使する際に、相手方を害するような意図があった場合には権利の濫用にあたる可能性がある、という点が重要です。これを害意と言います。」という説明がありました。この判決は、権利者の害意に加え、権利行使により権利者が得ようとする利益とそれによってもたらされる相手方や社会の不利益とを比較衡量すべきことを明らかにしたものです。 

続いて今尾ゼミの学生から「物権的請求権の相手方―登記名義人に対する妨害排除請求(最三小判平成6・2・8民集48巻2号273頁〔裁時1116頁4頁〕」について発表がありました。土地を不法占拠する建物が譲渡されて建物所有者の所在が不明な場合、土地所有者は、登記名義が残る旧建物所有者に対して建物収去・土地明渡しを請求できるか、という点が争点です。最高裁は登記名義が残っていた旧建物所有者に対する請求を認めましたが、どうして建物所有者ではない者が建物を収去できるのか、その理由を説明するのは簡単ではありません。グループ討議の後、今尾教授と黒田教授の掛け合いで、当事者と土地の関係性についてユーモアを交えた解説がなされました。 

熱気あふれる90分の授業を終え、参加した今尾ゼミの学生は「事例がかなり複雑なので、昨年参加した経験から、今回は高校生に分かりやすく説明できる準備をしてきました。こちらの話もしっかりと聞いてくれる積極的な高校生で、雰囲気も良かったです。後輩になってくれたら嬉しいですね。」と感想を話していました。大学生と高校生がお互いに刺激し合う機会となったようです。 

系列高等学校の法学部ゼミ体験は恒例の行事となっており、これからの明治学院大学と明治学院高等学校/東村山高等学校との連携も期待されます。

法律に興味のある高校生約60名が参加しました。
大人数の前でもはっきりと意見を述べる高校生が印象的です。
分かりづらい法律用語は大学生が熱心に説明していました。
高校生の理解になるようにと資料を作成して説明するグループもありました。

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