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書評【 これからのメディア論】

メディアと社会を読み解く学びの扉

「歴史的に踏み込んだところから、現代の私たちに身近な繋がりにまで広い範囲で理解できるように書かれているところがいい」「オンライン教材があることで理解を深めやすかった。文章を読んでも少し理解しにくいところは動画で再確認することができた」

筆者は今年の4月から学部2年生を対象とする演習科目で本書を教科書として使っている。「メディア論」という学問分野にはじめて接した学生たちは、専門用語や人名をまだ難しく感じながらも、こうして教科書に対するポジティブな感想を寄せてくれている。著者が「書籍から出発してなるべく遠くまで行けるような工夫」だとした、ウェブサポートも大変好評である。大学の学びは、半年間の授業で終わるものではなく、数年間にわたる長い道のりである。過去の歴史と未来への展望が交差する中で、学生たちが「いまここ」という自分の視座を見失わないように配慮されている本書は、これから学びを深めて行く際にも心強い味方になってくれるだろう。

近年、この手の書籍は複数の専門家による分担執筆が主流になっているような印象があるが、だからこそ、1人の著者が映像文化と都市論に関する専門性を発揮して、メディアと社会の諸相を紐解いていく本書には、ほかの書籍と差別化できる読み応えがあった。なかでも、コロナ禍の3年が全地球規模の相互関係性に対する学びの時間でもあったと教えてくれる、最後の章「感染症と新しい日常」は、本書の醍醐味である。

馬 定延(関西大学文学部准教授)

これからのメディア論

大久保 遼(社会学部准教授)著
有斐閣 358頁/ 2,530円

白金通信2023年夏号(No.515)掲載

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