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書評【 帝国日本の外交 1894-1922 なぜ版図は拡大したのか 増補新装版】

『帝国』は、いかにして創られたか

帝国日本は、なぜ対外膨張の道を歩み、そこにはいかなる論理が存在したのか。本書は、日清戦争から第一次世界大戦後までの日本外交を分析し、この問いの答えに迫るものである。

帝国日本が諸外国の領土や権益を獲得した「版図の拡大」の原因としてしばしば挙げられるのは、弱肉強食の帝国主義時代という背景と、強硬な軍部や世論の存在だろう。

しかし、本書で筆者は異なる見解を示す。すなわち、日本の版図拡大を主導していたのは首相・外相・外務省といった正規の政策決定過程であり、その原動力となっていたのは、外相や有力外交官が共通して体現していた利益・正当性・それらを合わせた等価交換(公平)を重視した日本外交の原則であったと指摘する。

本書は、豊富な史料の緻密な分析により詳らかに帝国日本外交の実像を明らかにしており、本書の大きな魅力と言っても過言ではない。伊藤博文や小村寿太郎、原敬などの政治指導者は何を考え、いかにして版図拡大への合意が形成されたのか。日清、日露、第一次世界大戦の三つの戦争を経て、「帝国」が創り上げられていく過程に見出される一貫した論理が、鮮明に浮かび上がる。

重厚感溢れる一冊だが、その分、筆者が示す複雑で壮大な帝国日本外交の姿は、今日への示唆を多分に含んでいると言えよう。いつの時代であっても、外交は国のあり方を決める、政治の重要な営みなのである。

會田 航(政治三年)

帝国日本の外交 1894-1922 なぜ版図は拡大したのか 増補新装版

佐々木雄一(法学部准教授)著
東京大学出版会 451頁/ 8,250円

白金通信2023年秋号(No.516)掲載

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